実験記録 ××××年8月7日 その1

ゾンビに取り付けたモーションセンサーから送られるデータをパソコンでチェックした。


データは正常に送受信されているようだ。

解析しないと断言はできないが、ゾンビは常に動き回っているばかりでなく、時々、静止する時間もあるようだ。


移動軌跡いどうきせきから判断すると、単に室内をウロウロするだけではなかった。

まっすぐ歩いて壁にぶつかるという行動を何度も繰り返していたのだ。

ゾンビに視力がほとんど(あるいは全く)無いという事を考えると、この行動には納得なっとくできる。


ビデオカメラによる画像を見ていて疑問に思ったが、なぜゾンビは、二本足で歩くのだろうか。

ヒト型ロボットの例をげるまでもなく、二足歩行するという事は、難易度なんいどが高いのだ。

にも拘わらず、ぎこちないながらもゾンビは二足歩行している。視力が無いのに。

という事は、意外にもゾンビの神経系は、それほどダメージを受けていないのだろうか。特に平衡感覚へいこうかんかくに必須の三半規管さんはんきかんや小脳などは、まだ人間だった頃と変わらないのだろうか。


となると、ゾンビの肉体が、どれほどダメージを受けているか、気になるので調べてみたい。

だが、肝心かんじんのサンプルであるゾンビは、隣の部屋で行動データ採取の真っ最中だ。一週間くらいはデータ採取したい。

なので今日のところは、昨日のうちに採取した肉片や血液、精製途中のDNAおよびRNAサンプルなどを活用するしかない。


何か役立つ試薬は無いだろうかと冷蔵室やフリーザーを物色していたところ、IL-6とTNF-α、そしてプロスタグランジンE2のELISA(イライザ)キットが保管してあるのを見付けた。説明書も入っている。

IL-6とTNF-αは、どちらも炎症えんしょう誘発性ゆうはつせいサイトカインだ。

都合の良い事に、マウス用ではなく人間ヒト用の製品だったので、ゾンビから採取した血液で使ってみる価値はある。


まずは抗体こうたい固相化こそうかプレートをPBSで洗浄ウォッシュ4回。希釈きしゃく検体けんたいを100μℓずつ加え室温で2時間反応させ、洗浄4回。ビオチン結合抗IL-6抗体(またはTNF-α抗体)を加えて撹拌かくはん。室温で1時間反応。洗浄4回。ペルオキシダーゼ・アビジン結合物添加。撹拌し、室温で30分反応。洗浄4回。TMB発色させ、室温20分。反応停止させてマイクロプレートリーダーで吸光度きゅうこうど測定した。


最近のキットは、ブロッキングの手間も要らないらしい。トータルの作業時間も約6時間で終了するとは、ありがたい。

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