記入者に関する情報と環境について その4

それにしても、なぜゾンビ達は大学の敷地しきちに入って来ようとするのか。

無論むろん、人間にみついてゾンビ仲間を増やそうとしているのだろうが、あんなに白濁はくだくした目で人間の位置を特定できるのか。


試しに、足元にころがっていた空き缶を柵の外に向かって投げてみた。

アスファルトの地面に当たった時の大きな音に、近くのゾンビが反応し、そちらに向かって歩き出した。


なるほど、音か。聞こえているのかな。


手頃な棒切れを拾って、ゾンビから遠い所の柵をカンカン叩いたところ、その音に引き寄せられるように、ゾンビ達が集まってきた。

間違いない。聴覚ちょうかくは、持っているようだ。

となると、ゾンビ達は、正門のこちら側でたむろしている学生達の声に反応していたのだろうか。


しかし、「噛みつき行動」を起こす要因ファクターとして、音だけでは不十分と判断される。

何故なら、ゾンビは空き缶や柵や棒切れには噛みついてこないからだ。

音は、ゾンビを引き寄せる効果しかないようだ。


では、次に必要な要因ファクターは、何か。嗅覚きゅうかくだろうか。

検証するため、まずハンドタオルで自分の脇の下を拭いた。

気温が高かったので、ハンドタオルには充分に汗が染み込んだ。

そればかりか、ここ数日は風呂にも入らず研究室にこもっていたため、我ながら強烈な臭いだ。好都合だ。


体臭を込めたハンドタオルを長い棒の先に結び付け、適当なゾンビの鼻先に近付けたところ、ゾンビは、勢いよくハンドタオルに噛みついてきた。

ゾンビが釣れた。


この事から、ゾンビの「噛みつき行動」を引き出す要因ファクターは、嗅覚だと考察された。


では、ゾンビは食物から栄養を補充するだろうか。

食べ残したカロリーメイトを棒に突き刺し、再び、ゾンビの鼻先に突き出した。今度は、無反応だ。

ゾンビの半開きになった口に押し込んでも、飲み込むどころか咀嚼する様子も無い。釣れない。

ゾンビの餌付けは失敗だ。


カロリーメイトではなく、他の物なら食べるだろうか。それとも、映画で観るゾンビのように、ずっと飲まず食わずのまま永遠に歩き続けるのだろうか。

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