第13話 第2章 新米ギルド受付嬢の呟き5

  でも、それでも、クルト君と会話を交わす時間は少しずつ増えて行った。


 クルト君がクエストコンプリートによる経験値の増加に熱心である以上、そうなる。


 両親に大見得を切ってでも、ギルド受付になって良かった。


 そう考えていたある日……


 ナターリエさんが小さな女の子を連れて、ギルドに来た。


 ナターリエさんと同じような黒のローブを身にまとっている。


 魔法使いマジックユーザーということだろうけど、背が随分と小さい。まだ子どものようだけど、大丈夫なのかな?


 クルト君は突如として両親を失い、孤児になってしまったため、やむなく十歳でギルドに加わった。


 だけど、あのは十歳にもなっていないんじゃないか?


「ほらっ、自己紹介しなさい」

 ナターリエさんは小さい女の子を促す。


 小さい女の子は頷くと、話し始めた。

「はじめまして。カトリナ・ライトナーです。ナターリエ・ライトナーの姪になります。十三歳です。今日からこのギルドにお世話になります。よろしくお願いします」


 十三歳!? 嘘だろう? どう見ても八歳くらいにしか見えない。だけど、そう思ったのは私だけではなかった。


「十三歳? とてもそうは見えないなあ。魔法使いマジックユーザー志望みたいだけど、耐久力HPとか大丈夫なの? いくら魔法使いマジックユーザーでも最低限の耐久力HPがないとあっという間に殺されてしまうよ。命は一つしかないんだ」


 カトリナさんは少し戸惑ったようだが、その問いかけに堂々と答えた。

耐久力HPは確かに少ないです。でも、これから鍛えます。それに、その分、敏捷性AGIは高いです」


 ギルドの中はざわつく。そんな中、次の質問が出る。

魔法使いマジックユーザーだって言うけど、魔法マジックは何が使えるの?」


「今のところは、ナターリエ叔母さんに十三歳の誕生祝いにもらった『火炎ファイヤ』一個だけです。でも頑張って覚えます」


 ギルド内は更にざわつく。申し訳ないが、それでは何もないよりマシというレベルだ。そして、下手に敏捷性AGIの高さを誇ったりすると、囮に使われかねない。


「言っておくけど……」

 ナターリエさんが厳しい口調で言う。

「このは私の姪だ。囮に使おうなんて理由で、パーティーに入れたら承知しないよ。このがどのパーティに入るかは、私が決める」


 ギルド内は一気に静まり返る。ナターリエさんは更に続ける。

「だけど、甘やかすつもりもない。だから、私とハンスのパーティーにも入れない。しばらくは『配達クエスト』を数こなすんだね」


 ギルド内に安堵の空気が流れる。確かにそうすることがこののためだろう。


 だけど、この時の私はこのことが後で私に大きな影響を及ぼすことになるなんて思いもしなかったのだ。


 ◇◇◇


 それからのカトリナさんは他のギルド初心者同様、「配達クエスト」をまめに受領し、経験を積んでいった。


 女性だとクルト君たち男性と違い、ギルドに住めないというハンディキャップがある。カトリナさんもナターリエさんの家に同居している。


 にもかかわらず、毎日のように朝一番にギルドにやってきて、「配達クエスト」を受領していく。


 もう一つ彼女のことで気付いたことがある。


 性格が似ているのだ。誰にって、クルト君に。とにかくクソ真面目なのである。


 私に対して、クルト君は普通に話し、カトリナさんは敬語という差こそあるものの、二人とも馬鹿丁寧。そして、凄く謙虚。口癖は「まだまだ(です)」。


 私はクルト君のそういう性格が好きだったから、カトリナさんにも親しみを覚えた。あの時までは……


 ◇◇◇


 あれ? その時、私は異変に気が付いた。


 カトリナさんがしきりにクルト君に話しかけている。


 クルト君は何度も何度も首を横に振っていたが、しばらくしたら根負けしたのか、カトリナさんの話に耳を傾けだした。


 これは変だ…… 今までの経験が私に直感させた。


 クルト君は基本的にソロプレーヤーである。これはクルト君のお師匠のグスタフさんの育て方がそうだったというのもあるけれど、クルト君自身の性格も大きい。ストイックで求道的なのだ。


 パーティーに加わるのは、かつてグスタフさんがリーダーだったところとか、今で言うとハンスさんとナターリエさんのところくらい、ある程度完成していて、既に五人くらい集まっているところに臨時の助っ人としていくだけである。


 二人編成のパーティーを組むなんてあり得ない。あり得ない筈なのだ。


 そんな私の思いは簡単に砕かれた。クルト君とカトリナさんは二人連れだって、ゴブリン討伐のクエストの受領を私に伝えてきた。


 その時の私の声は震えていたかもしれない。

「お二人でのクエスト受領ですか?」


 クルト君の答えは例によって蚊の鳴くような小さな声だった。

「はい」

 そしてその後、いつもの通り目を逸らした。


 カトリナさんの返事は、はっきりしていた。

「はい」


 ◇◇◇


 それからだ。クルト君はカトリナさんと二人編成のパーティーを組むことが多くなった。


 クエストから戻ると、カトリナさんは熱心にクルト君に話しかけている。


 クルト君は時には頷き、時には首を横に振り、カトリナさんの話に耳を傾けている。


 それが何回も何回も起こる。


 私の心のざわめきはもはや抑えられなくなっていた。そして……

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