記入者に関する情報と環境について その43

有田紗智は、全然悪びれた様子も無く、我々に向かって叫んだ。


「すみませーん、ちょっと梯子はしごを立ててくれませんか?飛び降りるには高すぎるんで」


呆気にとられる我々4人に対し、「早く、早く」と急き立てている。

空気を読むのが不得手な私でも、さすがに皆がイラついているのが分かる。


気の弱い坂本が、傍らにあった梯子を持って行き、有田紗智の居る場所に立てかける。


「早く降りて来てくれ!聞きたい事が山ほどあるから!」


こう叫ばれても、有田紗智は、ゆっくり梯子を伝って、ようやく地面に降りて来た。


「ふう。ありがとう、坂本君。ああ、疲れたー」


「疲れたー、じゃないよ。これは、一体、どういう事だ!?」


我々は、有田紗智に詰め寄った。


有田紗智は、肩に掛けた水筒から水を一口飲むと、

「はぁー、生き返る。御覧の通りですよ」

と、正門の方を指さして応えた。


「それじゃ、わからんよ。車を持ち出した奴がいるって事しか、わからん」


「車には、誰が乗っていったんだ?」


「君は、どうして外に居た?話せよ」


皆、矢継ぎ早に畳みかける。


有田紗智は、再び水を飲みながら答えた。


「じゃあ、ひとつずつ。

乗って行ったのは、私の他は中瀬さんと、武田くん、本間くん、佐々木さん。

全部で5人」


有田紗智以外の顔ぶれは、大学から出て行きたいと話していた奴らだ。

そういう意味では、出て行っても不思議ではないのだが、リーダーの佐々木が加わっているのが不可解だ。

武田と本間は、アンチ佐々木派ではないか。中瀬美月は佐々木の元彼女だが、今はアンチ佐々木派だと聞いている。

佐々木もそれは知っているだろうに、どういう風の吹き回しだ。


「それで、君は、どうして戻ってきたの」


「降りるって言って、降ろしてもらったんです。あまり大学から離れないうちに」


「そんなわけ無いだろう。外はゾンビがウヨウヨしてるんだぞ。

いくら何でも、そんな状況で降ろすかよ」


「私、ちょっと、車の中で皆と喧嘩しちゃって。

まあ、そうなるように仕向けたんですけどね」

しゃあしゃあと有田紗智は、答える。


「でも、降りる時にゾンビは、居なかったの?よく無事だったね」


「そりゃ、周りにゾンビが居ないのを見計らって、降りましたよ。

何せ、車ですから。ちょっとスピードを出せば、ゾンビを引き離すのは、簡単です。

その隙に、急いで降りたんです。


「じゃあ、徒歩で、ここまで戻ってきたっていうの?」


「そうですよ。私、離れていてもゾンビの居る位置が判りますから。

避けて通るのは、難しくないですよ」


そうだった。異常なクリプトクロム遺伝子の持ち主。

有田紗智は、オーラだか気だかが、目視できる人間だったのだ。


「それに、もうゾンビ達の動きはかなり鈍くなっているので、捕まらずここまでくるのは、意外と簡単なんです」


え?

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