第46話 最終章 一つの物語の終わり そして……7
余裕が出来た僕らには周囲の状況が見えて来た。
「おいっ! まだ隠しているお宝があるだろう? そこに案内しろっ!」
「そっ、そこの馬車に積まれているので全部だ。後は知らない」
「隠すなっ! 白状しろっ!」
「本当に知らないんだ」
「そうか。役に立たない捕虜はいらない。死ねっ!」
「
見ていた別の捕虜たちの顔色は真っ青になる。
「次はおまえだ。さっきの奴みたいになりたくなかったら、とっとと隠したお宝の在り処を白状しろっ!」
「まっ、待てっ! 本当に隠したお宝のことは知らない。でも、俺は役に立つ。警備隊の戦闘員にしてくれっ!」
その言葉に警備隊の者は冷たい笑いを浮かべた。
「警備隊に入れるのは家柄が優れた者だけだ。
捕虜はほとんどの者が隠された財産のことを知らず、そのまま斬られた。ごくわずかにどこかに警備隊の者を案内して行った捕虜もいたが、情報を全て出し切った上でやはり斬られたようだ。
どんなに不遇の身になっても「野盗」にだけはなってはいけない。嫌と言う程思わされた。
◇◇◇
「うん。思ったよりありましたね。これなら金貨三十五枚でいかがでしょう?」
警備隊の者のこの商品類をいくらで買い上げるの問いに随行してきたオッペンハイム商会の者が答える。
「ふん」
警備隊の者は鼻を鳴らし、もう一つのフレーベル商会の者に振り返る。
「オッペンハイムはこう言ってるぞ。
フレーベル商会の者はおずおずと答える。
「では、我々は金貨三十七枚で」
「せこいなあ。おまえ」
警備隊の者はフレーベル商会の者をどやしつける。
「ちまちま刻むな。金貨四十枚って言えっ!」
「ええっ?」
驚きの声を上げるフレーベル商会の者。
「それだと我が商会の利益がほとんどなくなり……」
「文句あんのか?」
「いっ、いえ、金貨四十枚でやらせていただきます」
警備隊の者は今度はオッペンハイム商会の方を振り返る。
「フレーベルはこう言ってるぞ。オッペンハイムは金貨四十枚にいくら上乗せする?」
オッペンハイム商会の者は青ざめる。
「わっ、我が商会も金貨四十枚がギリギリであります」
「何だと。せこい野郎だな」
「で、では、このようなサービスはどうでしょう?」
「何だ? サービスてえのは?」
「警備隊の皆様方、この後は王都の高級宿で祝勝会を上げられるのでしょう?」
「まあな。祝勝会は八年前にギュンター商会を襲った
ん? ギュンター商会? 僕の家だったところだ。戦況も勝ちは間違いないところまで来ているし、僕は会話に更に耳をそばだてる。
「手前どもは帝都の高級宿に少々口が利けます。今回の件、手前どもにお任せいただければ、安く出来るよう取り計らせていただきやしょう」
「ほ、ほう」
警備隊の者は下卑た笑いを浮かべる。
「八年前は一週間貸し切りで、一人につき女二人だった。
オッペンハイム商会の笑い方も下品だ。
「こたびは十日間貸し切りになるよう取り計らいましょう。失礼ながら腰の方は大丈夫でございますか?」
「ふっ、野暮なことを申すな。我らは警備隊だ。そっちの方は鍛えに鍛えておるわ」
ガハハハハ
警備隊とオッペンハイム商会の者の下品な笑い声は大きくなった。
僕は絶句した。そんなことがあったのか。
確かに僕はギュンター商会の者たちには家族を含め、あまり親しみを感じていなかった。だが、正当な遺産相続の権利を持つのは僕だったはずだ。その遺産がそんな使われ方をしていたとは……
やり切れぬ怒りに
この時、いつも通り僕の脇にカール君とヨハン君がいれば、僕の異変に気が付いただろう。
でも、戦いはもはや掃討戦に入っていた。カール君もヨハン君も残敵との戦闘に忙殺されており、近くにはいない。
ガハハハハ
警備隊とオッペンハイム商会の者の下品な笑いは続いている。怒りで反吐が出そうだ。
僕の
◇◇◇
怒りを持って、警備隊とオッペンハイム商会の者たちの方を僕は振り向いた。
その時……
デリアと目が合った。
デリアもそれに気付くと、僕に向かって手を振って来た。
そして、そのことで僕の怒りのボルテージは一気に下がった。
そうだ。そうだった。僕の受け取るべき遺産は確かに横領された。でも、そのことで僕は強くなれたし、何よりデリアに出会えたんだ。
うん。あのことはもう忘れよう。それに今回はギルドへの報酬と
◇◇◇
ガシャーン
その布袋は無造作に放り投げられた。
「おらよっ、報酬だ」
そんなぶっきらぼうな言葉を添えられて。
「ありがとうございます。おいっ、中身を確認しろっ!」
「本当に失礼な奴だな。
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