第19話 幕間:前日の会談 act1
——咎人狩り、前日
――盧乃木徳人と後藤の会談
「——あなたとは一度話をしておきたいと思ったので……」
声変わりを終えた少年のどこかあどけない声音は大人びた響きを含んでいた。その脳の中身、思惑やら思想がそうなるよう促すのか。
後藤は、ベッドの上に座りながら、部屋の中へ入り込んだ盧乃木徳人を窺う。
向き合って話すぐらいの距離。
——今なら
脳が告げた。
あの付き添いの女はいない。
当人の身のこなしは歩き方から素人臭い。
例えば、壁と腕をつなぐこの長い鎖を使ったらどうか。首を締めれば良い。
いや、そんなことせずとも腕が届くなら素手で縊り殺せる。
と、種々実行案は浮かぶものの、どうもその気になれない。
一歩踏み込めない感覚がある。
釈然としていないからだ。
それは、沙耶香の協力者である自分を殺さず、中々住み心地の良い部屋に監禁しておく事の他、そもそもこの少年が本当に盧乃木美樹鷹を殺したのか?という疑問が数日前に初めて会った瞬間から湧き始めていたからだ。
出世の為にどんな悪行にも手を染めるタイプとは違う確信。
それに、その人間性がたった今本人を前にしても不可解の一言に尽きる。
その丁寧な話し方は一見穏やかに見えて、しかし、心のうちを
(どうにもなぁ……)
この手の人間を純度100%のクズと断定できるほど後藤は馬鹿では無い。そもそも恨みを持つ人間は、その対象が極悪人であって欲しい願望のもと目が曇る。
これは経験から学んだ事。
——だが、沙耶香と徳人を
当たり前だ。
それはそれとして、盧乃木徳人という少年に興味を抱き始めていた。
(ひとまず会話に付き合うか)
長考の末の結論。
「……なんで俺と話したい?」
「それは、あなたと僕の立場が似ているからですよ」
「似てる?」
「盧乃木家に生まれながら、しかしそこから外れた存在。盧乃木家という穢らわしい家系に染まらなかった人間……」
ようやく……分かりやすい感情を見せた。
昏い地の底を這う様な声。
胃の腑に満ちる憎悪の吐露。
1人の少年が抱えるには大き過ぎて……しかし、妙に納得がいく。
(いや……)
これすらも意図的に見せている懸念。
しかし、ここでそれを疑っても仕方ない。
「……っと、失礼。つい気持ちが入ってしまいました」
そう言いながら、朗らかな笑みのもと、その場にあった簡素な椅子に腰掛けた。
目線の高さは徳人の方が下。
こうやって見ていると、やはり年相応の少年で、やりづらい。
「別に良いよ。そんぐらい感情出された方がやりやすいし、ただ……これは先に聞かせてくれ」
「なんです?」
「お前は、沙耶香をどうしたい?」
結局、回りくどいやり口を後藤は好まなかった。
事態は切迫している。
咎人狩りの前日たるこの瞬間、沙耶香を殺しに各地の魔術師が参集している。それに、この目の前の企みに長けた少年のこと。本気で沙耶香を
手段を選ぶ余裕は無い。
「姉さんを?……どうって、殺したいと思ってますよ」
「……そうか」
そして、しばらくその真意を探る様な眼差しを後藤は向けた。
ただ、それ以上、言葉は無いらしく、
手を伸ばし徳人の背に周り込みざま頭を固定。一息、首を締め上げるまでに要するのは数秒をより早く刻んだ時間。
そして、己が肉体と火器刃物のみで魔術師と渡り合った後藤にとって隙を突き子供を殺すなど容易いこと。
容易いが、
「……やめてもらえません?」
いたって声音を変えず。
両腕で固定し、締め上げた腕が鋼鉄の支柱の破壊を試みる様に締まらない。
そのまま徳人は続けた。
「親切で言ってあげますと、貴方に私は殺せません。私はあらゆる死を消失させます。ま、これを自分に使うとあの女を思い出すので嫌なんですけど」
「あの女ぁ?あの女ってのは……」
恐らく沙耶香では無い。
数秒、ダメ元で首を締め続けながら考え、遂に諦め、両手を上げ降参のポーズでフラフラ、ベッドへ戻り、座り直す。
「ケイン・レッシュ・マの事か」
消去法の答え。
「御名答……という事は、貴方もあの女に毒されてるわけではない」
「毒されてる?……ずいぶん大袈裟な……とするとあれか?沙耶香は毒された側ってことか?ケインの……何に?」
「……強いて言うなら怪物性」
「怪物性?」
訳がわからない。
「順を追って話しますが、『第7特異点:6匹の
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