第104話 雪山の中にそびえ立つお菓子の家の中心で愛を叫ぶ ~叫んだら叶うとは言ってない~

 お菓子の家で、いや、ラブホ……いや、お菓子の家!!

 とにかく、なんかお膳立てが整ってしまった。

 茉莉子を連れて来たのは俺なんだから、茉莉子にステキな思い出を作ってやらなければならない義務がある。


 俺だって、散々ヒジキだ海藻だって言われてきたけど、ラブ……お菓子の家で男女が何をするべきなのかくらいは知っている。

 それを実践すれば良いんだろう! 今! この瞬間!!


 俺のヒデキを舐めるなよ!!



 休憩しよう! お菓子食いながら!

 だって、休憩するところじゃんね!

 わざわざ休憩の料金が一番大きく書いてあるもん!!



「よーし! 茉莉子! 今日は特別に、好きなもの好きなだけ食って良いぞ!!」

「本当ですかー!? ここの明らかに高そうなバターが山ほど使われているであろう、ファイナンシャルもですか!?」


「フィナンシェだな、それ!! なんでマリーさんはさ、西欧出身のお菓子中心に的確なミスを重ねんの? マジであと2年以上あるんだぞ、学院生活!!」

「うるさいですねー。お菓子の名前なんてどーでもいいんです! 美味しければなんでもいいんですぅー!!」


 「やれやれ」とため息ついて、茉莉子と一緒に柱を食ったり舐めたりしてたら、なんかすげぇドスの利いたテレパシーが飛んできた。


(おっす! おら、ジャネット・ジャクソン! ひゃー! おっでれぇた! うちの孫の気がどんどん下がっていくぞ! まだ限界を下に突き抜けるってのか!? だが、おらの孫にゃまだ必殺技がある! 次回、玉無しクソ野郎! 秀亀の評価限界突破! 出るか必殺! 3倍海藻拳!! ヒデキー! 死なないでー!! ぜってぇ見てくれよな!! クソが!!)



 ここに来てついに次回予告始めやがったよ、ばあちゃん。

 しかも悟飯ちゃんパートの改変酷いな!!



 あ、ついでに頭の中に我が家のリビングの映像と音声が流れ込んでくる。

 今更だけどさ、ばあちゃんが今の地位を確立したのってこのテレパシーを悪用したからじゃないの?



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ヘイヘイヘーイ! みんな! オレオをチップにして賭けしようぜー!!」

「もえもえは察しました! 小松さんがどのタイミングで告白なさるかですね?」

「お嬢はマジでそーゆうとこっすよ。秀亀さんがお菓子なラブホに入って、いつまでお菓子食ってるかのタイム賭けるに決まってぃーんす。告白? は? っすよ!」


「秀亀さん。もう満足した表情されていますけど……。あ。じゃあ私、マリーちゃんがお腹いっぱいになるまでにオレオ全部でお願いします」


 俺のクリスマスのロマンティックを否定しながら賭けに興じる女子ども。

 小春ちゃんが最初にベットして、しかもなんか俺に対して良くない絶大な信頼を寄せてることは分かった。


 悲しいな。


「ちなみにわたしは!! 5分!!」

「マジすか! 新菜さん、ちょー勝負に出てんじゃにぃーすか!! 5分とか!! 仮に当たったらオレオ100年分くらい配当されるっすよ!!」


「では、もえもえは8時間にします。オレオの支払いは近衛宮家が担当いたしますので、ご安心ください。もし! 誰かある!! オレオを日本全国から均等に買い集めなさい!! お子様の分はちゃんと残して、300年分ほどです!! 1時間でできますね!!」



 オレオなくなるわ!!

 1日の想定オレオが何枚なんか知らんが、絶対に日本からなくなるわ!!


 お子様が牛乳と一緒にオレオ食えなくなるから、その賭け今すぐヤメろ!!



「ウチが最後すか。なるほど、なるほど。では、キメてうぃーんすね!? 秀亀さんがなんやかんやで一生に一度の勇気出して茉莉子さんに告白してぇ! フラれるっす!! つまり、時間は永遠!! 秀亀さん、お菓子の家で犯し損ねて、引きこもりになるうぃっしゅ!!」

「もし! 誰かある!! ヤマモリレアピーチちゃんが大博打に出ました! 仮に当たった場合は配当……1000年分くらいでしょうか!! オレオの買い占めはもう結構です! 今すぐ、権利関係を取得して近衛宮家の所有する全ての工場でオレオを増産なさいませ!! 万が一があります!! 胴元として、未払いは近衛宮家の家名に泥を塗ることになるとお心得なさい!!」


 俺のロマンティックでオレオがえらいことに!!

 ばあちゃんが意図的に俺にテレパシーで見せることによって、焚きつけているんだな、俺のヒデキを。


 いいぜ! 乗ってやる!!

 男を魅せてやるよ!! ここまで言われちゃ、俺だってプライドがある!!



◆◇◆◇◆◇◆◇



 俺は茉莉子の傍に歩み寄る。


「ほえー? どーしたんですかぁ? さては、このちっこいシュークリームがフジツボみたいに合体してるヤツ、おじさんも食べたいんですね!?」

「言い方ぁ!! クロカンブッシュじゃい! 違う、茉莉子。俺はお前に伝えたいことがある」


「あ。はい」

「あのー。あれだ。今日はクリスマスイヴで。つまりな。そのー。俺は男で、茉莉子は女な訳であるからして。要するにだなー。……今日は好きなだけ食べていいけど、帰ったらまたヘルシーメニューにするからな!!」


 すぐに凄まじいボリュームのテレパシーが飛んできた。

 脳が破壊されそう。


(かくして、秀亀のヒデキは戦う事をヤメた。だが、ばあちゃんの怒りは収まらない。この星もろとも消し飛ばそうとしている。果たして、秀亀は脱出することができるのか。お菓子の家、崩壊まであと5分。急げ―。ヒジキー。クソが!!)


 ナメック星編の終盤で毎回あんま変わんなくなった界王様のナレーションじゃん!!

 えっ!?



 お菓子の家、崩壊するの!?

 ばあちゃん、ひでぇよ!!



(うっせぇ! ぶっ殺すぞ!! こんだけ場を整えて、たった一言、アイラビュー! レッツセックストゥギャザー!! そう言えば済むってのに!! このゴールデンボール失くしたクズヒジキ!! 今からばあちゃん、世界に飛び散った7つのヒデキボール集めて1か所にまとめて! 踏み潰すからな!!)


 ヴォルデモート卿の分霊箱みてぇになってるじゃん!

 俺の大事なボール! 2個しかねぇのに!! 分割される!!


 だって! 仕方ないだろ!

 いざとなったら言えると信じて生きて来た20年だったけどさ、いざって時が来て言えなかった20年でもあるわけじゃん!!


(そうやって嫌なことから逃げ出して、ずっと生きていくつもり?)


 よし! エヴァンゲリオンに乗るわ!!


(ヒジキのデータを変更。第302使徒ヒジキエルに本時刻をもって認定。すぐに処理させる。構わん。撃て。代わりはまたこのばあちゃんが作る)


 逃げ場がねぇな!!


 そして俺はすっかり忘れていた。

 よく考えたら、ばあちゃんとテレパシーでやり取りしてるという事は、ばあちゃんの胸先三寸でオンとオフが切り替わり、茉莉子にも届いているという事を。


 隣にいる茉莉子に目を向けると、プルプル震えながら無言でチョコ食ってた。

 これ、全部筒抜けのパターンだ。


 そうなると話が変わる!


 ここでキメないと、家帰ってからすっげぇ気まずい!!

 ばあちゃん、キメるわ、俺!!


「茉莉子!!」

「ほひゃあ!? は、はい!!」


「俺、茉莉子の事が好きだ!! お前が大人になったら、結婚しよう!!」


 思ったよりもずっと、呆気なく大事な言葉は口から出て来た。



「あ。ごめんなさい」


 そして、なんか断られた。



 おい、ばあちゃん。応答しろよ。

 なんで回線切ってんの?


 どうしてくれるんだよ。

 今頃、オレオが死ぬほど大量生産され始めてるじゃん。


 レアぴっぴ、来世でもオレオ食わなきゃいけなくなったじゃん。ねぇ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る