第95話 クリスマスの過ごし方プレゼンのはずなのに結納の話しかしない萌乃さん

 危険な兆候である。


 新菜は基本的にサポートキャラ。

 小春ちゃんはメンタルにさえ気を付ければ幼さを残した可愛い思考の少女。


 この2人が連続で1番、2番で登場すると、3番、4番がどっちも高打率でしかも打ったらホームランな強打者が並んでしまう。

 極めつきに頼みのマリーさんが音信不通。


 絶対に小春ちゃんと風呂場で遊んでやがるので、マリーさんによるテレパシーフォローも望めない。

 味方はぼっち警察だけなのに、こいつビール飲んでるんだよ。


「近衛宮家には代々伝わるクリスマスの過ごし方。その伝統と格式を当代が次代へ、次代は先代を見て行っているのです」

「うん。もえもえ?」


「はい。もえもえです」

「当代から次代に行ったのに、次代がポンコツだったせいで先代に戻ってるからさ。そこで系譜が止まってない?」


「さすがです! 小松さん!! やはり近衛宮家はもえもえの代で終わりにするべきと言う考えにご賛同いただけるのですね!! もえもえ、子供の頃にいろいろ習ったのですが! 全部忘れました!!」

「系譜止めたの君か!! ダメじゃん! 近衛宮家って歴史があるんでしょ!?」



「はい! 平安時代からクリスマスにはイベントを行っていました!!」

「ヤメてくれぇ! 歴史を改ざんしてくんな!! 諸説あるけど、現在の有力なヤツは16世紀にザビエルさんがおっぱじめたミサが起源って言われてんだよ! 多分もえもえが言ってんのは武蔵坊が刀狩りしてたヤツじゃない? ちょっとしたイベントじゃん、あれ! 夜にやってたし!!」


 ちなみに初めてのザビエル先生が行ったソロライブは周防の国。

 つまり現在の山口県だったと言われている。


 山口県にはサビエル記念聖堂というザビエル神父の実家を模した聖堂がある。

 30年前に漏電火災で全焼したが、寄付で復活しているので、是非ともお近くにお寄りの際には……いや、この話はいいか。



「そんでそんで? もえもえの覚えてる近衛宮家のクリスマスは? チキン食べる?」

「さすがはぼっち警察様! 着眼点が素晴らしいです! チキンを並べたテーブルで、次代の当主になる殿方、あるいは嫁入りするご婦人が結納をするのです。その時に呼吸を止めて1秒ほど真剣な目をして、チキンを貪りながら将来を誓うのが習わしです」


「ほげー。すっごいことしてんねー。さっすが華麗なる一族! チキン余ったらちょーだい!!」

「かしこまりました!! 鶏ごとお届けいたします!!」


 俺は桃さんの肩を突いてみた。

 未だに頭にはバレーボール乗ってて不機嫌そうな顔だけど、「なんすか」と返事はしてくれた。


 俺の意見を聞いておくれ。


「これは仮説だが。……萌乃さん、既に受け継いだ情報を全部忘れてない? いや、俺さ。夏から桃さんと萌乃さんの2人を教えてるじゃん?」

「そっすね。お嬢のバレーボールをいつスパイクするかと思うと、ウチは気もそぞりぃーで勉強に身が入りまくりまクリスティーっすよ。見てらんねーっす」


「うん。桃さん、萌乃さんが来てから異常なほど成績上がったもんね? 知ってる? 内緒でこないだの模試の志望校にお茶の水女子大入れといたら、A判定だったのよ? もう喜津音大学なんか無視すればいいのに。あ。ごめんなさい」


 桃さんが目で怒りの波動を伝えて来た。


 多分「ウチが喜津音大学に行きてぃーのはもう、お伝えしてるはずなんすけど。アレすか? 見せブラ外して頭に乗せるっすよ?」と。



 それ、茉莉子に5回くらいやられてるな!!



 いや、そうじゃない。

 俺が同意して欲しい事をまだ言ってないんだ、桃さん。


「あのさ。萌乃さんって喜津音女学院の生徒会長なのに、何て言うか」

「あーね! お嬢はもうガチのクソバカ左衛門っすね!!」


 ハッキリ言い過ぎだと思うな!!

 俺が聞いといてなんだけど!!


 実はもえもえ、成績がそんなに良くない。

 と言うか、うちのマリーさんと同じレベル。


 ちなみにマリーさんは学年順位がちょっと前の中間試験だと180位だった。

 1学年は200人。


 うちの子ね、未だに「日本語の問題文読むのに手間取りましてー」とか言い訳してんの!!

 可愛いでしょう?


 そして萌乃さん。

 同じく中間試験の順位は177位。

 マリーさんよりちょっと良いと思った?


 残念! 退学者が10人いるからね! まりっぺより悪いの!!


 そのため、俺はもう萌乃さんは推薦入試に方針を切り替えている。

 それでダメなら裏口だ! 近衛宮家の力があれば、どこでもドアなんて出し放題!!


「小松さん? 聞いていましたか?」

「あ。ごめん。考え事してた。何だっけ?」


「ふふっ。もえもえとの結納はファミチキにするか、からあげクンにするかですよ! もう、焦らすなんてひどい人ですね! ふふふっ!」

「俺、結構な量の話を飛ばしてたよね!? 近衛宮家のクリスマスが謎のチキン儀式だってとこまではもういいよ! それ、コンビニのホットスナックでやんの!? さっき原材料の鶏がどうのって言ってたじゃん!!」


「はい! 近衛宮家の総力を結集して、ファミチキとからあげクンを作り上げます!!」

「……ファミリーマートかローソンで買って来たら良いんじゃない?」


 萌乃さんが「まぁ!!」と言って、大きい瞳を丸くした。

 嫌な予感がする。


「もし! 誰かある!!」

「ははっ!!」



 SPの人が確実にうちの天井裏に何人か住んでるんだよ。

 気配もしないし、電気代も変わってないけど、絶対に住んでる。

 だって、もえもえが呼んだら2秒で出てくるもん。



「小松さんが大変な! 革新的なご意見をおっしゃられました!! 今のお言葉を聞きましたね?」

「はっ!!」


「では、書面にしてすぐに父と祖父と曾祖父の元へ届けてください」

「ご確認したい由が!」


「なんです?」

「萌乃様ご自身がしたためられるが良いかと! 御屋形様方にも事の重大さが伝わります!!」


「無礼ですよ!」

「はっ!!」



「もえもえは漢字が苦手なので、書くのに1時間はかかります!! あと、字も汚いので6割程度の確率で理解されません! そしてお風呂を頂いたのでコンタクレンズを外しました! 見えません!! もえもえにどれだけの艱難辛苦を強いるのですか、あなたは!! 身の程ともえもえの知性を弁えなさい!!」


 最近ね、もえもえのアホっぽさが時々ものすっごく愛おしいことがあるの。

 これって恋かしら。



 黒服の方がすげぇ達筆で、何故か筆で、俺のどうでも良い呟きを一言一句違えずに書き記して走り去っていった。

 墨汁が1滴ほど垂れてんなと思っていたら、別の黒服の方が天井から飛び降りてきてスッと百万円の束を置いて「御免!!」とか言ってまた天井裏に戻って行った。


 せっかくだから、1万円だけ貰っとこう。

 家賃として。


「以上がもえもえのオフィシャルなクリスマスの予定でした。ご清聴ありがとうございました。小松さん、もえもえはペン習字講座を始めますね!」

「お、おう。頑張れー。応援してるぞ」


 予想通りぶっ飛んでいたが、内容は想定よりもマシだった。

 てっきり「もえもえのバレーボールを使って一晩中トスの練習をします!」とか言うと思ってたから。


「はーっははー!! お嬢! 語るに落ちたっすね! バレーボール大会を提案しなかった時点で、お嬢のルーザーはジャストでイエスだったんすよ!! ふーははは!! ウチのターン!! ドローっす!!」


 茉莉子ー。

 早く風呂から上がって来てくれー。


 みんなでアイス食おうぜー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る