第2話

とりあえず事を穏便に済ませるには迅速にかぐやの居場所をつきとめなくてはいけない。

しかしいくら月光町で長く暮らしているからとはいえピンポイントで17歳女子のいる場所はわからない。それくらいこの町は広く、女子の心も計り知れないものだった。


※※※


薄暗い店内には水槽内の水を循環させる機械の音しか聞こえない。

壁一面に配置された水槽の中には色とりどりの水棲生物が泳いでいる。

その中の一つの水槽、尾の長い金魚のような魚をじっと眺めているといつか見た踊り子の衣装のようだなと思った。

するとそのうちの一匹と目があった、気がした。

その魚は左右をただ往復する他の魚の群れからすいと外れてこちらへとやってきた。

人懐こいやつなんだろうか、などと指でガラスをつつく真似をすると魚は先程までの優雅さをかなぐりすてたかのように文字通り牙を剥いてみせた。


「そいつら肉食だよ。暑い国の川の中にいてさ、きれいだなーて寄ってきた観光客をよく狙うの」


店の奥からやってきた男はエサ代がバカにならないとぼやきながらも愛おしげにその魚たちを眺めている。


「んで、今日はどんなコをお探し?」


黒い丸眼鏡の奥で深い海の底のような色の目がきらめいた。


「ウチの姫さん、て言えば詳しく言わなくても分かるよな。2日前から家出中、パパが心配してる」


「なるほど、そりゃ心配だ」


ゴムで束ねた金を彼に渡すと数えることもなく懐にしまい込む。


「たまにはコッチも見てってよ」


「長生きさせる自信ないからいい」


ふぅん、と不満げに長いポニーテールの先が揺れた。


「じゃあ俺に会いに来てよ。ここ寂しいんだ」


「毎回思うけどなんでここでこの商売やってるのさ。賑やかなのがいいなら他にも色々あるでしょ」


「俺はお話好きだけどパーティピープルじゃないの」


その話好きな部分が情報屋としては少々信用されておらず腕はいいにも関わらず客が少ないわけだがそれは言わないでおいた。


「暇になったら来るかも」


「暇じゃなくても来てね。お菓子用意しとく」


そして「朗湖の店」を後にした。

朗らかな湖と言う名がぴったりの魚人の男の営む店である。


朗湖の店を覗いたのち、数箇所見て回ったがやはりというか全て的外れでかぐやの影も形もなかった。

ならばと情報屋待ちの間ちょっと休むことにした。

ねぐらにしているバーに戻り、ボックス席に横になろうとした瞬間だった。


スコーン!


何かで勢いよく頭を叩かれ、顔を上げるとこの店のオーナーに睨み下ろされていた。

手にはトイレ掃除用のラバーカップを携えている。


「朝から見るたびに寝てるじゃないですか!ちょっとは店のことしてください!」


ぷんすこと憤る少女の頭上で髪色と同じ濡羽色のうさぎの耳がぴん、と立っていた。


「雪姫さん、俺一仕事終えたあとでして」


「言い訳は結構です!うちにいるならうちの仕事をしてください!」


ハイ、とラバーカップを強制的に掴まされた時だった。ポケットの中の携帯電話が鳴る。先程会ったばかりの朗湖からだった。


「はい、葉月」


ラバーカップを片手に携帯電話を耳に当てると朗湖の名前の通り朗らかな声が響いた。


「例のコ見つけたよ!」


「早いねほんと」



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