第45話 最終章 一つの物語の終わり そして……6

 ナターリエさんが魔法マジックをかける。その隣をハンスさんががっちりと守る。


 やがて、背後に数えきれない程の「魔法の矢マジックアロー」が姿を現す。


 上級ハイレベル魔法マジックの「魔法の矢マジックアローテンペスト」だ。僕も見るのは初めてだ。戦場フィールドに緊張が走る。


 ナターリエさんがゆっくりとミスリル製の杖を振り降ろすと「魔法の矢マジックアロー」は一斉に大野盗団だいやとうだんに襲い掛かる。


 自動追跡ホーミング機能付きだから、敵が「魔法の矢マジックアロー」を叩き壊すか、その身に刺さるまで止まることはない。


 大野盗団だいやとうだんの中の多くの者をほふった後、ハンスさんが先に駆け出す。


 遅れてはならない。僕とカール君とヨハン君もスピアを持って後を追いかける。


 その時、一陣の風が吹いた。そして、どおっと音がした。


 話には何度も聞いていた。でも、実際に見るのは初めてだ。


 ハンスさんの必殺技、ソードを横に薙ぎ払う「水平疾風斬り」。五人の敵が一挙に倒された。


「馬鹿野郎っ!」

 不意に後方から声がする。

「見境なく野盗を殺すなっ! お宝の隠し場所を白状させられなくなるだろうがっ!」

 警備隊の連中だ。前に出て戦おうともしないくせに何を言ってるんだ。


「気にしなくていいよ」

 ハンスさんはあくまでクールで穏やかに言う。

「下手に手加減したら、こっちが命を落とすことになる。その時は誰も補償なんかしてくれないんだ」

 だけど、その目つきは厳しく鋭かった。


 ◇◇◇


 僕らも負けてはいられない。強力な魔法をかけてからの「水平疾風斬り」がハンスさんとナターリエさんのコンビネーションなら、僕らにもコンビネーションがある。


 僕がスピアの柄を使って、敵の態勢を崩したところをカール君とヨハン君が敵の急所、喉や心臓を突きさしていく。


 うん。敵は確かに強い。だが、かつてカール君とヨハン君、カトリナにパウラ、そして、デリアとノルデイッヒを往復した時ほどの脅威は感じない。


 これなら行ける。多少手間と時間はかかるかもしれないけど、大きな損害なくこの戦闘も勝てそうだ。そう僕が思った次の瞬間……


 ズドッ ズドッ ズドッ


 僕たち三人の足元に次々矢が刺さる。油断した。危ないところだった。


 ふと見ると、敵の後方に射手アーチャーが何人もいる。くそっ、そんなものまでいたのか。これは気を付けねばと思った次の瞬間


ゴオオオオオ 


 敵の射手アーチャーが火におおい尽くされた。これは「メガ火炎ファイヤ」。カトリナの得意な魔法マジックだ。これが出たということは次はあれが来るぞ。


 敵の射手アーチャーは火の中で右往左往。デリアが「混乱コンフュージョン」を使ったのだ。後ろを見るとデリアがサムズアップ。うんこれで、後方からの矢の狙撃の心配は要らない。前方の敵に専念でき……


「馬鹿野郎っ! 見境なく野盗を殺すなと言ってるだろズドドドドドドドーン……


 警備隊の鬱陶しい声は大きな雷鳴にかき消された。何だか気分がいいぞ。これはナターリエさんの上級ハイレベル魔法マジックの「ギガ雷光サンダー」だな。これも実際に見るのは初めてだな。いい勉強もさせてもらっているよ。


 ◇◇◇


 敵の遠距離攻撃を味方の遠距離攻撃が完全に沈黙させた。更に味方の遠距離攻撃が敵の直接攻撃要員をも攻撃している。こちらは本当に戦いやすい。


 そのせいか戦況はこちら側の優勢が明らかになってきた。敵の中には武器を捨てて逃走する者も出て来た。潰走するまで時間の問題だろう。


「何やってんだっ! おまえらっ! 敵を逃がしてどうするんだっ! 捕虜にしろっ! こっちでお宝のありかを尋問するからなっ!」


 ああっ、もうっ、鬱陶うっとうしいな。ナターリエさん、もう一発「ギガ雷光サンダー」出して、あの警備隊の声雑音消してよ。


 僕の心の声が届いたのか、ナターリエさんはミスリル製の杖を振り上げた。


「おいっ、おまえっ」


 自らに対する警備隊からの直接のご指名にナターリエさんは静かにミスリル製の杖を下げた。魔法マジックは発動していない。

「何でしょう?」


「おまえ、相当力量のありそうな魔法使いマジックユーザーだな。『麻痺パラライズ』も使えるな?」

 

「はあ、使えますが」


「なら、敵方の兵に『麻痺パラライズ』をかけろ。動けなくして捕虜にする」


 せこ 


 僕は思った。そして、ナターリエさんは思い切りミスリル製の杖を振り上げた。


「わーっ、待てっ! 待てっ!」


「何でしょう?」

 ナターリエさんはまたも静かにミスリル製の杖を下げた。魔法マジックは発動していない。


「おまえ、今、『ギガ麻痺パラライズ』かけようとしてなかったか? それじゃ心臓まで麻痺して、相手死ぬだろうがっ!」


 その時のナターリエさんは警備隊に見えないように「ちいっ、ばれたか」という顔をした。


 そして、軽くミスリル製の杖を振ると、たちどころに十人の敵が崩れて、立ち上がれなくなった。


「よーしっ、立てなくなった奴らは警備隊俺たちが捕縛する。ギルドメンバーおめえたちはその先にいる敵をれ。一人も逃すな」


 勝手なもんだ。敵を倒せば経験値が増えるからやるけど、一人も逃すなってのは無理だよ。ある程度やっつければ組織的な抵抗は出来なくなるから。


 そこから先はほぼ掃討戦だった。


それでも果敢に立ち向かって来る敵もいたから、僕たち戦士ファイターの仕事が全くなくなったわけではない。


 でも、ほとんどの敵は散り散りばらばらに逃走していくから、それを倒すのは魔法使いマジックユーザーの仕事になる。

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