第3話 第1章 感情を失った少年戦士が笑顔を取り戻すまでのお話3
「引き受けても…… いい……です。但し、いくつか条件があります」
僕はゆっくり口を開いた。
「クルト君っ!」
シモーネさんの驚いた声が飛んだ。
少女の表情は一気に明るくなった。
「どっ、どんな条件ですかっ? 何でも言って下さいっ!」
僕は少女がテーブルに撒いたお金のうち、銀貨を一枚取り出した。
「シモーネさん。これで
シモーネさんは一見厳しい表情のままだったが、少し口角が上がっていた。
「買えるね。武器を
僕はシモーネさんに向かって頷き、それから少女に向き直ると言った。
「はい。それとあなた、名前は?」
「デリア。デリア・ファーレンハイト」
「デリア。これから厳しいことをいくつも言う。それを君が出来ないなら、このクエストは引き受けられない」
「はっ、はい」
「まずは……」
◇◇◇
僕はデリアの服装を見て、言った。
「そのきれいな恰好。野盗からすれば、どうぞ狙って下さいって言っているようなものだよ」
「!」
「このお金で一番安い服を買って、それに着替えて下さい」
「でっでもっ。この服はおばあちゃんが買ってくれた服で、私もお気に入りで……」
「さっきも言ったけど、こちらの条件を受け入れてくれないと、このクエストは引き受けられない。それにその立派なトランク。それもどうぞ狙って下さいと言っているようなものだ」
「こっ、これには私の焼いたクッキーがたくさん入っていて、おばあちゃんに食べてもらいたくて……」
「もしこのクエストを本気で引き受けてほしいなら、このお金で一番安いザックを買って、荷物もそこに入る範囲にしてください。長い髪も一つにまとめて、かぶりものに隠れるようにしてください」
「……」
デリアは黙ってしまった。
◇◇◇
沈黙に耐えかねてか、シモーネさんが口を開いた。
「デリアちゃんといったかしら。あなたの望みを全部叶えるとなると、やはり、馬車を雇った方がいいね。きっちりした護衛をつけて。金貨何枚かかるかしれないけどね」
「そっ、そんな……」
デリアはその次の言葉が出てこない。
シモーネさんは小さく息を吐いた後、続けた。
「デリアちゃん。あなたのおばあちゃんは何を一番望んでいるのかしらね」
「!」
「おばあちゃんが一番望んでいることって、きれいに着飾ったあなたを見ること? あなたの焼いたクッキーをたくさん食べること? それとも……」
「……」
「亡くなられる前にどんな形であれ、あなたに会うこと?」
「……」
デリアは黙って下を向いた。
◇◇◇
「分かりました。条件は全て受け入れます。おばあちゃんはきっと何より私に会いたいはずです」
デリアは決意を秘めた顔で前を向いた。
「デリアちゃんは良し。で、クルト君、これで本当に、このクエスト引き受けるの?」
シモーネさんは真剣な顔を崩していない。
僕には正直自信はなかった。
今まで倒してきたのは殆どがスライム。後は何匹か
間違いない。今度は相手が
(いや)僕は
やるしかない。今回は何故かそういう気がしているのだ。理由は僕にも分からない。
僕はデリアの目を真っ直ぐ見つめると言った。
「デリア。僕は今まで『護衛クエスト』をやったことがない。自信もない。君にも最後の護身用に僕の使ってきた『ひのきの棒』を持ってもらいたい。それでもクエストを発注してくれますか?」
デリアは言った。
「はい」
即答だった。
「デリアちゃん。どうしてそんな?」
シモーネさんはデリアの即答に相当驚いたようだ。
◇◇◇
「私は大商人の娘です。たくさんの使用人に囲まれて生活しています。だけど、今のクルト君みたいに本気で厳しいことを言ってくれる人は一人もいません。みんな、私の前ではちやほやしたようなことを言うけど、裏では陰口を言っているのです」
(これだ。やはり、この
僕は思った。
「クルト君が言っていることは確かに厳しい。でも、本当のことを言ってくれている。だから、私もやってみたいんです」
「それでクルト君。これでクエスト受けるの?危険なことには変わりないよ」
シモーネさんはとうとうあきれ顔になってきた。
そして、僕は最後の決断をした。
「やりますっ! 僕は『無謀死にぞこないのグスタフ』の弟子ですよ」
「あ!」
その時の僕の顔を見たシモーネさんは思わず声を上げた。
◇◇◇
「クッ、クルト君が笑ったよ。今の見た? デリアちゃん?」
シモーネさんの問いに、デリアは当惑しながら答えた。
「えっ、ええ。確かに笑いました。初めて見た時から不愛想な人だなあと思ってましたけど」
「不愛想なんてもんじゃないよ」
シモーネさんがたたみかける。
「もう三年近くの付き合いになるけど、クルト君が笑ったところ初めて見たよ」
そんな失礼な。不愛想なのは認めるけど、人を鉄仮面か何かみたいに。
「ふふふふ。ははははは」
シモーネさんは大笑いし始めた。
「これは幸先いいかもね。きっと、今回はクルト君にとっても、デリアちゃんにとっても飛躍のチャンスになるかもしれない」
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