第33話 第4章 少女冒険者 嵐の前の恋と戦いと8

 ノルデイッヒの手前でまた野盗の襲撃を受けた。前回の襲撃ほど敵は強力ではなかったけれど、問題なのは、前回で「治癒キュア」をほぼ使い切ってしまっていたことだ。


 私とカトリナちゃんは敵が近づく前に「攻撃魔法」を駆使し、敵のHPヒットポイントを削ったが、やはり「魔法耐性マジックレジスト」を持っているらしく、全部は倒し切れない。


 そのうち敵味方入り乱れての乱戦になり、ギリギリのところで勝利した私たちは倒れ込むように、ノルデイッヒの城門にたどり着いた。


 最初に門番に接したカール君は、自らのロスハイムのギルドの所属証を提示し、残りの六人も同じものを持っていると伝え、入城を求めた。


 だけど、それに対する門番の答えは意外なものだった。

「おい、待てよ。お前ら」


「何か?」

 カール君が問い返す。


「お前ら冒険者だと? 何だその恰好ボロボロじゃないか? お前ら本当に冒険者か?」


 何を言っているのだろう? この門番は? 冒険者だからボロボロなんじゃないの。


「冒険者です。所属証のとおりです」

 カール君の答えに門番はなおも言ってくる。


「そこの若いの、二つ名を言ってみろ。俺が知っていたら、通してやるよ」


「いえ、まだレベルが低いので、二つ名はありません」


「ほらみろ。二つ名がないような弱い奴は今のノルデイッヒには来られないんだよ。危なくてな。おまえ、野盗じゃねえのか?」


 なっ あまりの暴言に言葉を失うカール君を下げ、クルト君がゆっくりと前に出る。


「僕はロスハイムの『僧侶戦士のクルト』です。この二つ名はあなたもご存知でしょう?」


 私は驚いた。普段のクルト君は目立つ行動はしたがらない。そのクルト君がここまでするなんて。言葉には相当な怒気がこもっている。


 門番は一瞬、クルト君の迫力に怯んだが、ちらりと一瞥すると

「ふん。お前が『僧侶戦士のクルト』である証拠がどこにある」


 次の瞬間、クルト君は後ろ手に持っていたスピアを前に突き出さんとした。


 駄目っ、クルト君っ!


 ◇◇◇


「カールッ、ヨハンッ、デリアッ、クルトを止めろっ! 失礼、私はロスハイムのギルドマスター『不敗の指揮官ゼップ』です。わしのことはご存知でしょう。ご存知なければ、ノルデイッヒここのギルドマスターのトマスを呼んで来ればよろしい。証人になってくれましょう」


「ふん。ロスハイムじゃどうだか知らねえが、ノルデイッヒここじゃギルドなんかちっとも偉かねんだよ」


「ほう。そうでしたか。失礼。では、これで」


 ゼップさんギルドマスターは門番の手を握り、何か渡した。


 門番は渡されたものを見ると、不機嫌そうに言い放った。

「最初からこうすりゃいいんだよ。ほれ、とっとと入れっ!」


 金貨を一枚握らせたことは後で知った。


 ◇◇◇


「わしが駆け出しの頃、今の門番みたいなのが多かったのさ。わしもトマスも心ある商人や領主もああいうことはなくしていこうと話していたんだ」


「……」


「その甲斐あって、そういうことはなくなって来てたんだがな。これはトマスと話すことが増えたな」


 みな歩きながらゼップさんギルドマスターの話を聞いているが、クルト君は痛々しいくらい落ち込んでいる。


「どうした。クルト。元気出せ」

 ゼップさんギルドマスターはクルト君の背中をバンと叩く。


「はあ。すみませんです。ゼップさんギルドマスター

 やはり、クルト君は元気がない。


「まあ……」

 ゼップさんギルドマスターは続ける。

「自分のことは結構後回しの癖に、自分の彼女や後輩が傷つきそうになったり、馬鹿にされたりすると頭に血が昇るんだよな。クルトおまえさんは」


 え? それは?


「さっき怒ったのも、あの門番がクルトおまえさんが『僧侶戦士』であることを認めなかったことなんざ、どうでもよくて、その前にカールが馬鹿にされて、クルトおまえさんが名乗っても、相手が訂正しなかったからだろう」


 ! そうです。クルト君はそういう人なんです!


 ふと周りを見ると、カール君もヨハン君もカトリナちゃんもパウラちゃんもしきりに頷いている。あらら。


「はあ」

 クルト君はまだ元気がない。


 ゼップさんギルドマスターは大笑い。

「わしはクルトおまえさんのそういうところ好きだぞ。いや、ここにいる全員がそうだろう。だがな……」


「……」


「その怒りがギルド全体や周囲の人間を危機に巻き込むこともある。それだけは気を付けてくれ。おい、そこのデリア彼女ッ!」


 うわっ、いきなりこっちに来た。

「はっ、はいっ」


「よーく見守ってやってくれや。クルトこいつには、わしやハンスを超える『取りまとめ役』になる素質があるんだからな」


 ゼップさんギルドマスターはここまで言うとガハハハハと笑い出した。やっぱり、グスタフさんのお師匠だ。豪快なところがある。


 うん。でも、頑張るぞ。クルト君を最高の「とりまとめ役」にするんだ。


 ◇◇◇


 ノルデイッヒのギルドではギルドマスターのトマスさんが迎えてくれた。

「おうおう。汚えじじいがますます汚くなったじゃねえか。ゼップ」


「何言いやがる、てめえなんか戦闘してなくても汚えじじいじゃねえか。トマス」


 ゼップさんとトマスさんは肩を叩き合って、笑い合った。仲いいんだな。お二人。


「で、どうするよ。話は長くなりそうだし、おめえらは疲れ切っているだろうし、今日は休んで、明日にした方がいいだろ。ゼップ」


「ああ、どこかいい宿紹介してくれねえか、トマス」

 

 ゼップさんギルドマスターの依頼の言葉にトマスさんは不意に真剣な表情になった。

「いや、正直、今のノルデイッヒこの町には安心して勧められる宿はねえ。若い女の子もいるみたいだしな」

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