第29話 第4章 少女冒険者 嵐の前の恋と戦いと4

 その後はカトリナちゃんが型を教えていたりしたが、最後は二人一組の実戦練習となった。カトリナちゃんは私に声をかけてきた。

「デリアちゃん。もう一戦やりませんか? このままじゃ収まらないでしょう」


「やりますとも」

 私は杖を片手に立ち上がった。


 今度はカトリナちゃんが大きく振りかぶる前に私は距離を縮めた。助走距離を取らせず、懐に入り込む作戦だ。


「ふふ。そう来ましたか?」

 カトリナちゃんは嬉しそうだ。私もどことなく楽しい。


 カトリナちゃんは杖を真正面に構える。様子を見る限り、回避する様子はない。受け止めるつもりか。


 ようしっ! 今度は私の方から突進する。ただ、距離が短い。振りかぶりは小さく。


 ガツンッ


 カトリナちゃんは真正面から受け止めてきた。手が痺れる。だけど、負けてなるものか。


 ガツンッ ガツンッ


 二合三合 木の杖同士でも思いのほか大きな音が出る。カトリナちゃんの顔は真剣だ。そうこなくちゃいけない。


 ガツンッ ガツンッ


 私たちはいつしか無心で打ち合っていた。周囲で練習していた子たちはその手を止め、私たちの対決に見入りだしたそうだが、その時の私はそんなことには全然気づいてなかった。


 ガツンッ ガツンッ


 もう何合目だろう。カトリナちゃんが大きく振りかぶった。次で勝負が決まる。私も振りかぶる。


 ガッツーン 


 一際、大きな音をたて、杖同士がぶつかった。そして…… あーっ!


 ピシピシピシと音をたて、双方の杖が砕けた。


 私もカトリナちゃんも絶句した。


 ◇◇◇


「あーあ。やっちまったかい?」


 声がした方を振り向くと、苦笑いをしたゼップさんギルドマスター。その隣にはクルト君。こちらは相変わらずニコリともしていない。


「二人とも確認してみな。レベル上がってるだろうから。それから、もう木の杖は卒業な。鉄の杖使いな。代金はツケといてやるから。明日から二人とも交代でクエストこなして、早くツケ払いな」


「はああ~い」

 レベルは上がったけど、私とカトリナちゃんはガックリ。だって、木の杖の値段は銅貨二十枚だけど、鉄の杖はその五倍。銅貨百枚、つまり銀貨一枚分。ううっ、痛い出費だよ~。


 ◇◇◇

 

 「鉄の杖」は値段もよかったけど、確かに性能も良かった。


 今までスライム一匹を仕留めるのに、三撃くらい必要だったが、一撃で葬れることが多くなった。


 だけど、その効果が如実に表れたのは、「魔法マジック」の方だ。


 威力は確実に二倍以上になっている。ことに「雷光サンダー」は「鉄の杖」と相性がいいそうで、三倍以上の威力になっている。


 ただし、このことはゼップさんギルドマスターに釘を刺されたのだけれど……


 レベルが低い者が「鉄の杖」を使っても、その重さに振り回されて、逆に戦闘力が落ちるそうだ。

 

 間違いなくレベルが上がっただろうから勧められた……とのこと。


 現にレベルを再測定したら5に上がっていた。カトリナちゃんは6だ。


 少し嬉しくなった。出費はやっぱりかなり痛かったけど……


 ◇◇◇


 この後は、差し止められているノルデイッヒ方面のクエスト以外のクエストを粛々とこなした。時にはクエスト以外で「魔物モンスター」や野盗退治に精を出し、経験の蓄積と小遣い稼ぎに努めた。


 そのおかげで私もカトリナちゃんもそう時間もかからず、「鉄の杖」のツケを完済した。


 それを待っていたかのように、ハンスさんとナターリエさんを主軸とする「最強」パーティーはロスハイムここのギルドに帰って来た。


「どうだい?」


 ゼップさんギルドマスターの問いかけに、ハンスさんも真剣な顔で答える。

「いますね。理由は分かりませんが、かなり強いクラスの野盗がノルデイッヒ周辺に集まって来ています」


「うーん」

 ゼップさんギルドマスターは腕組をして考え込んだ。だが、ハンスさんは話を続けた。


「それに……」


「まだ、何かあるのかい?」


「ええ。周辺部ばかりでなく、なんかこうノルデイッヒの街自体が以前より柄と言うか、雰囲気が悪くなってきてる感じでしたね」


 ! 私も思い当たることがある。おばあちゃんの家にいた傭兵! あれはかなり柄が悪い感じだった……


「ふーん」

 ゼップさんギルドマスターはまた腕組をして考え込んだ。

 

「すまんが、少し考える時間をくれ。わしも方法を考えてみる」


 ギルドメンバーはみな頷いた。


 ◇◇◇


 翌朝、ゼップさんギルドマスターは一通の手紙をしたため、ハンスさんとナターリエさんを主軸とするパーティーに託した。

「この手紙をノルデイッヒのギルドマスターであるトマスに届けてくれ」


 ハンスさんとナターリエさんの顔に緊張が走る。


 「手紙」の「配達クエスト」は典型的な初心者冒険者向けのクエストだ。それを敢えてこの地方最強をうたわれるパーティーに託すのだ。この「手紙」の重みが分かる。


「これだけでノルデイッヒまで行ってもらうのも申し訳ない。他のクエストも併せ、行ってもいい。もちろん、小遣い稼ぎのための野盗退治もやっていい。それだけの力があるパーティーなんだからな」


 ゼップさんギルドマスターの言葉にパーティーのリーダーハンスさんは大きく頷く。

「承知しました。ところで、この『手紙』は届ければいいので?」


「いや」

 ゼップさんギルドマスターかぶりをふる。

「トマスから返事の手紙をもらって来てくれ。奴も考える時間がほしいだろうから、時間がかかっても構わない」


「承知しました。準備が済んだら、すぐ出発します」


「頼む」


 ギルド全体に緊張が広がっていく。何かが起ころうとしている……


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