第30話 第4章 少女冒険者 嵐の前の恋と戦いと5

ゼップさんギルドマスターは寄り道を許したが、最強パーティーは僅か五日で帰ってきた。


 ハンスさんは、恭しくノルデイッヒのギルドマスターであるトマスさんからの返信の手紙をゼップさんギルドマスターに渡した。


 一度、深呼吸をしてから返信の手紙を開いたゼップさんギルドマスターはゆっくりとそれを読み、更に二度三度と読み返してから、大きく頷いた。


「みんな聞いてくれ。わしは直接ノルデイッヒに行って、トマスと直に話すことにした。ついては、わしの護衛をお願いしたい。もちろん、わしから報酬は出す」


「それは僕らをご指名ですか?」

 ゼップさんギルドマスターの言葉に、すぐにハンスさんが反応する。


「いや、今回はわしが長期間ロスハイムここを不在にする可能性がある。ハンスはクラーラと協力して、ロスハイムここのギルドを守ってくれ」


「…… 分かりました。では、ゼップさんギルドマスターが護衛クエストを発注する相手は?」


「六人の臨時編成のパーティーを組んで、それに護衛してもらいたい。メンバーはわしから指名する」

 ゼップさんギルドマスターは、懐からメモを取り出す。どうやら、先にメンバーを選抜していたようだ。


 ギルドはしんと静まり返る。ハンスさんに留守の守りを頼む以上、ナターリエさんも留守番の方だろう。なら、誰が行くのだろう?


 メモの中身がゆっくりと読みあげられる。

前衛フロント中央センター戦士ファイター。攻撃の要だな。ここは……」


「……」


「クルト」


 クルト君が指名された! 思わずクルト君の方を見ると、「え?」という顔をしている。ちょっとー、クルト君! クルト君!


 ◇◇◇


「クルトッ! 呼ばれたら返事をしろっ!」

 ゼップさんギルドマスターが強い口調で言う。


「はっ、はい……]

クルト君は返事はするが、「え? 僕なの?」という表情は変わらない。


 擁護すると「自分なんかまだまだ」という考え方が骨の髄まで染みついている人なのだ。私的にはそこがいいというのもあるのだけれど……


「次に他の前衛フロントっ! 左翼レフトにヨハンッ! 右翼ライトにカールッ!」


「はいっ!」

「はいっ!」


 クルト君のことがあったので、次に呼ばれた二人は元気よく返事をする。この二人は夜にクルト君にスピアの使い方を教わっている、言わばクルト門下生だ。


「そして、後衛バックだっ! 第一ファースト魔法使いマジックユーザーにカトリナッ!」


「はいっ!」

 一際、元気な声がギルドを席捲する。自信満々の表情のカトリナちゃん。むむむっ。


第二セカンド魔法使いマジックユーザーにデリアッ!」


「はいっ!」

 レベルではカトリナちゃんに及ばないけど、元気の良さでは負けるもんかっ!


 チラリとカトリナちゃんの方を覗うと、何とドヤ顔!


 くっそー、今は後塵を拝していますが、追い付いてやりますよ。そのうちに……


後衛バックの最後、僧侶プリーストのパウラッ!」


「はい……」


 うーん。ちょっと元気なかったかな? まあ、私とカトリナちゃんが威勢良すぎるという見解もある。現にゼップさんギルドマスターは特に注意もしない。


「以上の六名に『護衛クエスト』を発注するっ! 出発は明朝。各自準備おこたりなきように」


「はいっ!」


 ◇◇◇


「ふーん。十年後に僕らに肩を並べそうな有望株で固めてきましたね」

 腕組をしてしきりに頷くハンスさん。


「それもあるけどね。もう一つ理由があるようだよ」

 そんなハンスさんに声をかけるナターリエさん。


「ほう。何か気づいたの?」


「六人の出身地さ。クルト君はロスハイムここだけど、デリアちゃんはノルデイッヒの市民権を持っていた。私の姪のカトリナは郊外のカロッテ村出身。ヨハン君とパウラちゃんはシモーネさんがオーベルタールから『武者修行』のため、送り出してきた子たち。カール君はファスビンダーから自ら希望してここに来たんだよね」


「この辺の各都市、村の出身者を出来るだけ漏れのないよう選抜した。つまりこれは……」


「恐らくゼップさんギルドマスターはノルデイッヒのトマスさんギルドマスターとの会談にこの子たちを立ち会わせるつもりだと思う」


「つまりそれは?」


「今回のことをこの地方全体の将来のこととつなげて見据みすえているのじゃないかな?」


「ふーむ」


 ◇◇◇


 今回は私とカトリナちゃんが一緒にクエストに参加する初めてのケース。


 ギルドの受付はラーラちゃんとメラニーちゃんに託した。この二人、シモーネさんがオーベルタールから『武者修行』のため、送り出してきた子の中でも際立って、会計事務が優秀だ。


 私とカトリナちゃん抜きで独り立ちできるようになるチャンスである。それにいざとなれば、クラーラさんがいる。うーん。ロスハイムうちのギルド、層が厚いね。


 かくて、ハンスさんの言うところの「十年後の最強パーティー」はノルデイッヒに向かって出発した。


 どうかなとも思ったが、ゼップさんギルドマスターはさすが昔取った杵柄。私たちに負けない健脚。これなら歩く方は心配いらない。


 戦闘の方だけど、正直、ロスハイムの周辺にいるような「魔物モンスター」や野盗はこのパーティーの敵ではなかった。


 私とカトリナちゃん、パウラちゃんは全くもって出番なし。


 何でって、前衛フロントの三人は敵を確認するや否や突撃。得物たるスピアを振り回すわ、突き刺すわで、あっという間に相手を駆逐する。


 少し知恵のある「魔物モンスター」や野盗は、向こうの方から近づいてこない。


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