第10話 第2章 新米ギルド受付嬢の呟き2

「うふふ。それでも。私の更に前の受付が残っているからね。何でも聞けばいいよ」


 そうなのだ。シモーネさんが受付をする前は、クラーラさんが受付だったそうだ。


 今ではギルドの食堂で調理と給仕専門になっていたクラーラさんだが、シモーネさん以上の凄腕(?)受付だったとのこと。とても心強い。


「ところでさあ、クラーラさんお母さんゼップさんお父さんは?」


 シモーネさんの問いにクラーラさんは小さい溜息をついて答える。

ロスハイムの有力者の寄り合いだってさ。全く、シモーネひとり娘が嫁に行く前の晩くらい断ってくればいいのに」


「ふふふ。仕事人間だからね」


 シモーネさんはこんな時まできれいな笑顔だ。ある意味凄すぎる人の後任になってしまったという気もしてきた。


「ところでシモーネ。今晩は飲むんでしょう?」


「飲みますとも。クラーラさんお母さんも飲むんでしょ?」


「飲まないでか」


 母娘揃って、はじけんばかりの笑顔だ。


 ◇◇◇


 小さな宴は、楽しく進行していった。女ばかりというのもより早く酔いを進め、口の滑りを更によくする効果も、もたらすらしい。


「ねえねえ。デリアちゃん」


「はい?」


「クルト君のこと、どう思ってるの?」


「!」

 来たあ。答えにくい質問来たあ。


「それは私も聞きたいねえ」

 クラーラさんもかぶせてくるし。


 何か答えなければいけないのだろうか? でもっ、でもっ……


 私が答えかねているうちに、シモーネさん、大爆笑。


 更に私の右肩を右手のひらでばんばん叩くと

「うーん。若いっ! 若いっ!」


 はて? 褒められてるのか、からかわれているのか、どっちでしょう?


 かと思えば、不意に真面目な顔になり、

「デリアちゃんさあ。クルト君は私のこと好きだったんだよね」


 うわっ、分かってはいたけど、そうはっきりと言われると、グサッと来る。


「だけど、私はグスタフと結婚することになって、その気持ちには応えられなかった」


 うん、うん。それで?


「でね。クルト君はそれなりに堪えているようなんだよ。未だに視線感じるし……」


 気づかれてましたかあ。ま、そりゃそうか。


「だけど、あれでクルト君は…… クルト君は……」


 なっ、何なのでしょう?


「大事な人なんだよ……」


 えっ?、そ、それは聞き捨てならない発言ですよ。シモーネさん。仮にも新妻が……


ロスハイムここのギルドにとって……」


「!」


 ◇◇◇


 シモーネさんの表情はすっかり真面目になっていた。

ロスハイムここのギルドは、長いことゼップさんお父さんが取りまとめてきた。それを引き継いだのが、グスタフ。そして……」


「……」


「グスタフが私を連れて、警備隊長になって、オーベルタールに行けるのは……」


「……」


「ハンス君が次の取りまとめ役として充分育っているから……」


「!」

 ハンスさん。確か二十五歳のさわやか系の戦士。ワイルドさが売りのグスタフさんと好対照。レベルは30だっけ? 二つ名は「水平疾風のハンス」。水平に構えたソードを横に薙ぎ払うことで数多くの敵をいっぺんに倒すことを得意としていることから、この二つ名がついたそうだ。


「グスタフが言ってたけど…… 次の取りまとめ役はハンス君。そして、その次は……」


「……」


「クルト君……」


「!」

 そうか。そういう意味での「大事な人」!


「私もハンス君の次はクルト君だと思っている。それでねっ! 大事なのはこれからだよっ! よっく聞いてねっ!」

 シモーネさんはずいっと私に近寄って来た。近い近いっ! いくら女同士でも近いっ!


 ◇◇◇


ロスハイムここのギルドは、代々、しっかりした取りまとめの男が出て、他の町のギルドのように、内輪もめしたり、無茶なクエストを報酬欲しさに引き受けて、壊滅状態になることもなかったっ!」


「……」


「ではっ! 何故、代々、そのような男が出現し得たのかっ?」


「……」


「それはっ!」


「それはっ?」

 私も思わず力が入る。


「…… 代々の男を支える女が必ずいたからっ!」


「!」


 ◇◇◇


 これは驚きの事実だよ。そんなことがあったなんて。言われたとおりに花嫁修業をして、いいところに嫁に行けばいいんだと言われ続けてきた私には、特に……


ゼップさんお父さんにはクラーラさんお母さん。グスタフには私。そして、ハンス君にはナターリエちゃんが……」


 ナターリエさん。長身のすらりとした魔法使いマジックユーザー。笑顔の似合うシモーネさんとは対照的に知的でクールな感じ。黒のローブがとても良く似合う人。


 使えない攻撃魔法はないと言われるうえ、ターンアンデットと言った僧侶系の魔法も持っている。二つ名は「虹色のレインボーカラー魔法使いマジックユーザー」。


 敵と遭遇エンカウントしたら、ナターリエさんが全体魔法をかけ、敵の耐久力ヒットポイントを大幅に削った上、ハンスさんが水平にソードを横に薙ぎ払えば、大抵の敵は全滅してしまうとのこと。


 正直、私は最初ナターリエさんが、かなり怖かったのだけれど……


「ナターリエちゃんは一見とっつきにくいけどね。でも、デリアちゃんも見たでしょ? ハンス君と一緒にいるところを……」


 そうっ、そうなのだっ! ハンスさんと一緒にいるところの、はにかんだ笑顔を…… 危うく「可愛い……」という声が出てしまうところだった。


「そう、これがロスハイムここのギルドの強さの秘密。そして、これからが本題っ!」


 えっ? 今までは前段だったのですか?


「デリアちゃんっ!」

 シモーネさん。またも私に大接近。ついには右手で私のあごに触れる。


「はっ、はひっ」


「クルト君のこと、どう思ってるの?」 


 

 


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