第28話 第4章 少女冒険者 嵐の前の恋と戦いと3

 私たちは十分な休養が取れ、次の日にはロスハイムに向かって出発した。


 一番、驚いたのは野盗の数の多さだ。


 この日一日だけで四組の野盗の襲撃を受けた。幸い、昨日現れたような強力な者はいなくて、うち二組は最初に「雷光サンダー」を放ったら、恐れをなして逃げて行った。


 もう一つ、問題なのは、明らかにこちらの様子を窺っていたが、こちらがそこそこ強いと見抜いて、襲撃してこなかったのが少なくとも二組ほどいたことだ。


 この数は異常だ。クルト君とも話して、このことはロスハイムのギルドに戻ったら、ゼップさんギルドマスターハンスさん取りまとめ役とも相談しようということになった。


 ◇◇◇


「最大の理由はこれだろうね」

 ナターリエさんはギルド内部を指して言った。


 若い人が多い。その六割くらいが女の子だ。


ロスハイムここのギルドは風通しが良く、年が若いとか、女だからとかで一切不利な扱いはしない。だから、こんなに若い女の子が集まってきた。だけどね……」


「!」


「それを汲みしやすい相手だと考える野盗が結構いるってことだよ」


 私は愕然とした。

「そっ、そんな。ギルドが活性化したことでそんな悪影響が出るなんて」


「ふっ」

 ナターリエさんは静かに笑った。

影響とは言い切れないよな。カトリナ」


「そうだよね。叔母さん」

 その陰にはやはりニタリと笑うカトリナちゃん。


 えっ? えっ? お二人とも何か怖いんですけど……


 ◇◇◇


「大体、ロスハイムここのギルドに若い女の子が多くなったということで、汲みしやすいなんて思って、のこのこやって来る野盗は大した奴らじゃないよ」

 淡々と話すナターリエさん。


「そうそう。油断は禁物だけど、こちら側がきちんと訓練した上で戦闘に臨めば、そう怖い相手ではありません。むしろ……」

 続けて話すカトリナちゃん。


「格好の経験値と金稼ぎのための獲物になる」

 最後は二人でハモる。何か凄いよ。この叔母と姪。 


 だけど感心ばかりもしていられない。このことは伝えておかないと……

「確かにロスハイム周辺の野盗に強い者はいませんでしたが、ノルデイッヒからそう離れていないところで戦闘した五人組の野盗は強くて、クルト君と私のパーティーも相当苦戦しました。一人には逃げられましたし……」


「ほう……」

 ナターリエさんの目が光った。

「それは聞き捨てならないね。そういうのがいるとなると、不慣れなパーティーを送り出すのは危険だ。よしっ!」


 ナターリエさんはカトリナちゃんに向かって、振り向いた。

「カトリナ。ノルデイッヒの近くであるクエストを幾つか見繕みつくろってくれるかい? こなしがてら、あの辺の様子を探って来る。それとしばらく、不慣れなパーティーはノルデイッヒ方面のクエストは請け負わせないように。デリアちゃんも頼むよ」


「はっ、はい」

 私もギルド受付嬢を辞めた訳じゃない。これは心に留め置かなければならないことだ。


 ◇◇◇


 かくて、ロスハイムここのギルド最強、いや、周辺の町を含めても最強であろう、ハンスさんとナターリエさんを主軸とするパーティーはノルデイッヒ方面の探索に出発した。


 そして、ロスハイムここのギルドでは、カトリナちゃんが講師の「武術」講習が強化されることになった。早い話がより一層スパルタになったのである。


「ようしっ! じゃあ、今日はまずは私とデリアちゃんの模範試合から始めようかっ!」


 わあっ 周囲から歓声が上がる。杖を構えるカトリナちゃんの目は爛々と輝いている。うーん。やる気満々だね。


 と思ってたら、早くも杖を大上段に構え、突進してきた。勢い強そうだな。あまり、真正面から受け止めたくない。


 さて、右に回避するか、左に回避するか、などと考えていると、む、カトリナちゃん、何も考えずに突進しているように見せかけてるけど、実は私の目の動きで回避する方向を探っているな。


 ならば…… 私はあえて真正面に杖を構え、カトリナちゃんの攻撃をあえて受け止めるポーズをしてみせた。


 周囲の視線も熱い。ふふふ。ここはやったるよ。


 いよいよ、カトリナちゃんが近づき、杖を振り下ろしてくる。よし、ギリギリまで耐えて、右へ回避っ!

更に隙の出来たカトリナちゃんの左わき腹から背中を私の杖で狙って……


 ◇◇◇

 

「ぐほお」

 左わき腹を痛打されたのは私の方だった。


 まともに息が出来ないくらい苦しいが、ここでその場で倒れこむと情け容赦なく二撃三撃が背中に来る。辛うじて右手で杖を拾い、距離を取る。


 私が距離を取ったことを確認したカトリナちゃんは、見ている子たちに問いかける。

「はい。デリアちゃんは、私の突進を真正面で受け止めるポーズをしましたが、実際は自分の右側に回避しました。この動きを予測できた人はいますか?」


 ほとんどの子は顔を見合わせ、分からなかったと言い合っているが、何と四人の子が手を挙げた。えっ? そんなにばれてた?


 カトリナちゃんは笑顔で手を挙げたうちの一人の子に問いかける。

「そこのあなた。どうして分かったのですか?」


 指名された子は、少しはにかみながら答える。

「デリアさんは真正面からカトリナさんを見据みすえてましたが、右足が少しだけ右の方を向いていました。それで気が付きました」


「正解です。みなさん、彼女に拍手を」

 カトリナちゃんの呼びかけに大きな拍手がわく。くっそー。足にまで気が回らなかった。


 それにしても初心者四人に気づかれるとは。私もまだまだだ。鍛錬せねば。


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る