記入者に関する情報と環境について その3

正門に回ってみた。そこでは、より多くのゾンビが確認できた。 

ゾンビは30体くらいだろうか。電子扉の向こうから、腕を伸ばしうめき声をあげている。

不謹慎ふきんしんだが、映画「ビルマの竪琴たてごと」のワンシーンを連想してしまった。


敷地しきちのこちら側には、数名の学生が居た。ある者達はおびえ、ある者達は木刀やバットで武装している。

学生達がやったのか、電子扉はくさりしばられ、開けられないようになっていた。

正門の向こう側に居るゾンビ達は、背格好や服装から判断すると、大半が大学生のようだ。

恐らく、ゾンビから逃れるため大学に駆け込もうとここまで辿たどり着いたが、電子扉が開かなくてゾンビの餌食えじきになったのか。

そのせいで、正門前にゾンビが多いのだな。


正門のこちら側に居た学生に聞いてみたところ、電子扉の向こうでまれゾンビ化する者を見たのだと言う。

嚙まれながらも必死で助けを求めていたそうだが、扉を開けてしまっては、ゾンビが入って来る。

嚙まれた者だけを敷地内入れられたとしても、後でゾンビ化するだろうから、結局は見捨みすてる他に選択肢せんたくしが無いのだ。

とは言え、そんな光景を目の当たりにしてしまっては、充分、精神的外傷トラウマになるだろうし、罪悪感ざいあくかんさいなまれるに違いない。

助かった方も気の毒だ。


そして困った事に、この時、テレビやラジオ、電話もスマホもインターネットも使えなくなっていたのだった。

我々は、外部との連絡手段を失ったのだ。


テレビもラジオも放送されていないとなると、この惨事さんじ局地的きょくちてきではなく、かなり広範囲こうはんいで起きていると考えるべきだろう。

全国か、全世界か。

いや、それは考えにくいな。日本は、列島だ。ここの陸地がゾンビだらけになったとしても、ゾンビが海を渡れるとも思えない。かなりの地域が無事であるはずだ。

それに、大学施設程度でも立てこももる事が出来たのだ。警察署や自衛隊の駐屯地ちゅうとんちならば、もっと守りはかたいだろう。いつか救援きゅうえんが来る可能性は、ある。


それはともかく、この有様ありさまでは、指導教官しどうきょうかん教授せんせいが大学に来れるとも思えない。

こうなったからには学位論文がくいろんぶんのための研究をしても仕方なかろう。


取りあえず、芝生しばふに腰を下ろし、研究室に常備じょうびしているカロリーメイトを齧りながら、柵の向こう側にいるゾンビを観察する事にした。


なるほど。

見たところ、ゾンビの動きは、かなり緩慢のようだ。今のところは。

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