第2話 運命の振り子

 連日雨天が続き、やはり解決することのないジレンマと機械に吸わせても吸いきれず漂っている湿気がしつこく肌に纏わりついているこの季節。昔と比べると家にいることが多くなったとはいえ、気が向いた時に散歩がてらに軽く歩くことは今でも好きだ。今日も歩き慣れた道を一人なんとなく歩いている。地面は湿っている。しかもこんななんでもない平日の昼間に。私と同じくらいの年齢の人たちの多くはきっと今頃学校の決められた制服を来て、ムズカシイ勉強をしているのだろう。私は久しく学校に行っていない。いじめらているとか、もちろん苦手な子はいるけれど誰かのことを強く嫌っているから苦しいだとかそういうことはない。むしろ登校すれば気を遣ってか世間話に誘ってくれたり久々だと挨拶をしに来てくれる子がいたりもするのだ。ではなぜ私は学校に足を向けられないのか。それはズバリ、ただ、教科書に書かれた内容を口頭で繰り返したものをお経のように耳に流し、意味を聞かれても定めている支配者側も答えられないようなもはや学校の意地のような校則に縛られているあの空間がつまらなくて堪らないのだ。そう、ただ暇なだけなのだ。・・・とはいうものの学校で学べることはもちろん学業だけではないことも分かっているし、校則なんてくだらない小さな規則も守れないで社会に出たら何を守れるのだと言われることも分かっている。なんて贅沢でくだらない理屈なのだろうか。


 私は何かを深く考える時、軽く俯いて左下を見る癖があるらしい。だからその声が私向かって発せられているだなんて思いもしなかったのだ。


「お嬢さん・・・、そこの電柱にぶつかる五秒前のお嬢さん」



ふと顔をあげると視界いっぱいにコンクリートの筒があって咄嗟に立ち止まった。

「ふふ、危なかったわね。ちゃんと前を向いて歩かないとダメじゃない。」

声がする方へ顔を向けるとそこには少なくとも私が生活する圏内では決して見ることのない、いやコスプレイヤーが集まるイベントなら数人はいるであろう格好をした女性が微笑みながらこちらを見ていた。少し露出が多めの服装で装飾品もゴタっとしている。瞳の色は鮮やかな紅い色でなのにも関わらず髪の毛は真っ黒でその印象的な目が更に惹きつけられるような魅惑を感じた。そして初対面にも関わらずおぞましい何かを感じた。いつのまにかあれだけ鬱陶しかったはずの湿気とやらは感じられないどころか喉がカラカラに乾くほどの焦燥感に駆られた。

「教えて頂いて、ご親切にどうもありがとうございます。それではこれで。」

あまりにも不気味な体験に私は最低限のお礼を告げて早足でその場から離れようと試みた。しかし私の思う通りにはいかなかったらしい。進行方向に立たれれば

「アナタ今からお時間はあるかしら。まあこんなド平日の昼間っから優雅にお散歩なんてできるんですもの、少々話し相手に付き合ってくださいな。」

と女性は言った。確かに彼女のいうことは間違っていないがなんて失礼な人なんだろうか。まあ図星だったのと、この後とくに予定はなかったので断ることも出来ずに私は彼女の後についていった。

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