第105話 賢くなったマリーさん ~ロマンティックもクソもねぇ~

 俺の名前は小松秀亀。

 たった今、「両想いだと確信して告白してみたらなんか断られるパターンってすげぇ心が痛いんだなぁ」と痛感している男。

 痛感ってこういう時に使うんだ! とも痛感している男。



 笑えよ、ばじーた。



 なんで回線切ったままなのかな、ばあちゃん。


 せめて我が家の様子だけでも見せてよ。

 レアぴっぴが世界中のオレオを手に入れたリアクションを見たいから。



「ふぃー!! よいしょっと!!」

「……まりっぺ?」


「なんですか? と言うか、ぼっち警察に付けられた田舎の香り漂うそのあだ名も呼ばれ続けてるとなんだか馴染みましたねー。茉莉子、マリー、まりっぺ!! トリプルフェイスじゃないですか!! アシュラマンですね!!」

「安室さんじゃなくて!? ねぇ!? あんだけコナンを山ほど見て、トリプルフェイスって単語にたどり着いて、なんでアシュラマン出てくんの!? アシュラマンは顔が3つあるだけで、3つの顔を持つ安室さんとは意味違うからね!? ワンタッチで顔変わるし!!」



 ヒデキです。

 告白失敗して、その後も茉莉子と住み続けなければいけない事実を今、悟る。

 気まずいのは俺だけ。


 ヒデキです。



「もぉぉ! なんなんですかぁ! このモコモコ服! 脱ぎにくいったらないですよー!!」

「そうだった! なんで脱いでんの!? お前、ここ雪山だぞ!?」


「だって暑いんですもん!! おじさんだって汗だくじゃないですかー!!」

「……これ、愛を叫んだ代償に受けた自律神経の異常じゃないの? あ! マジだ!! チョコとか溶け始めてる! 暖風が……!? あ゛あ゛! エアコンついてる、このお菓子の家!!」


 頭の中に声が響いた。

 生きとったんか、ばあちゃん!!


(ふふふ。まるで白痴だな、ヒジキさん……。ばあちゃんがするかね? そんな閉鎖空間でのんびりとフラれた涙を飲ませるようなリラックスタイムの余地残すなんてさ……。時間制限ありにしたら、ヤる事は分かんだろ? それ、ロンしちゃいな!!)



 ばばあ!! 告白断られた以上、ロンできねぇんだよ!!

 そのハウスルールあるところでは俺、暮らしたくないな!!

 乱れた性って問題だと思う!! 子育て支援と同時にそっちも対策立てようぜ!!



(意外に憶病だな……! 小松クソ童貞の守ヒジキ……!!)


 朝廷がくれた官職みたいに言っても、童貞ディスは綺麗にならねぇんだよ!!


「ふぃぃぃー!! 茉莉子! キャストオフ!!」

「おい、マジかよ! 茉莉子もさぁ! なんでもうインナー残すのみになってんの!? ねぇ! 告白断られたら急にちょっと見ちゃいけないみものみたいな感情が湧いて来てさ!! なんだか少しだけ興奮するんだけど!!」


 瞬間、茉莉子が笑った。



「来たぁぁぁ!! おじさん、おじさん、おーじさん!! ついに茉莉子に興奮しましたね!? この時をあたしは、どんなに待っていたか! パンツをおじさんの引き出しに収納してもダメ! ブラジャーを無言で頭に乗せてもダメ!! 脱衣所で裸を見せてもダメ!! こうなったらもう! おじさんの精神を死に近づけるしかない!! って、おばあちゃんが言ってました!! んふふふふー!!」


(やったね! 茉莉子!! 子供がデキるよ!!)



 ちょっと急に眩暈がしてきた。

 俺、自分で言うのもアレだけど、自分で言うしかないから言うけれど、結構ね、成績良いって言うか、特に「この時の〇〇の気持ちを答えよ」系の問題って得意なのよ、心理学専攻してるから。


 答えがちょっとだけ、ひょっこりはんみたいにこっち見てんだけど。

 一応確認だけさせてもらおうかな。


「茉莉子? 俺のことを?」

「え? 大好きに決まってるじゃないですか? 何言ってるんですか? あたし、大好き以外言ったことありました?」


 騙したな!! 俺を! 騙したなぁぁ!!!



◆◇◆◇◆◇◆◇



 気持ちの整理がつかないのに、ばあちゃんが我が家の様子を頭の中に挿入してくる。

 嘘だろ。待ってくれ。



 挿入って言葉に俺、興奮してる……!?


(君の名は。の、入れ替わってる? みたいなトーンでクソつまんねぇこと閃くんじゃないよ!! このミラ・ジョボビッチが許さないよ!! バイオハザードとモンスターハンターの実写をどっちもやった女優力、舐めんじゃないよ!! モンハンはなんか、アレだったけどね!!)



 くっ。ばあちゃんが強い。


「レアぴっぴ! おめでとー!! オレオいいなー!!」

「もし! 誰かある!! オレオの製造状況を! まだ200万枚ですか!? 8倍のスピードで稼働させなさい!!」


「さすがです、レアピさん。私って本当にまだまだ子供なんだなって思い知らされます。どうやったらそんな風に大人な思考が手に入るんですか?」

「そっすね! まーね! ウチくらいの使い手になると、もう童貞の進行度が目で分かるんす! 秀亀さんは既に最終ステージまで到達してぃーんすから、フラれるのは決められたディスティニーなんすよね! オレオがちょー手に入ったんすけど!! 秀亀さんにも1箱おすそしとかなきゃっすねー」


 マリーの会は相変わらずオレオ賭博に忙しいようで、オレオをチップにした賭博って刑法で裁けるのかなとか思ったけど、こはるんともえもえいるから裁けないね!!

 と言うか、良いかな?



 俺さ! フラれてなかったんだけど!!

 おい、女子ども! むしろ今がクライマックスなんだが!!


 見ろよ!! 茉莉子が服脱いでぇ! 俺が今ぁ! 服を脱がされているぅ!!

 あと、全員でカーペットでオレオの粉拭いてんのはどういうこと!?



「みんな! ヒデキ帰ってきたら、ちょっとだけボディータッチしてやろーぜ!」

「うぃっす! ヒデキをベタベタ触り散らかすんすね!!」

「もえもえ、暖房の温度上げて来ます。ブレーカーの増設完了したので」

「……ははっ。……また私だけ戦力外にされてる」


 誰も見てくれないんだけど。

 あと、秀亀だよ? もう俺の本体、ヒデキに乗っ取られてない?


 ヒジキすらいなくなってんだけど。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 映像が途切れると、俺があられもない姿になっていた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! なんで、お前ぇ!! こんな事になってんだよ、俺は!!」

「んふふふー! おばあちゃんがテレパシーでおじさんの思考をジャックしている間に、茉莉子がせっせとお脱がせしました!! どややややややー!!」


「くそっ! こいつら、最初からグルだったのか!!」

「当たり前じゃないですかー。おばあちゃんのテレパシーはあたしよりずっと強力ですから! おじさんとしょーもない会話しながら、同時に茉莉子とも大事な作戦会議してたんですぅー!!」



 ここに来てテレパシーの力の強弱とかいう変な概念出してこないで!!



「よし、分かった! 茉莉子! 待て!!」

「待ちません! おばあちゃんが、やっちまいな!! って言ってるんです!!」


「それドロンジョ様じゃない? この間、実写版見たじゃん? ばあちゃんじゃないよ!」

「じゃあ深田恭子さんでいいです!!」


 ダメだ! 俺のツッコミ力が低下している……!!

 このままじゃ、なし崩し的にアレがナニして、条例に触れる!!


 だが、それは杞憂に終わった。


 3分ほど「やーめーろーよー」「いーやーでーすぅー」とかやってたら、お菓子の家が崩壊した。

 ばあちゃんは嘘を言っていなかったのだ。


 「お菓子の家崩壊まであと5分」とか界王様の声でナレーションしていたのは事実。

 ドリフのセット崩壊オチみたいな感じでお菓子に埋まった俺たちは、待機していたばあちゃん特戦隊によって救出された。


 なんかベタベタするのでそのまま家に帰った。

 俺の考えたクリスマスの方が、やっぱりロマンティックだったじゃんねぇ?


 そして季節が流れる。

 5年後か、10年後かはまだ分からない。

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