第109話 【ぼっち警察エンド】小松秀亀と安岡新菜のあったかもしれない未来

 大学生活も終わりに近づき、後期の講義は2コマのみ。

 俺は新菜と一緒に大学の学食でお昼ご飯を済ませている。


 安くてボリュームのある昼飯が食えるのもあとわずかかと思うと、何と言う喪失感だろう。


「やー。まさか秀亀とわたしが付き合うとはねー。まりっぺにフラれるとかねー」

「ヤメろよ!! いつまでその話題持ち出すの!?」


「わたしは良いんだぜー? まりっぺにフラれたからってすぐにわたしをターゲットに変えて来るとかさ、秀亀が結構ワイルドな陽キャムーブ見せて来たから、キュンとしたし?」

「いや、だって……。茉莉子が新菜さんと付き合わないと一生後悔します! あんなにおじさんと波長の合う人いないですよ? 目、見えてますか? とか毎日言うんだもん。なんか、よく考えたらそんな気がしてきてさ?」


 実際、茉莉子きっかけではなく俺が自発的に仲良くなれた女子って人生を振り返ってみてもこのぼっち警察の婦警さんだけだったりするのだ。

 そこにフォーカスしてよーく熟考してみたところ、「あれ? マジで新菜に出会ったのって運命なんじゃね!?」とか思うようになっていた。


 なんとも単純な思考で我ながら情けないが、「恋愛ってのは単純なもんさ! 目が合って、抱きてぇって思った時が始まりでゴールなんだよ! このヒジキ!!」とかばあちゃんも2日に1度テレパシー送って来るし、小松一族総出で背中押されたら、俺もその気になってしまったというアレである。


「マジかー。けどわたしさ、オシャレとかしないよ? 秀亀は好きだし、夫婦になったら楽で快適そうだなーって思うから全然ウェルカムだけどー。なんかねー。今更、秀亀を振り向かせちゃうゾ!! とかさー。そーゆうノリになれないんだよなー」



 ただ昼飯を一緒に食ってて感じる、この居心地の良さ!!

 マジでこれが理想の嫁なんじゃないかって俺の中の心理学が叫んでいる!!



「いや、いいって。俺も新菜のためにオシャレして張り切ったりしないし」

「えっ。マジで? やー。それは残念な情報を聞いちったぜー。わたし、恋人にはオシャレでいて欲しい―」


「ええ……。お前、自分は自然体でいるって宣言して、直後にそれかよ?」

「女心が分かってないねー、秀亀くん。自分のために頑張る男子に女子はときめいちゃうものなんだゾ!! あーあー。そんなこと言うなら、わたし実家に戻って家業手伝うかなー。就活全然上手くいってないしー」



「マジかよ!? 俺、喜津音市役所の採用決まったのに!? 安岡旅館って車で3時間かかるじゃん!! すっげぇ遠距離!! 新卒でただでさえ時間ないのに!?」

「ほほう。つまり、秀亀はわたしを専業主婦にして、隣にいて欲しい訳ですな? では! その覚悟を見せてもらおうじゃないか!! わたしを秀亀に惚れ直させてみろー!!」


 週末のデートのデキ次第で、実家に帰るか同棲するかを決めるらしい。



 なんだか面倒なことになったが、新菜までいなくなったら俺、またぼっちだよ!!

 絶対に避けなければ!!


 負けられない戦いが始まってしまった。

 あと、お前は就職するって選択肢ないんだね?


 良いけどさ。ぼっちになるくらいなら養うよ?



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ばあちゃん! ばあちゃん!! 宇宙で1番ステキなばあちゃん!!


(おっす! おら、クレイジーダイヤモンド!! 出しな、てめーの知恵袋を!! 何でも頼ってくんな! このカス!! スカスカ玉袋!!)



 ダメだ。

 ばあちゃんが機能しない世界だ、ここ。



 こうなれば、自力でどうにかするしかない。

 しかし、よく考えたら俺、デートってしたことないよね!?


 新菜と付き合い始めて10か月。

 一緒に俺の家に帰って飯食ってゲームするか、新菜のアパートに行って飯作ってゲームするか、どっちかのパターンしかしてない。


 デートってどうやるの?


 それから俺は東奔西走、喜津音市をあっちこっち駆けまわった。

 デートスポットを探したのである。


 そして見つけた。

 俺と新菜が大学生活で1度も体験しておらず、俺と新菜が是非とも初体験してみたいと思っていた場所があったじゃないか!!


 土曜日が決戦。

 俺は、働かないし家事もあまり期待できないけど一緒にいるだけで居心地の良い専業主婦の嫁さんをゲットしてみせる!!



◆◇◆◇◆◇◆◇



 新菜を駅前に呼び出して準備完了。

 コンビニで買った肉まん食べながら待っていると、15分ほどでスタイルの良いジャージ姿のポニーテールがやって来た。


「おいっすー! おまたー!!」

「マジでオシャレしてくれねぇのな!! いいけど! ほれ、肉まん!」


「えっ。やだ! わたしの胸見ながら、肉まん差し出してくるとか!! これからもしかして、ホテル連れてかれる!?」

「想像力だけは胸と同じくらい豊かになったな! そんなとこに俺が特攻かけられる度胸があると思ってんの!?」


「うんにゃ? そんなワイルドな海藻はわたし、ちょっと彼氏も旦那も無理だぜー。あ、肉まんが良い感じに冷めててパクパクいけちゃう。秀亀、それちょーだい」

「飲み物くらい買いなさいよ。ほれ」


 俺の黒烏龍茶を渡してやったら、全部飲み干された。

 二口しか飲んでなかったのに。


「やだー! 間接キッスしちゃったー!!」

「ゴクゴク喉鳴らして飲み切ったあとに言うセリフじゃねぇな。全然興奮しない」


「さてさて! どこに連れてってくれるんだね? 海藻ボーイ!!」

「ふっ! 目的地はもう見えてんだよ!! そこだ!!!」



「マジで……? ら、ラウンドワンじゃん……。わたし、ジャージで来ちゃったよ。ドレスコードに引っ掛かんじゃん?」

「そう思って、さっき電話して聞いといた。ジャージでも入店可能らしいぞ!!」


 なんかすげぇ怪訝な感じで店員のお姉さんが教えてくれた!!



 というわけで、俺たちは魔境に挑む。

 この上ないほど俺の男らしさを見せつけるに相応しいデートスポットだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「えっ。じ、時間? あの、えっ? 入場券的なものは? あ、えっ? ああ、カラオケみたいな感じでコースが? 違う? コースはある? アトラクションの? あ、はい。ええと……。1番高いヤツ、2人前お願いします」



 ラウンドワンの受付が早くも俺と新菜の前に立ちはだかった。

 なに? 入ったら「いらっしゃいませ!」じゃないの!?



「……なんか、あの。情けないところをお見せして……」

「いや、秀亀。わたし感激してんだけど。というか、秀亀の中に男を見た。マジか。わたしのために、あの謎の言葉を全て一人で受け止めて対応を試みるとか。男子じゃん!! 秀亀、実は海藻じゃなくてイケメンだったんじゃん!!」


 入店しただけでなんか認められたんだけど!!


「どういうこと!?」

「いやいやいや! 秀亀ぃ! 自分のやった偉業を理解しろー!! ぼっちは2人揃っても戦闘力は上がらないんだぜ? むしろ、下がる! お互いに足引っ張り合って!! なのに、秀亀ぃ!! わたしをリードしてくれるとか!! 決めた! わたしゃ、あんたに一生を捧げるぜ!!」



「なんで!? 俺、今、プロポーズされてる!?」

「そうだぜー? なに? 新菜さんじゃ不服かね? ジャージの下、ヒートテックだけど。とりあえず脱ごうか?」


 少しだけ考えても、やっぱり事情は掴めなかった。

 だけど、俺が新菜を好きなのは間違いないと再確認はできたので、もう充分か。



「おし! 2人で幸せな家庭を作ろうぜ!!」

「おうよー!! 子供デキたら、保護者会とかは秀亀が行ってね? わたし怖い!」


「えっ。俺も怖いんだけど!?」

「その分、家では尽くすからー! とりあえず、キスとかしとく?」


「あ。ごめん。今、ガム噛んでるから待ってくれる?」

「そーゆうとこ、秀亀だわー。この安定感! 絶対に幸せが待ってるね! これからもよろしくだぜー!!」


 こうして俺は、ぼっち警察の署長になれたのである。

 なお、ヒデキは週に2度くらい起きる。

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