第21話 第3章 少年冒険者の戦闘、告白、そして、これから2

 僕は五感の感覚を研ぎ澄まし、周囲の状況を観察した。


 これもグスタフさん師匠の教えだ。

「敵を全部倒したと思った時。必ず周囲の状況をもう一度観察しろ。いや、おまえは未熟者だから

三回観察しろ。それがおまえの命を救う」


 実際、一度、一匹のオークに死んだふりをやられたことがある。全部、倒したと思ったら、ゴブリンが四匹草むらに隠れていたことがある。


 同じギルドの人から「もうおまえもレベル16の『僧侶戦士』なんだから一回観察すればいいだろ」と言われるんだけど、最初に身についた習慣からか、どうも、三回観察しないと落ち着かない。


 それでも敵がいなくなったことが確認できたので、僕はデリアに声をかけた。

「もう大丈夫。敵はいなくなったよ」


「クルト君っ!」

 デリアは凄い勢いで僕のところに駆け寄ってくる。


 えっ? えっ? これは抱きついてくるの?


 ◇◇◇


 ……ではなかった。


 デリアは僕に近づくと、一言言った。

治癒キュア


「あ……」

 僕の体中の切り傷やあざが消えていく。


 そんな僕にデリアはあきれたように言う。

「体中、傷やあざだらけじゃないですか? 痛くなかったんですか?」


「……忘れてた」


 デリアはしばらく呆然としていたが、やがて……笑い始め、ついには笑い転げた。

「おかしい。クルト君。面白過ぎです」


 そっ、そうかな~?


 ◇◇◇


 ズツドドドドドドドーンッ


 デリアの魔法マジック雷光サンダー」が炸裂する。


 結構な威力だ。これでレベル3なのか。末恐ろし……いや、将来有望だ。


 魔法マジックの目標にされた廃屋からゴブリンが五匹飛び出して来た。ふん。やはり街道で旅人を襲撃するゴブリンの隠れ家はここだったか。


 僕はデリアとの事前打ち合わせのとおり、大きく回り込むようにゴブリンの群れを攻撃する。こちらの思惑通り、ゴブリン五匹が一か所に固まる。今だっ!


冷凍アイス


 デリアの三つ目の魔法マジックだ。


 ゴブリン五匹は固まって動かなくなり、その場に凍ったまま倒れた。


 僕はゆっくりと倒れたゴブリンのうちの手近な一匹にスピアを突き出す。


 カチン


 軽い音を立てて、スピアの刃先を凍結したゴブリンの身体が撥ね返す。


 驚いた。「冷凍アイス」もレベル3とは思えない威力だ。


 僕は五匹の中でさっきとは別の一際大きな身体をした一匹のゴブリンをやはりスピアでつついてみる。


 さっきよりは外気温で凍結が融けてきたらしい。氷が砕ける。刃先は一際大きな身体をしたゴブリンの肉体部分まで達するが反応はない。


 「討伐クエスト」達成だ。ホッとした。全身の緊張が解けていく。


 僕はデリアの方に振り返り、精一杯の笑顔を作る。

「デリア。クエスト達成だよ」


 だが、デリアから予想外の言葉が返って来た。

「クルト君。駄目っ!」


 次の瞬間、僕は背中に熱い衝撃を感じた。


 ◇◇◇


 必死で体の向きを変え、衝撃を受けた方向に向き直る。


「グググ。グギギガ」

 唸り声を上げているのは先程つついた一際大きな身体をしたゴブリンだ。身体にはまだ氷が付いたままだが、しっかりと両足で立っている。


 ちいいっ、油断した。どうも他の個体より身体がでかいと思ってたら、こいつ「族長チーフテン」だったのか……


 僕たち「人間ヒューマン」にもグスタフさん師匠のように高い身体能力に恵まれる者がいるように魔物モンスターにもそういった者がいる。


 そして、そいつらは「族長チーフテン」と呼ばれる。当然、HPヒットポイントも通常種より数段高い。こいつはまだ生きていたのだ。


 僕の背中には刃物が刺さったままだ。流血も続いている。正直、立っていることがやっとだ。気を付けないと気を失いそうになる。


 だが、僕はここで気を失う訳にはいかない。以前とは違う。僕が死んだら、悲しむ人が、守らなければならない人がすぐそこにいるのだ。


 どうする? どうする? デリアは持っている攻撃魔法マジック三つを使い切ってしまった。僕が物理攻撃するしかない。


 しかし、今のままでは無理だ。自分で自分に治癒キュアをかけて、HPを回復させなくては。そのためには族長チーフテンゴブリンの隙をつかねばならない。それまで僕は気を失わずにいられるか……


 デリアも治癒キュアを三つ持っていた。一つ使ったから、後、二つある筈だ。僕にかけてもらえば助かるが、初戦の彼女に多くを望むのも酷だ。ここはあくまで自力で…… くっ、気が遠くなる……


 だけど、次の瞬間、僕は信じられないものを見たのだ。


 ◇◇◇


「このおおおおおおーっ」


 何と杖を大上段に振り上げたデリアが、族長チーフテンゴブリンに突進してきたのだ。


「クルト君から、離れなさいっ! この魔物モンスターぁっ!」


 族長チーフテンゴブリンはしばらく唖然としていた。奴にどれだけの戦歴があるかは知らないが、杖を大上段に振り上げて突進してくる「魔法使いマジックユーザー」はそうはいないはずだ。


 それでも族長ゴフリンも百戦錬磨だ。倒れた他のゴブリンの持っていた刃物を奪い取って、デリアに向き合った。


 予想とは違った形になったが、チャンスはここしかない。僕は残った力を振り絞り、背中に刺さった刃物を抜くと、自分で自分に治癒魔法をかけた。「治癒キュア」「治癒キュア」「治癒キュア」「治癒キュア」。


 よし、ほぼ全快。そして、前を見ると、デリアの大振りの杖攻撃を回避した族長チーフテンゴブリンが刃物で彼女に切りかかる。


「うぐっ」

 デリアの悲鳴が上がる。畜生。許さんっ!


 僕はスピアを構え、族長チーフテンゴブリンの左胸に向かって、突撃する。


「!」


 僕の突撃に気が付いた族長チーフテンゴブリンだが、もう遅い。


「グギギグゴアアア」

 スピアで、心臓を貫かれた族長チーフテンゴブリンは悲鳴を上げて、絶命する。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る