第41話 最終章 一つの物語の終わり そして……2

 二十人ほど来たそのメンバーは後ろに頭がつくのではないかと思えたくらいふんぞり返っていた。


 だが、幾多の戦闘経験がある僕には、その中の多くの者の足が小刻みに震えていることが容易に見て取れた。


 他のギルドメンバーにも分かっていただろう。


 彼らは虚勢を張っているのだ。


「三日後の朝をもって、ロスハイムとノルデイッヒの間に居座る大野盗団だいやとうだんの討伐を行うことにした。ロスハイムギルドには五十名の動員と先鋒を申し付ける」

 二十名の最前列中央に陣取る一際体の大きなその男はそう言い放った。体の大きさは鍛えられたからではない。美食の果てだろう。


「それはそれは」

 こちら側で対応するのは、もちろんゼップさんギルドマスターだ。

「で、三日後でよろしいので?」


「なっ、なっ、何だ? 三日後では早いと言うのか?」

 あからさまに焦りを見せる相手方の男。


「いえいえ、三日後とは随分悠長だなと思いましてな。ロスハイムギルド我らであれば一日あれば準備できます故」


「ちいっ!」

 相手方の男は大きな舌打ちをした。だが、我らがゼップさんギルドマスターは涼しい顔だ。

「冒険者風情と違って、我ら警備隊は礼に則った装備も要るのだ。貴様らなどと一緒にするなっ!」


「それはそれは、大変なことで……」

 ゼップさんギルドマスターはここでコホンと咳払いをしてから続けた。

「で、報酬は? こちらの相場からするとギルドメンバー一人につき銀貨十枚と言ったところですが、他ならぬロスハイムこの町の警備隊様の御依頼。一人につき銀貨五枚に割引させていただきましょう」


「なっ、何を言うのだ。貴様っ!」

 警備隊の男は苛立ちを見せた。

「金を取る気だと? ロスハイムとノルデイッヒの間に大野盗団だいやとうだんが居座っていて、困るのは貴様らだろう。こちらはそれを退治してやろうというのだ。無料ただで従うのが当然だろう」


「それは異なことを」

 ゼップさんギルドマスターの眼光が鋭く光る。

「『ギルド』とは報酬を受けて初めて仕事するもの。無料ただで働くことは未来永劫みらいえいごうありませぬな」


 ゼップさんギルドマスターの気迫に圧倒されそうになった警備隊の男だが、辛うじて言い返す。

「ふん。では貴様ら『ギルド』の者は今のまま大野盗団だいやとうだんが居座っていてもいいというのだな」


「ふっ」

 ゼップさんギルドマスターは軽く嘲笑う。

「そう、確かに大野盗団だいやとうだんに居座られ続けると、交易にも支障が出ますな。これは良くない。やむを得ませんな。ロスハイムギルド我らだけで大野盗団だいやとうだん退治をするといたしましょう」


「貴様あっ!」

 警備隊の男は語気を荒げるが、ゼップさんギルドマスターは一向に動じない。警備隊の男には悪いが役者が違う。


 警備隊の目的は大野盗団だいやとうだんが略奪したファーレンハイト商会の財産だ。ロスハイムギルドだけで大野盗団だいやとうだん退治をされると、それが全く手に入らなくなってしまう。それが一番困ることなのだ。


 かと言って、警備隊のみで大野盗団だいやとうだん退治をする自信も実力もない。それは当人たちも分かっている。


「ちいっ!」

 警備隊の男はまたも大きな舌打ちをすると続けた。

「仕方がない。一人につき銀貨五枚で手を打とう。だがな、金は大野盗団だいやとうだんから奪い返したものから払うから、それだけの金が取れなかったら払わんぞ」


「そのようなことはありますまい。ノルデイッヒの交易を独占していたファーレンハイト商会の一大商隊キャラバンですぞ。それくらいは、はした金のはず」

 

 ゼップさんギルドマスターのもっともな疑問に、警備隊の男は意外な方法で答えた。

「それがそうでもないんだよっ! おいっ! あのガキを出せっ!」


 ! 警備隊の男たちの後ろから、前に突き飛ばされたのはデリアの弟、ファーレンハイト家の次男エルンストだった。


「エルンストッ!」

 デリアが前に飛び出し、転びそうになったエルンストを支える。そして、鋭い目で警備隊の男を睨みつけた。

「何ですっ? あなたたち。エルンストに何をしたんですっ?」


 警備隊の男はぶっきらぼうに答える。

「何もしてねえよ。当主が殺されたと知れ渡ってから、ファーレンハイト商会に売掛金やら貸付金の取立人が山ほど来て、エルンストこのガキと揉めてやがったから、姉がいるというここに連れて来たまでだ。ファーレンハイト商会っては借金まみれだったみたいだぜ」


「でたらめ言うなっ!」

 エルンストが警備隊の男を怒鳴る。

ファーレンハイト商会うちは他からうらやまれるくらい、儲かってたんだ。借金まみれなんてわけがないっ!」


「それはエルンストの言う通りです」

 デリアが冷静に付け加える。

「私はここのギルドの受付嬢をやっているので、会計は多少分かります。ファーレンハイト商会実家は、感心しない取引をしていたのは事実ですが、借金まみれということはあり得ません」


「ふん」

 警備隊の男は鼻を鳴らした。

「だったら、デリアてめえでも、エルンストてめえの弟でも、それを言って、その取立人どもを追っ払ってこい。言っとくが、警備隊俺たち取立人あいつらに付くからな。立ち合い手数料を払ってるんだ。取立人あいつらは」


 なっ、言ってることがおかしいぞ。もともと、警備隊はファーレンハイト商会やギルドを含む全市民から警備料を徴収して成り立っているじゃないかっ! なのに、その場で手数料を払った取立人に加担する? 金が取れれば何でもいいのかっ?


 僕の右手は自然に後ろにあるスピアを握っていた。それを今にも前に突き出さんとしたその時……

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