第16話 第2章 新米ギルド受付嬢の呟き8
「今はちょっと恋愛どころではないんです。実は私はいずれ故郷の村の
「え?
「私と
「え? でもナターリエさんはここでずっと冒険者やってるけど……」
「
「でも……」
私は次の言葉を出すことに少し逡巡した。だけど、仲良しになったんだと思い直し、次の言葉を出した。
「カトリナちゃんはそれでいいの? その……
「はい」
カトリナちゃんは笑顔だった。
「
「!」
私は自分のことを思い出していた。そうだ。私だってそうだったのだ。
「でも、私は勉強できる機会をもらえた。それがとても嬉しい。村に帰っても、責任は伴うけど仕事を任せてもらえる。本当に恵まれているんですよ」
「!」
私の脳裏に電撃が走った。そうだ。そうなのだ。ギルドにいて、男勝りの女の人たちを見ていて、忘れていたけど、殆どの女の子は花嫁修業だけさせられて、お嫁に行く。そう決められている。私だって、私だって本当に恵まれているっ!
「カトリナちゃんっ!」
私は思わず駆け寄ると、カトリナちゃんの両手を自分の両手でつかんだ。
「はっ、はひっ」
突然の私の行動にカトリナちゃんはビックリしたようだけど、応えてくれた。
「私はカトリナちゃんに会計業務を教えるっ! 私、不器用だけど、一生懸命、教えるよ。でも、その代わりにね……」
「!」
「カトリナちゃんは私に『
「えっ? そっ、それは……」
カトリナちゃんは明らかに当惑している。そりゃそうだ。ギルドの受付で「
「私もね、カトリナちゃんと話していて思ったんだ。私たちぐらいの女の子で『勉強』が出来るということ自体が凄く恵まれている。だったら、それを生かさなくてどうするのって……」
ここまで聞いてカトリナちゃんは笑顔を見せた。
「そうですか。他ならぬデリアちゃんの頼み。知っていることは教えます。でもね……」
「?」
カトリナちゃんはまた違った笑顔を見せた。
「私の教え方は
「のっ、望むところです」
私は胸を張って答えた。会計業務に誤りが許されないように、戦闘は誤りが死を招く。スパルタなのは当然だ。
「よーしっ。ビシビシ鍛えますよ。でも、『
「とりあえず、手持ちのお金で一番安い杖と『
「そうですね。『
「ところで……」
私は最後に声を潜めた。
「カトリナちゃんのお話聞いてると、ナターリエさんは随分自由にやっているように見えるけど……大丈夫なの?」
カトリナちゃんも声を潜めた。
「ああ。
「ふーん。そうなんだ」
夜はすっかり更け、クルト君への告白はどこかに飛んでしまったが、私には得るものがあった。
◇◇◇
次の日からお互いがお互いに教え合うことが始まった。
最初の日は私がカトリナちゃんに会計業務を教える方。
ギルドの受付業務を終了した後、会計確認をしながら教えるのだが、カトリナちゃんの食いつきが凄い。
会計業務は知らない人には分からない独自ルールが多い。
中途半端な知識で「こうだろう」という推論で事務処理すると大失敗を招く。
カトリナちゃんも見当違いの認識が実に多い。
だけど……彼女は素直だ。間違いと分かれば、すぐに軌道修正をする。
これは……思ったより早く受付業務が出来るようになるかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます