時空超常奇譚3其ノ六. GENESIS/ヒトはどこから来たのか

銀河自衛隊《ヒロカワマモル》

時空超常奇譚3其ノ六. GENESIS/ヒトはどこから来たのか

GENESIS/ヒトはどこから来たのか

 ヒトはどこから来たのだろうか。それに答える考え方が三つあると言われている。

 一つ目は、地球で奇跡的に誕生した唯一の生命体が進化を重ね現世人類になったとする「人類進化説」だ。

 生命はたった一度の奇跡によって約35億年前の地球で単細胞生物として誕生し、その後単細胞生物から多細胞生物へ、約5億4000万年前のカンブリア紀の爆発的な種の誕生から、デボン紀には魚類、両生類、石炭紀には爬虫類、三畳紀には爬虫類型哺乳類、中世代の白亜紀末の生物の大量絶滅を経て、新生代に哺乳類へと大進化を遂げたと考えられている。

 その後、今から1000万年前にゴリラと分岐したヒトは、700万年前チンパンジーと分岐して独自進化を辿るに至り、700万年前の猿人サラヘントロプス・チャデンシスは、350万年前にアウストラロピテクス・アファレンシスに進化、50万年前にホモ・ハイデルベルゲンシスに、30万年前に旧人ホモ・サピエンス、5万年前に現生人類である新人クロマニョン人であるホモ・サピエンス・サピエンスへと進化したらしい。

 それらの繋がりが正確なのかどうかは専門家にも断定は出来ないだろうが、くの如き道を歩んで我々ヒト人類は誕生した。

 ある時、意識の存在は深い海の底で自身の存在意義を考えた。

「ワタシは誰だろう……ワタシは何をする為に何故ここにいるのだろう……何故……何故……そうだ、生きる為だ……生きるとは何だろう……」

 意識の存在は、そう言って自我の方舟に乗って泳ぎ出し、単細胞生物から多細胞生物生物へ、多細胞生物生物から魚類へ、魚類から両生類、爬虫類を超えて哺乳類へと大進化した。

 進化論によれば、進化とは長い時間をかけて徐々に変化していく。進化の原動力は適者生存、環境に適応する為の遺伝子の突然変異であり、各変異段階の中間種は当然の如く存在する筈なのだが、如何ともし難い疑問として進化説の明確な証となる中間種がない。

 進化が確実に起こり得るものならば、今この瞬間にも世界のどこかで、背ビレが前足になり尾ビレが後足になって歩き始めた魚がいても不思議ではないし、更に首の長くなったキリンもいる筈だ。卵を産む常温動物や哺乳する変温動物がいてもいいのだが、そんな生物はどこにも存在していなし、その化石も発見されていない。

 かつて魚類と両生類の中間種と騒がれたシーラカンスが4億年前と全く変わらぬ姿で現在も生き続けているという事実は、シーラカンスが中間種足り得ない事を意味している。

 魚類と両生類、両生類と爬虫類、爬虫類と哺乳類の大進化、そして類猿人とヒトの進化に至るまで、そのどれ一つとして未だに発見されず、今後も恐らく発見される事はないだろうと言われている。やはりそもそも中間種たるミッシングリンク自体が存在しないのではないかと言わざるを得ない。即ち、ヒトはいきなりヒトとして発現したと言わざるを得ないのだ。一般に流布している定義としては何と脆弱な事か。それが故に進化論は未だに一つの学説に過ぎないとされ、自らは理論上の定説にさえ進化出来ないでいるのだ。

 二つ目の「神の創造論」は、ミッシングリンクという進化の疑問によって必然的に進化論を否定し、神の世界へと誘う絶対的な効果を内包する。何と言っても、単純でわかり易い。神というフレーズが前提でなければ全ての人々に理解出来るのだ。

 神の創造論はトンデモ論の権化でありながら、アメリカを中心としたキリスト教圏では普通に教育の一環とされている。創造論はこの世の天地万物の創造主は旧約聖書創世期に書かれた創造主たる神であると位置付けられ、生命とはそれぞれの種が個別に創造された不変的な存在でなければならない。更に、天地創造の日は紀元前4004年10月23日午前9時とされている。

 神の創造は、神の御手による直接的な人類創生であり、創造論者は声を大にして「それこそが、ヒトが、生物が神によって創造された証拠なのだ」と叫ぶのだ。嬉々としたその顔が浮かぶ。

 だが残念な事に、神による人類創生は宗教という想像の世界から一歩足りとも出る事はない。何故なら、まず大前提となっている神の存在を合理的に説明する事が出来ない。そもそも神とは人間如きに説明すべき存在ではない。

 そしてもう一つ、もし全ての生物が神の創造物だとするならば、創造の日である4004年以前に地球には一切の生命が存在していない事になり、約6000年前の世界は単細胞生物から魚類、両生類、爬虫類、恐竜から人類までありとあらゆる動植物がごちゃっと詰まり何も変化しない状況でなければならない事になる。炭素14年代測定法も年輪年代測定法も全ては否定され、6000年前の地球にきなり酸素が発生し、食物連鎖が生まれた。生物の種は全てその時に誕生したから、それ以降に新種生物が出現する事はない。

 太古に5回以上起きたと言われる生物大絶滅も、その後に誕生した新種生物もいない。ツッコミどころはあり過ぎる程あるが、前提も根拠も過程も結果も全てを否定しているから議論にはならない。宗教なのだからそれは当然と言えば当然なのかも知れない。神の創造を確信を以て語る気にはなれない。

 近年では神の創造論ではなく、宗教色を薄めてIDインテリジェント・デザイン論などとしてはいるものの、内容的に違いはない。何れにしても、根本的な部分である「神の存在」という前提に立っている限り、定説となる事はない。

 三つ目は、都市伝説愛好家お待ちかねの「古代宇宙飛行士説」だ。全く相手にするに値しないと言い捨てるものではないかも知れないが、この説もまた、そもそも根本的な部分でフィクションの域を出るに出られない。映画プロメテウスその他、これを題材にした映画や小説は数えれば切りがない程ある。また、太陽系内惑星ニビルから来たアヌンナキという集団が人類を創造してシュメール文明を築いた、という完全なる都市伝説にもなっている。

 古代に異星人が地球で遺伝子操作をして人類を創造したという話は都市伝説の側面を持って語られているとは言え、もっと本質的な「地球上の生命体は地球で奇跡的に誕生したのではなく宇宙から飛来した」とするパン・スペルミア説ならば、あり得る気がする。惑星ニビルは流石にやり過ぎだが、遥かに広大な宇宙に存在する恒星と従星から異星人が飛来する事には何の不思議もない。

 それは、ジャングルの奥地に他部族とも一切交流のない人々が、「我等は地球に奇跡的に誕生した人類であり、この世に存在するのは我等のみだ」と言っているのと大差はない。そして彼等はきっと、時折空の彼方を飛ぶ飛行機を見ては「UFOだ」と叫ぶだろう。

 結局、創造論と同様に根本的な部分「宇宙人はいる」という前提に立っている限り、可能性はあってもこの説が定説となる事もない。

 宇宙を渡り、天の川銀河を掠めながら飛んでいく巨大な高速宇宙船の中で、副船長がモニターを指差して叫んだ。前方に輝く恒星を回る小さな星が見える。

「船長、あのちっこい星に生物反応があります。どうしますか?」

「ここは、e38002540n998123銀河の中心から10万光年の距離か。随分辺鄙な位置だが、恒星から三番目の惑星でハビタブルゾーン内だから、生物、いやネズミぐらい棲息していても不思議はないな」

「船長、あの星にくっ付いているあの衛星。ありゃ高く売れるに違いありやせんぜ」

「あぁ、かなりの値がつきまそうだな」

 船員達は惑星を周回する衛星に異様な興味を示した。彼等は東宇宙を暴れ捲る宇宙海賊ティアマト団。惑星や衛星を侵略し、邪魔をする生物は皆殺しにして高値で売り飛ばす事を生業なりわいとしている。

 船長と呼ばれる大男は、興味深くモニターに映る星を見つめながら呟いた。

「そうだな、あの惑星と衛星どちらもいただくとするか。それにしても「生命の種」はこんな辺鄙な宇宙の果てまで流れて来ているとは驚いたな」

 宇宙に存在する全ての生命体は、宇宙開闢とともに誕生した「生命の種」から進化する。生命の種は宇宙を漂い、凡ゆる星に流れ着く。そして条件が満たされれば発芽して、星々の環境に従って多種多様な姿へと進化する。

 一般的な進化で言うならば、発芽した種は一方で植物となって水と二酸化炭素から酸素を生成し、他方で単細胞生物となり好酸素生物から魚類、両生類、爬虫類、哺乳類、更に神聖類へと進化する。環境に適応出来なくなると、元の命の種へと姿を変えて再び宇宙を漂っていく。

「どんな生物か興味深いな。オルビス、テール、付いて来い」

 二人の船員が嬉しそうに言った。辺境の地にいる生物を見つけるのは何度経験してもワクワクする。

「了解です」「ウィっす」

「お待ちください船長、また行くんですか?」

 苦虫を噛み潰す副船長は、船長の度々のヤンチャな行動に辟易顔で言った。

「この宇宙にはさ、俺達の知らない生物がまだまだいるに違いないんだぞ。探検に行くのは当然だろ?」

「気持ちはわかりますけどね、もう少し自分が船長だって事を自覚してくださいよ」

「心配するなって」

 根負けした副船長が呆れながら言った。

「この前もそう言って、結局タコ星人に巻き付かれて窒息し掛けたじゃないですか。オルビス、テール、船長を頼むぞ」

 誰よりも積極的に先陣を走りたがる大将というのも困りものだ。心配顔の副船長を横目に、三人は探索用小型船に乗り込んだ。球体型の船は反重力で進み、電磁気によるバリアは高い剛性と耐性を備えている。

 巨大な宇宙船から打ち出された小型船が母船から放たれ、三人は、海と緑の陸地に覆われた小さな星に降り立った。空には眩しく恒星が輝いている。船の外は比較的温暖な気候で空気もあり、草の生い茂る大地が続いている。その向こうにジャングルが見える。

「まず俺達で様子を見てきますから、船長は船で待っていてください」

 少しも船長の自覚のない大男が駄々を捏ねた。

「いや、俺も行く」

「駄目っすよ」「そうですよ、副船長から頼まれているんすから」

「わかった、気をつけろよ」

「了解」「大丈夫っすよ」

 星の状況、特に生物種の生存分布の確認は探索には第一絶対必要条件となる。どの程度の力を持ったどんな生物がどこにいるのか。甘く見ていると、その生物からの攻撃で命を落とす危険性が高くなる。

 オルビスとテールは、反重力スクーターに乗って、母船から送られる上空からの映像と位置データを頼りに東と西から探索を行い、小型船に戻った。

「どうだ、ネズミはいたか?」

「船長、この星の主権種はどうやらザール人種のようですぜ、数は1000から2000程度。結構色々な種がいるみたいですけど、大した攻撃レベルではないすね」

「ザール人か。こんな宇宙の果てにどんな生物進化が見られるかと期待したのにな、ザール人とはつまらない」

「残念っすね」

「それにしても、お前等と同じザール人種というのは最強の進化型だな。そこら中の星にいる」

「そうっすね。東宇宙だけじゃなくて殆どどこにもザール人がいますもんね。北宇宙だったらグーマ人が多いっすけどね」

 宇宙には四大主要人種が存在している。北宇宙の熊型人類グーマ人、南宇宙の鳥型人類ドーリ人、西宇宙の両生型人類エルカ人、そして東宇宙に猿型人類ザール人が分布している。ザール人以外は殆どが限定された宇宙を勢力空域とする傾向にあるのだが、それに比べてザール人は全宇宙を生存圏としている。

「船長、いきなりですけど、仕事に取り掛かりますぜ」

「中性子ミサイル弾、準備します」

「そうだな。とっとと終わらせよう、何か嫌な予感もするしな」

「船長、準備完了っす」

「投下しろ」「ウィっす」

 天空に停止する母船から黒いミサイルが地上に発射された。ミサイルは、中性子爆弾を搭載して一発で惑星内のほぼ全ての生物を死滅出来る威力がある。黒い爆裂弾は一筋の白い投下跡を残しながら地上に消え、爆発の光輪が見える筈だった。

「どうした?」

「不発っすね。珍しい事もあるもんだ」

「最近は手抜き物が多いって言うからな」

「船長、どうします?」

「構わん、次弾発射しろ」

「えっ船長、勿体ないですよ。不発弾、回収して返品しましょうよ」

「そうっすよ。俺達が回収しますから、ちょっくら待っててくださいな」

「余り無理はするなよ。ザール人は狡猾だ、慎重に気をつけて行けよ

「お任せくださいって」

「大丈夫っすよ。俺達もザール人っすから」

「そうだったな」

 山の向こう側、ジャングルの奥の小山の上にミサイルが突き刺さっている。

「あれだな」

「見事に刺さってやがる」

 二人は手慣れた手つきでミサイル側面数ヶ所に反重力装置を取り付けた。あとは、そのまま母船へと逆送するだけだ。その時、二人が来た方角から声がした。

「終わったか?」

 スクーターに乗る大男が笑顔で言った。

「船長、何しに来たんすか?」

「子供じゃねぇんすから、船で待っててくださいよ」

「いいじゃないか、俺だって探検したいんだよ」

 二人は嘆息顔で、子供のようにはしゃぐ大男を諭した。

「船長、いつか痛ぇ目に遭いますよ」

「船長が思ってる程安全じゃないんすから・」

 ミサイル側面に取り付けられた反重力装置が作動し、ミサイルが上方向に動き出した瞬間にオルビスとテールの目前の小山が崩れ始め、周辺一体が音を立てて円形に地盤沈下した。同時に、空を越えて無数の矢が三人に向かって飛んだ。

 オルビスとテールが崩れ落ちる土砂に巻き込まれた。二人が土砂に埋まりそうになる緊急事態を何とか回避している間に、天空から落下する矢の嵐が船長の身体を貫いた。船長は声さえ出せずに倒れた。

 やっとの思いで土砂の中から這い出たオルビスとテールの二人は、倒れたまま動かない船長の状況に愕然とした。幾本もの矢が身体に刺さり、その内の一本が心臓を貫いている。

「ヤベぇ」

「身体が硬直してるぞ」

 無線を聞いていた副船長は、何事かと訊ねた。

「何があった?」

「船長がヤバいっす」「どうすればいいすか?」

「直ぐに救援に行きたいが、崩れた小山の中の詳細位置が確認できない」

 一刻を争う緊急事態の発生に対応の遅延が予想される。テールの「どうするか」の言葉に、オルビスも策が見出せない。

近くに反重力装置の一つが転がっている。「これだ」と発想したテールが叫んだ。

「副船長、今から船長をそっちへ飛ばすっす」

「どうやって?」

「反重力装置を船長に取り付けて飛ばすっすよ」

 テールは、動かない船長の宇宙服に反重力装置を取り付け、躊躇なくスイッチを入れた。大きな身体が天空に吸い込まれるように飛んでいく。

「船長、死なねぇでくださいよ」

 テールもオルビスも祈るように空を見上げた。暫くして、船から取りあえず瀕死の大男が宇宙船に帰還した旨の連絡が来たが、どうやら副船長と船員達はパニックに陥っているようだ。

「船長がヤバい、直ぐに本星へ発進だ」

「副船長、オルビスとテールの二人はどうするんすか?」

「あいつ等には悪いが、対応している余裕はない」

「副船長、体勢を建て直して二人を救出に向かいましょうよ」

「いや、駄目だ。直ぐに発進しろ」

「副船長、いいんですか?」

「構わない、二人もザール人だ。しかも、遺伝子操作で思考指数を極限まで上げた優秀な戦士だ。きっと何とかするだろう」

 巨大な宇宙船が天の川銀河の向こう側へ消えた。地上では石と棍棒を持ったザール人の集団が二人を取り囲んでいた。

 その星が地球であったのかどうかは定かではない。宇宙の辺境の星に取り残された二人の戦士がその後どうなったのかを知る者はいない。

 三つの説を検証しようとすると、実はそれぞれ三つとも最初の一歩でつまずいてしまう。人類進化説では「奇跡的に誕生した唯一の……」で首を捻ってしまい、神の創造論では「神が……」で寝てしまう。更に宇宙飛行士説では「異星人が遺伝子操作で……ニビルが……」といきなりお腹一杯になってしまう。

 何せ、どれもこれも胡散臭い。それぞれの根拠が薄い割には結論の押し出しは強烈で、それぞれの主張者達は決して譲ろうとはしない。彼等は今日も「人はこの宇宙唯一の存在であり・」「神を信じる者は救われ・」「宇宙人はいる・」と叫んでいるに違いない。

 ヒトがどこから来たのかを見た者がいなくとも、一つだけ確実に言える事がある。それは、我々がお伽話や夢物語やSF映画ではなくこの地球に厳然と生きているという事だ。それは即ち、どこかの時点で現実としてヒトが生まれる何かがあったという事でもある。そうでなければ我々は地球に存在し得ない。

 どこかに酔狂な神か異星人が現れて、「それ、ワシがやったんやで」と言って創造か遺伝子操作を見せてくれる日が来ないだろうか。その日が来るまで、我々は仕方なく「奇跡の地球物語」というお伽話を聞かされ続ける事になるのだから。


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