第111話 【もえもえエンド】小松秀亀と近衛宮萌乃のこんな未来は嫌だ! な可能性

 俺は近衛宮家から強い要請を受諾したため、世界を暗躍する特務機関・KINUKOのエージェントになっていた。

 22の時に入隊したので、今年で6年目。



 なんでこうなったんだろう。



(おっす! おら、キャメロン・ディアス!! コードネーム、HIJIKI応答しな!)


 応答したら死ぬだろうが!!

 ここ、アメリカの謎の組織で、銃持ってる人がいっぱいいるんだけど!!


『こちらもえもえです! 旦那様!!』

「はい!?」


『今晩のメニューですが、クリームシチューとビーフシチューだったらどちらがお好みですか!』

「それをこのタイミングで聞いて来る!? じゃあクリームシチュー!!」



『もう、旦那様ったら! 母乳はまだバレーボールから出ませんよ!!』

「ああああ! レアぴっぴと同じ大学で4年間も仲良くさせるんじゃなかった!! 表現のオブラート全部溶かしやがって!!」


 その後、俺は「侵入者だ!」とか叫ばれて、なんか銃撃戦に巻き込まれた。



 どうしてこうなったのか。

 その点だけはハッキリさせておきたい。


 クリームシチューが食えるかどうかの瀬戸際なんだ。

 悔いは残したくない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 萌乃さんとなんか恋人関係になったのは、大学を卒業する間際の頃。

 「お茶をしましょう!!」と誘われて、ほいほい出かけて行って足を滑らせて転んだ弾みに萌乃さんのバレーボールを咄嗟に掴んで黒服さんたちに囲まれて連行されたのが馴れ初め。


 気付くと俺は、近衛宮家の第8邸宅にて正座させられていた。


 俺の前には当代のアナ太郎氏。

 その隣には先代のハメの助氏。

 当然隣には先々代の乳武臣ちちたけおみ氏。


 うっかり「名前が全員ひでぇ!!」と叫んでしまい、俺は死を覚悟した。


 だが、萌乃さんは横で「わぁ!」と目を輝かせて拍手している。

 俺が死んだら永遠に私のものですとか言い出すのかな、この子。


「うぬの覚悟、とくと見定めさせてもらった」

「うぬって初めて呼ばれました。ラオウ以外でもいるんですね、そんな呼び方してくる人」


「ほう。なかなか剛毅な男ではないか」

「あなたがおじい様ですか。どうせ死ぬなら好きなこと言おうって思いまして」


「亀!」

「秀亀ですが!! 曾おじい様はもしかしておボケになっておられる!?」



「亀! バレーボール、好きか!!」

「好きか嫌いかで言えば、結構好きだったと今なら思います!!」


 「トシ、サッカー好きか?」みたいな事を言われたのが最終試験だったらしい。



 それから「コングラチュレーション、うーぬー!」とハッピーバースデーの歌の感じで当代、先代、先々代の近衛宮家の当主様にお歌のプレゼントを拝受し、翌日にはもう結婚式が執り行われることになった。


 バレーボール部のユニフォームに着替えさせられて新婦を待っていたところ、現れたのがばあちゃん。

 もうちょっと何が起きているのか分からない。


「秀亀。あんたには話してなかったけどね。この世界は今、終わろうとしている」

「もうやだ! ここ、頭おかしい人しかいねぇじゃん! もえもえー!! 助けてー!! バレーボールが恋しい!! 俺、君とバレーボールが大好きだー!!」


 それを聞いていたもえもえが「もえもえも小松さんを、いいえ! 旦那様を愛しております!!」と言って、バレーボール部のユニフォーム姿で抱きついてきた。

 俺はバレーボールが大好きになった。


 それから式が始まり、なんか見たことある日銀の総裁とか、総理大臣やってた人のそっくりさんとか、経団連会長とか言う肩書の人とかを眺めていると、その全員がばあちゃんの前で深々と頭を下げていた。



 新郎は俺なんだが!!



 結婚式が終わると近衛宮家では「初夜の契り」という儀式が行われるらしく、もう字面から嫌な予感しかしなかったが、こんな時に嫌な予感が外れるほど俺は前世で徳を積んでいなかったらしい。


 バレーボールともえもえが待ってた。


 そんな風に追い詰められると秀亀のヒデキは沈黙するのはご存じの通り。

 嫁さんになって24時間も経たないのにもえもえを泣かせちまったと悔やんでいたところ、ばあちゃんとアナ太郎とハメの助と乳武臣が入って来た。


 マジでまともなヤツ出てこねぇんだけど!!


「さすがは絹子様のお孫様。よもや、バレーボールを見て微動だにせぬとは」

「ふっ。うちのヒデキを舐めんじゃないよ。こんなことで歩き回るなら、とっくに曾孫の5人や6人、あたしゃゲットしてんだよ!!」


 ばあちゃんに肩を叩かれる。



「秀亀。あんたが今日から、日本と言う名の船を救うんだよ。さあ、乗り込みな」

「よく分からんけど、初めて船下りろ以外の命令受けたわ! じゃあね、俺、乗る!!」


 俺が今生で教訓にすべきは、ノリに合わせてしまうこの性格だと痛感した。

 来世では活かそう。



 そして俺は、特務機関・KINUKOのエージェントになったのだ。

 特務機関・KINUKOとは、日本に危機が迫る際に近衛宮家から選任された男が命を賭して任務に殉ずる超精鋭部隊である。


 古くは第二次大戦下の日本で本土決戦を未然に防いだのもKINUKOだとか。


 ねぇ。ばあちゃんって何歳?

 80でも計算合わなくなったんだけど。


「アメリカの某所でばあちゃんのクローンが製造されているという事実を掴んだよ。ただちに施設を爆破して来な」

「別にいいじゃん。ばあちゃん増えても」


「ばあちゃんと同じ思考を持つばあちゃんだよ? 言っとくけど、あんたがもえもえちゃんと事に及ぼうとしたら、その度にステレオでテレパシー送ることになるよ?」


 俺はアメリカへと飛ぶことになった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そして今。

 俺は某州にある地下施設に侵入し、さっきそれがバレたところである。


『こちら、もえもえです!』

「はい!!」


『もえもえは新しいバレーボール袋を購入しようと思うのですが、旦那様は黒と赤、どちらがお好みですか!』

「どっちもヒジキに刺激が強い!! 白はダメ!?」


『あぅ……。強引に旦那様の好みを押し付けられました。バレーボールが爆発しそうです』



 ヒデキが起きた。



 昔から体だけは丈夫だった。

 それをさらに鍛えた。

 特務機関とやらにぶち込まれてからは、生き残るために鍛えた。


 嫁を遺して逝けるか!



 まだ! まだ俺は! ヒデキに仕事をさせていない!!



 たどり着いたのは最深部。

 そこにいたのは、見たことのあるロマンスグレーの髪を撫でつけた紳士風の男。


「来てしまいましたか。ヒジキ様」

「良男さんかよ。いや、もうなんとなく察しはついてたよ? ばあちゃんのクローンってことは、ばあちゃんのなんかアレなエキスいるんでしょ? 良男さん、ばあちゃんに2回食われるもんね?」



「ヒジキ様。7度です。ラスベガスで貯金を失う度に抱かれました」

「ばあちゃん! 蹴り飛ばしていい!? 分かった! オッケー!! おらぁぁぁぁ!!」


 良男さんを渾身の蹴りで仕留めて、ぐったりしたセバスチャンもどきを担いで脱出、任務完了。



 俺は6年にも及ぶ過酷なエージェント稼業から足を洗う事に成功した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「もえもえ。話がある」

「はい!! 覚悟はできております!!」


「俺と一緒に日本を出よう。この国はもうダメだ。KINUKOに支配されてる」

「はい!! 旦那様とならば、地球のどこにだって! いいえ、宇宙にだって行きます!!」


 俺は思い出していた。

 もえもえの家庭教師をしていた若かりし頃を。


 そうだった。



 この子、割とバカなんだった!!



 今はそのバカなバレーボール部女子がただ愛おしい。

 俺たちはその日のうちに出国した。


「しかし、どこに行こうかね」

「セスナ機を操縦する旦那様、ステキです!!」


「ああ。ハワイでばあちゃんに習った」

「では、地中海などいかがでしょうか! もえもえは土地勘がありますし!!」


 そして俺ともえもえは地中海の東の果てにある孤島で生活を始めた。

 20年後、カマンベール伯爵家として名を馳せることになるのだが、その未来はまだ俺も嫁も知らない。


 ヒデキは極限状態のせいか、週に3度起きる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る