第15話 第2章 新米ギルド受付嬢の呟き7 

 私は決意した。


 決戦は今日の夜。


 クルト君は相変わらずギルドの二階の一室に居を構えている。


 そこに乗り込む。


 幸い私の仕事はギルドの受付。会計も担っている。


 夜遅くまで残る理由はある。


 そして、夜も更けてきた。


 クラーラさんの給仕で夕食を摂る冒険者の数も減ってきた。あと三人だ。


 その三人も口々に「ごちそうさま」と言いながら、ギルドを出て行った。


 クラーラさんと目があった。にっこりと笑ってくれた。応援してくれてるんだ。


 よしっ、片づけを終えたら、ギルドの二階に上がるぞと思った次の瞬間……


 私は声をかけられた。

「あのデリアさん。お話したいことがあるので、お時間もらえませんか?」


 その声の主は…… カトリナさん!


 ◇◇◇


 ええっ? さすがにこの事態は読んでいなかった。


 思わずクラーラさんの方を見るが、クラーラさんも驚愕の表情。


「あの…… 駄目でしょうか?」

 返事を返せずにいる私に再度尋ねるカトリナさん。むっ、こっ、これは……


「いいですよ」

 反射的にそう答えてしまう私。


 チラリとクラーラさんの方を見ると、呆然とこちらを見ている。


「ありがとうございます。すみませんが、ちょっと外まで付き合ってもらえますか?」

 そう言ってニッコリ笑うカトリナさん。うっ、うーん。これから何が起こるのだろう。


 ◇◇◇


 私はカトリナさんにギルドの建物の裏に誘導された。


 折しも外は曇り空でまさに闇夜。


 まさかとは思うが、念のため護身用の武器を持ってくるべきだったか……


 闇夜に恋敵をまさに闇から闇に葬るつもり……ではないとは思うが……


「デリアさん」

 カトリナさんは様々な思いを巡らす私をよそに不意に振り返った。


 ◇◇◇


「なっ、ななな、何でしょう?」

 思わず慌てる私。


 それに対し、カトリナさんは冷静そうだ。

「お願いがあります」


「!」

 なっ、ななな、何? まさかクルト君から身を引けとか、いやいやいや、それは駄目だ。私だって、やっとの思いで決心したのだ。そう簡単に譲れはしない。


「デリアさん。私に……」


 ◇◇◇


 例えその後のセリフが「クルト君を譲ってください」でも、耳をふさぐ訳にはいかない。ちゃんと受け止めて、ちゃんと答えないと。「それは駄目です」と。


「…… 会計業務を教えてもらえませんか?」


 ◇◇◇

 

「だっ、だだだっ、それは駄目っ! 私だってクルト君が好きだものっ!」

 私は反射的にそう答えた。


 その言葉を受け、悲しそうな顔をするカトリナさん。

「えっ? やっぱり私のような冒険者には会計業務は教えられないのですか…… えっ? えっ? えっ? クルト君?」


「えっ? えーと、何? 会計業務?」


 私たちはしげしげとお互いの顔を見つめ合った。


 ◇◇◇


「びっくりした。だって、冒険者の人に会計業務を教えてほしいなんて言われるの初めてだもの。ナターリエさんだって、そんなこと言わないですよ」


ナターリエ叔母さんは凄く頭がいいけど、冒険者になりたくて、故郷の村を出て行った人なので、そういうことには関心がないんですよね。あの、ところで教えてもらえるんでしょうか? 会計業務?」


「あーっ、はいはい。私で良ければお教えします。そうですね。クエストの受付業務が終わった後、会計確認をしますので、その時、一緒にやりながらで良ければ…… それが一番教えやすいので……」


「わーっ、やったーっ」

 カトリナさんは私の両手を両手で、つかむと大きく振った。


「わっ、わっ、カトリナさんっ」

 私は慌てた。どうやらカトリナさん彼女は見かけより相当陽気な性格らしい。


「あのー。それで、もう一つお願いがー」


「!」

 なっ、ななな、何? 今度こそクルト君を譲ってくださいとか。


「あの。ここのギルド。あんまり年が近い女の人の数がいないじゃないですか。ナターリエ叔母さんも十二歳年が離れているし。もしよかったら、これからもいろいろお話したいんです」


 私はホッとした。徐々に緊張も解けて来た。

「そういうことなら、こちらからもお願いしたいくらいで……」


「良かったーっ!」

 カトリナさんははじけるような笑顔を見せた。私にも微笑が浮かぶ。


「これからもよろしくね。カトリナさん」


 すると一転カトリナさんは渋い顔。へっ?


「デリアさ~ん。私の方が年下だから、『カトリナ』と呼んでくださいよ~」


 それは私も少し抵抗がある。

「呼び捨てはな~。『カトリナちゃん』でいい?」


 カトリナちゃん、少し考えてから笑顔。

「うーん。それでいいです。デリアさん」


「それなら、私も『デリアちゃん』と呼んでくれる?」


 カトリナちゃん、少しドヤ顔で

「うーん。まあいっか。『デリアちゃん』」


 私たちは二人で大笑いした。


 ◇◇◇


 ここでカトリナちゃん声を潜め、

「仲良くなったところで聞きたいのですが、デリアちゃん、クルトさんが好きなんですか?」


 ぐおおお、ズバリ聞いて来たなあ。だけど、さっき言っちゃってるし……

「は、はい。私はクルト君が……好きです……」


 すると、カトリナちゃん満面の笑顔で

「やっぱりー。もうバレバレですよー」


 うぐぐぐ。でも、そっちがそう来るなら、こっちだってこのことをハッキリさせる絶好の機会だ。

「そういうカトリナちゃんはクルト君のことどう思ってるの?」


 カトリナちゃんはその質問に急に真面目な顔になり……

「わっ、私は……」

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