第43話 最終章 一つの物語の終わり そして……4
「うおおおーっ! 死ねっ!」
かけ声と共に突進するエルンスト。だが……
カトリナは屈んで
「うぐおっ」
「うぐっ」
倒れ込むエルンスト。そんなエルンストにカトリナは声をかける。
「そう。
「姉さんっ!」
エルンストがデリアを呼ぶ。
「何ですか? エルンスト」
デリアは冷静だ。カトリナがちゃんと手加減してくれたことが分かっているのだ。
「すぐ僕に『
「大した傷でもないでしょう。
「そうじゃないよっ!」
エルンストは語気を強めた。
「早く
「こいつって、そんな失礼な。カトリナちゃん、どうする?」
困惑顔でカトリナを見つめるデリア。
「いいですよ。デリアちゃん。『
カトリナの言葉にデリアはエルンストに「
エルンストはその後十回に渡り、突撃を繰り返し、いずれも返り討ちにあった。そして……
「姉さんっ! 『
「もう『
あきれ果てたような
「くそっ! 仕方ない。明日は勝つからなっ!」
「えっ? エルンスト、明日もカトリナちゃんに挑戦するつもり?」
「当然、勝つまでやる」
「今の自己流の武術じゃ何回やっても勝てませんよ」
「そ、そうなの?」
焦って周りを見回すエルンスト。武術の師匠を捜しているらしい。だけど、みんな目を逸らす。
僕とはばっちり目が合ったが、これは向こうの方から目を逸らした。自分から大事な
もう一人エルンストから目を
「おいっ、おまえっ! 僕に『武術』を教えろ」
「エルンストッ!」
さすがにデリアが
「人にものを頼むのにそういう言い方がありますかっ! そこは『カトリナさん。僕に『武術』を教えて下さい』でしょう」
「そ、そうなの。カトリナさん。僕に『武術』を教えて下さい」
それに対するカトリナの回答は意外だった。
「
「!」
エルンストの顔は青ざめた。いかな大商人の次男坊とはいえ、今は一文なしの身だ。
「で、でも、全然お金がないんだ。今は」
それを見て、カトリナはクスリと笑う。
「お金は要りませんよ。でも、二つだけ条件があります」
「条件? それって?」
「そう。一つ目はエルンスト君。あなたはファーレンハイト商会の次期当主としてではないにしても、将来の有力者として育てられてきたのでしょう?」
「うっ、うん。いや、はい。死んだエトムント兄さんがノルデイッヒに本店を戻して、僕は
「では、ある程度の大きさの商会が扱う会計や取引の仕方について教わってますね?」
「うっ、あっ、はい。まだ基礎的なところだけだけど」
「十分です。それを私に教えて下さい」
「え? どうして? 冒険者のおまえ、いや、あなたがそんなことを知りたいの? いや、知りたいのですか?」
「私はね……」
この時のカトリナは少し寂しそうな微笑を浮かべたんだ。
「今は冒険者として、
「!」
「それまでに一つでも多くのことを覚えなければならない。だから、私が知らないことを知っている人は大歓迎なんです」
「え? おまっ、いや、あなたはずっと
「それは最初からそういう約束なんです。カロッテ村はここから歩いて三日くらいのところにある郊外の村です」
「…… カトリナ……さんはずっと
あれ、呆然としてしまったエルンストをデリアがじっと見ている。今の会話で何か気になることがあったのかな? カトリナがいずれ村長になるためにカロッテ村に帰るのって、デリアもよく知っていることなのに。
「それで、エルンスト君。私にファーレンハイト商会の会計や取引の仕を教えてくれるのですか?」
呆然としていたエルンストは我に返り、答える。
「あ、はい。僕の知っている範囲で良ければ……」
この答えにカトリナは笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
あ、よく考えてみれば、僕も大きい商会が扱う会計や取引の仕方について、教わる前にギュンター協会が潰されちゃったから、一緒に教えてもらえると嬉しいな。混ぜてもらおうかな?
ぐいっ
そこまで考えた僕の袖をデリアが引っ張った。ど? どうしたの?
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