第11話 第2章 新米ギルド受付嬢の呟き3
ここで、その話にループするんですかあ?
「いや、これは
シモーネさん。明らかに泥酔して、目が座ってます。
「私はね~」
ここで、クラーラさん、参戦。
「デリアちゃんのこと、
「はっ、はひ。有難うございます」
「それだけに、やたらな男にデリアちゃんは任せられないね。でも、それがクルト君なら……」
シモーネさんとクラーラさん。顔を見合わせると……
「まあ、合格点かなと」
「はっ、はあ」
「まあ、クソが付くほど真面目だしね」
「良くも悪くも浮気はしないね」
「ギルドに住んで、毎日クエストこなして、稼いだ金は生活費以外は全部武器か防具か魔法につぎ込む」
「そりゃあ強くもなる」
「かと言って、そこまで頑張らない周りの人間を見下すこともしない。それどころか『自分なんかまだまだ』とか言っている」
「だから、結構、人気者」
「これはまさしく有望株」
私の回答を待たずに、シモーネさんとクラーラさんはクルト君を肴を盛り上がる、盛り上がる。でも、好きな人が褒められるのは悪い気もしないし、話がこのまま逸れてくれれば……
しかしっ!
ふと我に返ったシモーネさんとクラーラさんはこちらに振り向くと、ハーモニーを奏でる。
「それで、デリアちゃん。クルト君のこと、どう思ってるの?」
◇◇◇
これはもう自分の思ってることを率直に言うしかないかと私が観念した、その時……
シモーネさんはその場に突っ伏し、
うーん。さすがはグスタフさんの奥さんになる人。これくらいでちょうどいいのかもしれない。
クラーラさんは苦笑いすると、
「さすがに明日の花嫁に風邪をひかせる訳にはいかないね。デリアちゃん、手伝ってくれる?」
「はい」
私は小さく笑った。
クラーラさんと二人でシモーネさんを寝室に運んだ。明日から空き部屋になる部屋はガランとしている。
やっぱり、長年、勤めて来たギルドには相当思い入れがあるのだろうな。そんなことも思った。
「有難う。デリアちゃん」
そうお礼を言ってくれるクラーラさんの笑顔はやはり素敵だ。
「はい」
私も微笑み返した。
「ところで、デリアちゃん。クルト君のこと、どう思ってるの? っと、おっ?」
再度、話題を戻さんとしたクラーラさんもふらついた。
私は笑ったまま、返した。
「もうお疲れなんですよ。クラーラさんもお休みになってください」
クラーラさんは苦笑した。
「そうするわ」
かくて、私は厳しい攻防戦(?)を
◇◇◇
グスタフさんとシモーネさんを乗せた馬車がオーベルタールに向けて出発するのは正午。
祝宴はそのわずか一時間前に始まった。
祝宴と言っても、本当にささやかだ。
酒類が出る訳ではない。豪華な料理も出ない。長机の後ろに座る新郎新婦に来客が入れ替わり立ち替わり、水盃を飲み交わしていく。
新郎のグスタフさんは窮屈そうに燕尾服を着ている。見るからにパッツンパッツンで、思わず吹き出しそうになる。
新婦のシモーネさんの装いは地味だが品の良さそうなピンク色のワンピース。お母さんのクラーラさんから譲り受けたそうだ。もう何代も
中には、贈り物を置いて行く来客もいる。だけど、それも質素だ。
新婦のシモーネさんに贈られるのはもっぱら花束。それも三輪から五輪くらいしかない小さな花束。
新郎のグスタフさんに至っては、贈られるのは乾燥された非常食や回復用のポーションの小瓶だ。
それでもみんな笑顔だ。クルト君も必死に笑顔を作ろうとしているが、明らかにこわばって、ぎこちない。
悪いが見ている私の方が笑ってしまう。
私は小さい頃出席した従姉妹の華やかな祝宴を思い出していた。
会場全体に飾られた生花。いくつもの樽に入った酒。たくさんの皿に盛られた美食の数々。しかし……
表面的に浮かべられた笑顔の裏の嫉妬心、猜疑心、駆け引き…… あの時、あの会場にたくさんいた人間のうち、本気で新郎新婦を祝福した者は何人いたのだろうか?
一時間はあっという間に過ぎた。いよいよ馬車は出発する。
出発に先立ち、今日は何とか参加できたシモーネさんのお父さん、ギルドマスターのゼップさんが祝いの曲をラッパで吹く。
ところが、その演奏、音程が狂いっぱなしで、みんな大爆笑。
演奏を終えたゼップさんが一言。
「ふん。グスタフとシモーネに贈る祝いの曲なんかこれで十分だ」
だけど、私には見えてしまった。
ゼップさんのまなじりに小さな涙が光っているのを……
◇◇◇
馬車はゆっくりとオーベルタールに向かって動き出す。
護衛は精鋭中の精鋭だ。知らずに手を出す野盗は間違いなく返り討ちに遭うはず。
そんな中の一人にクルト君の姿が。慣れた様子で騎乗している。いつの間に馬に乗れるようになったんだろう?
ちょっと凛々しい感じもする。じっとクルト君に見惚れていると、何と目が合う。
すると、クルト君。サッと目を逸らす。
えっ? 今の何? また、私を惑わすようなことを……
ふと、気が付くと、私の周りの人たち。クラーラさんにゼップさん、ナターリエさんたちはみんな馬車に向かって手を振っている。
いけない。いけない。私も手を振らなくちゃ。
護衛のメンバーの中にいたハンスさんがちょっと振り向き、ナターリエさんに手を振り返す。
途端にナターリエさん、満面の笑顔。
くそっ、いいなあ。
今はハンスさんと違い、振り向きもせず、前方と馬車の様子を交互に見るばかりのクルト君……
私たち見送る側はいつまでもいつまでも馬車に向かって、手を振っていた。
その姿が見えなくなっても、手を振っていた。
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