第47話 最終章 一つの物語の終わり そして……8
「わしらギルドは契約を最も重んじるのです。契約相手との信頼関係の多寡と報酬の金額の確認は無関係。契約の履行を冷静に確認するだけです」
「ふん。口の減らないじじいだ」
「
ラーラとメラニーは困ったような声を上げる。
「中身は銀貨二百五十枚しかありません」
その言葉を受け、
「契約が不履行ですな。報酬は銀貨二百五十枚に加え、金貨十四枚だったはず。不足分の支払いを早急にお願いしたい」
「報酬はそれだけだっ!」
警備隊の者は声を荒げる。
「契約ではファーレンハイト商会の遺した財産の範囲内で報酬を支払うことになっていた。それしか財産がなかったんだよっ!」
「おかしいですな」
「私らギルドも会計はまるっきりの素人ではない。あれだけの馬車があって、金貨十四枚の報酬を賄えないほど、財産がなかったとは考えられない」
「
いったん鎮まった僕の中の怒りがまたぶり返して来た。
僕の時のことはもういい。財産は横領されたが、代わりにデリアに出会えたし、強くもなれた。第一、僕の時は、野盗から接収した財産の一部を遺児の僕に渡すという契約がなされていなかった。
だが、今回は話が全く別だ。予め野盗から接収した財産のうち金貨十四枚を
「やはりおかしいですよ」
僕は後ろ手に
「
警備隊の者に焦燥が走る。
「勝手なことを言うな。金貨四十枚など受け取っていない」
「そんなことはありません。僕は確かに聞いています」
警備隊の者の焦燥が強くなる。
「
次に僕が発した言葉には僕自身が驚いた。
「僕は会計の素人ではありません。ギュンター商会現当主クルト・ギュンターです」
◇◇◇
「!」
僕の言葉に警備隊の者は絶句した。
「ギュンター商会の生き残りであるこの僕が廃業宣言していない以上、ギュンター商会は存在する。ファーレンハイト商会もエルンストとデリアが連名で廃業宣言しない限り存続しているのと同様です」
「きっ、貴様っ! ギュンターのガキかっ! 野垂れ死んだんじゃなかったのかっ!」
「僕の生死もギュンターの遺産も今となってはどうでもいい。八年も過ぎましたしね。しかし、ファーレンハイトの遺産は話が別です。契約も交わされている。金貨十四枚お支払いください」
「……」
警備隊の者はしばしの沈黙の後、言葉を継いだ。
「金貨十四枚を支払うことは出来ない」
僕の
「何故です?」
「王都の高級宿で十日間やった祝勝会で残りの金は全部使い切っちまった。やむを得ない。祝勝会は必要経費だ」
次の瞬間、僕の中で何かが切れ、警備隊の者に向けて、
「クルト君っ! いけないっ!」
「駄目だっ! クルト君っ!」
デリアとハンスさんの制止の叫びも僕を止めることは出来なかった。
◇◇◇
怒りに燃える僕の突き出した
しかし、ハンスさんの
「ぬおっ」
それでも僕の
「ぐおおっ」
ちっ、仕留め損なったか。しかし、第二撃では必ず。
「クルトッ! やめろっ! 警備隊は王軍とつながりがある。うちのギルドごと潰されちまうぞっ!」
「ハンスッ、クルトを止めろっ! 今のクルトを止められるのはおまえしかいないっ!」
「クルト君。強くなったね。こっちも全力で行かせてもらうよっ!」
◇◇◇
僕は激昂していた。
反面、僕の頭の芯は驚くほど冷静だった。ハンスさんが僕の
そして、それは僕の想定通りになった。
「くっ」
ハンスさんの
そして、僕の
◇◇◇
貫かなかった。いや、貫けなかった。
僕の体は警備隊の者の心臓を貫く直前で動かなくなった。いや、動けなくなった。
それでも、気力で動かさんとした。わずかに動いた。
「ひいいいい~」
警備隊の者はその場にへたり込み、そして、失禁した。
◇◇◇
「驚いたね」
その声の主はナターリエさんだった。
「私の『
そうか。僕の体を動けなくしたのは、ナターリエさんの
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