第20話 第3章 少年冒険者の戦闘、告白、そして、これから1

(この章は少年クルトの視点になります)。


「『討伐クエスト』請け負います。私とクルト君の二人でっ!」

 デリアの声は特別大きい訳ではないけど、よく通る。

 

「はい。デリアちゃん。クルト君もいいですか?」

 デリアが僕と一緒にクエストに出ることになったため、今日のギルドの受付はカトリナだ。


「はい」

 僕も了解の返事をする。


「ん? ん?」

 カトリナが耳に右手を添えて、聞き返す。

「クルト君。そんな蚊の鳴くような声では聞こえませんよ」


 え? 僕は普通に言ったつもりだけど……


「クルト君。もう一度、請負内容を言って下さい」

 カトリナがニヤリと笑って言う。くっそー。


 ええいっ!

「ぼっ、僕はっ! デリアと二人で『討伐クエスト』を請け負いますっ!」


 思いのほか、大きな声が出てしまった。すると……


「いよっ!」

「頑張って来いよっ!」

「いいよなあ。全く」


 ギルド中から様々なかけ声がかかる。ここのギルドには「個人秘密」というものがないのか?


 更に止めを刺すのは満面の笑みのカトリナだ。

「承りましたー。頑張ってきてくださーい」


 このヤローとも思うが、一番、良くないのは宙ぶらりんの僕自身だ。クラーラさんにも言われたが、ハンスさんにも言われた。


 デリアが勇気を振り絞って僕に気持ちを伝えてくれたのだから、僕もちゃんと気持ちを伝えなければならない。


 ただ、気を付けないとトリップする。それだけは避けないと……


 ◇◇◇


 今度のクエストは緊張する。


 なので、「討伐クエスト」でも比較的難易度が低めのものを選んだ。


 デリアは、はっきりとものを言ってくれる。

「私のためにいつもより難易度が低くて、報酬の安いクエストを請け負ったのではないですか?」


 正直、ありがたい。僕も率直に言える。

「確かに今回のクエストは難易度が低くて、報酬は安い。でも、君と僕の命には代えられない。こういったものを積み重ねれば、連係もスムーズになって、だんだん難易度の高いクエストも出来るようになる」


 一瞬、複雑な表情を見せたデリアだけど、すぐに笑顔を見せてくれた。


 ううっ、引き込まれてしまい、トリップしそうだ。


 ◇◇◇


 さて、どこでどうやって、こちらの気持ちを話すかだけど、僕にはサッパリ分からない。


 かと言って、これを女の人に相談するのも僕にはハードルが高すぎる。


 では相談出来そうな人と言うと、まずはグスタフさん師匠は論外である。「大体、女なんてものは……」という全く中身のない意見を聞かされるのがオチだろう。


 次にゼップさんギルドマスターも当てにはなるまい。となるとハンスさんだな。僕に「クルト君。女の子にそこまで言わせているんなら、早く応えてあげなきゃいけないよ」と言ったのはハンスさんなんだから。


 ◇◇◇


「野営の星空の下だね」


「はあ」

 僕の質問にハンスさんは意外な答えを出した。


「それも多少苦戦した戦いで、二人が力を合わせて、敵を倒した後がいい。気持ちが高揚しているからね」


「はあ」


 ハンスさんは笑顔だったが、僕には何だかピンと来なかった。だけど、「野営の星空の下」「多少苦戦した戦いで、二人が力を合わせて、敵を倒した後」と何度も自分に言い聞かせた。


 ◇◇◇


 デリアと行く初めてのクエストはやはり落ち着かなかった。


 デリアを守りたい。彼女に好意を伝えなければ。いけないいけない。こんなことでは、周囲を警戒する気持ちが緩んでしまう。しっかりしなくては。でも……


 ヒュンッ


 小さな矢が脇をかすめる。

 

 コボルドだっ!


 今回の討伐対象ではない。


 しかし、降りかかる火の粉は払わねば。デリアを守らねば。


 僕はスピアを強く握りしめる。手のひらが汗ばむ。


 ヒュンッ


 次の小さな矢が飛んで来る。


 いけないっ! そっちにはデリアがいるっ!


 だが、矢はデリアから少し離れた所に刺さった。


 ホッとすると同時に怒りがこみ上げてきた。一人ソロで戦っていた時には感じたことのない怒りだ。


 そんな時、後ろで声がした。


火炎ファイヤ

 デリアの「魔法マジック」だ。


 背の高い草むらに潜伏していたコボルドたちはたまらず飛び出す。


 こいつら、一匹たりともデリアのそばには近づかせないっ!


 僕は飛び出したコボルトたちに向かって、スピアを持って、突撃を開始した。


 自然に僕の口から声が出た。

「僕はデリアが好きだ。だから、ケガはさせたくないんだっ!」

 だけど、これはデリアには聞こえてはいなかった。


 ◇◇◇


 そこからは無我夢中だった。


 記憶が飛ぶほどスピアを振り回した。


 コボルドは小柄な魔物モンスターだから、HPヒットポイントはそんなに高くない。


 スピアで刺せば、一撃で倒せるし、柄の殴打でも三撃も食らわせれば倒せる。


 しかし、その分、敏捷性は高い。結構な確率で回避される。こちらがすぐに倒されるほどの破壊力はないが、少しずつHPを削られる。


 ただ、その時の僕はそんなことは忘れるほど集中して戦ってたんだ。


 五体目のコボルドをスピアの柄の殴打で倒した時、デリアは「クルト君っ」と叫んで、駆け寄ろうとした。


 僕はそれを制止した。

「デリア。待って」

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