第90話 3人ともファミレスが買えるという最強女子高生トリオVSいい人なのにダメなおっさん&いい人だと思ってたら悟り系のバカだった美人 ~時々、ヒジキ~

 村越小春ちゃん。

 漬物業界のトップを走る村越堂の一人娘。

 ダイヤモンドとかサファイアとか砕いて漬物石にトッピングしたものを「これ、どうぞ」と平原を吹き抜ける爽やかな風のような笑顔でくれるガチお嬢様。


 近衛宮萌乃さん。

 近衛宮家とかいう日本を裏で牛耳るとんでもなくやんごとねぇ一族の一人娘。

 釣りに行こうって提案したら「メガフロート持ってきました」とか言い出すスーパーバレーボール。


 この2人はファミレスの1軒や10軒くらい恐らく余裕で買える。


 小松茉莉子。

 俺の家で育成している田舎娘で最近痩せてきたはずなのに入学時に着ていた制服が上も下もサイズアップしてしまっていた哀しきムチっ子。

 だが、忘れてはいけない。


 こいつ、ばあちゃんヤベー絹子の寵愛受けてるんだよ。



 つまり、この3人。

 似非ご令嬢が1人混ざってはいるものの、全員が桃鉄感覚でファミレス買えちゃう。



「何卒! 何卒ぉ!! 私、妻と娘と息子と犬と猫とフェレットとフクロウがいるんです!!」

「店長!! 何してんですか、こんな未成年の娘っ子たちに!! ダメですよ、大人として! 金銭感覚が未熟な子にそんな事を頼むのは、見過ごせません!! 事情はもう、心の底から同情しますけど!! 大変ですよね、いきなり無職になるって!!」


「やえ、小松くん! 私、他県にぶっ飛ばされるだけでクビにはならないよ? 単身赴任が嫌なだけだよ! あと、君と高柳さんはクビになる!!」

「これまで散々お世話になって来た店長にこんな事言いたかないですけど! じゃあもう謹んで単身赴任しなさいよ!! 経営悪化は店長の責任でしょうが!!」


 大人が2人、悲しい言い争いをしている間にも事態は動く。


「じいや。ちょっと来てください。3分以内です。もえもえ先輩に負けます。両アキレス腱が断裂しても良いので、ウサイン・ボルトより速く走ってください」

「もし! 誰かある!!」


 ほら、もう!

 買収に向けて動いてるじゃん!!


(はい! おじさん! 質問があります!!)


 よし、言ってみなさい。


(小春ちゃんかもえもえ先輩がお店買うのはいけないことなんですか!!)


 いけない事だよ!

 別にね? その辺歩いてて「あら、このファミレス欲しいわね」とか言って買うなら、おじさんは何も言わない。


 世界って平等じゃねぇな、くらいしか思わない。


 だが、今の状況って手前味噌になるけどもね、俺が起点になってんだよ。

 俺のために金使ってほしくないの!

 エゴだよ、それはって言われても、おじさんは嫌なの!


 みんなとは対等なお友達でいたいの!!

 困ったらいつでもお金出しますぜ、へへへっ、みたいな関係は嫌なの!!


(おじさん……)


 分かってくれたか、茉莉子!!



(手前味噌ってなんですか!!)


 ああ、もう! なにこのアホな金髪サイドテール!!

 すっげぇ可愛い!!


 俺の迫真の激白を何ひとつ理解できてねぇじゃん!!



 そんなことをしている間に店内には心臓を押さえて真っ青な顔のじいやさんと、近衛宮家のSPの方が20人ほどご来店。

 ダメだ。もう止められない。


(おじさん、おじさん!!)


 うん。帰ったら膝枕をお願いするわ。

 茉莉子のムチっとした太ももに頭乗っけてると、嫌な事を忘れられるんだ。


(あたし思ったんですけど! それっておじさんがおばあちゃんにお願いしたらいいんじゃないんですか!! だったらおじさんの気持ち的にもセーフだし、おじさんが自分で動いて自分の職場を守るって言うことでなんかよく分かんない謎の童貞理論も守れるんじゃないですか!!)


 またこの子は、すぐに適当な事を言う。


 本当だね! ばあちゃんに電話するわ!!



◆◇◆◇◆◇◆◇



「もしもし! ばあちゃん! 急用なんだけど!!」

『おっす! おら、綾瀬はるか!! おっぱいバレーが特技のピチピチギャルさ!!』


「ついに日本に上陸しやがったか!! 手短に話す! じゃねぇと、村越家か近衛宮家に買われちまう!! 俺のバイトしてるファミレスが潰れるんだけどさ、ばあちゃん買ってくんない?」

『秀亀? ばあちゃんね? 金をドブに捨てるのが趣味じゃないんだよ? 道楽が趣味なのさ。そんな訳の分からない使い方をするために巨額の富を築いたわけじゃないんだよ。使いたいから使う。使い方を強いられるのは違うんだよ。秀亀』


 くそ! ガチトーンのばあちゃんだった!!

 ハズレ引いてる!!


「もしもし、おばあちゃん!」

『あらー! 茉莉子じゃないの! なんか制服のサイズがアップしたんだって? 今は太ももムチってる子がブームだからね! ライザのアトリエとかアニメ化決まったし!!』


「このお店、制服がとってもエロいです!! なんか胸を、何て言うんですっけ? こう、グイッとやって、キュッと絞って、もう胸強調する以外の用途が見いだせないデザインです!! あと、働いてるお姉さんが長身モデル体型でおまけに胸が大きいです!!」

『秀亀』


「あ。はい」

『写真』


「はい。高柳さん? 写真撮らせてもらっても良いですか? もしかすると、店が潰れないかもしれないんですけど。あ、もちろん嫌なら嫌って言ってもらって」

「どこまで脱いだらいいかな? 制服の良さをアピールするなら、ノーブラにブラウスくらいが良い?」


 この空間、まともな女子がいねぇな!!

 くらいってなんだよ! 希望したらその先が普通に出てきそう!!


 とりあえず撮影させて頂いて、ばあちゃんに転送する。

 当然だが、普段通りの制服姿をチョイスした。


『秀亀。店の名前は?』

「ブロッコリーサンダーマウンテン・喜津音店」


『今からそこは喫茶・おっぱいバズーカだよ。ばあちゃんがこの瞬間からオーナーさ!! 親会社からその店だけもぎとったからね! つまり、ばあちゃんにならば制服のスカートの裾を3センチ短くすることも可能……!! くくく……!! 愉悦……!!』

「3センチ短くしても気付かないんじゃないの? 頼もうか?」



『ヒジキ、あんたもう船下りろ』

「くそっ! 店救ってもらった手前、なんでディスられてんのか分かんねぇけど反論もできない!! サンキュー、ばあちゃん!!」


 小春ちゃんと萌乃さんが「やられました」と項垂れる。

 みんな、桃鉄感覚でさ、物件買うのはヤメようよ。



 俺は店長に事の次第を説明した。

 号泣されながら抱きつかれた。


 あ! 結構不快だな、これ!!


「小松くん。今日から君が店長だ」

「嫌ですよ。なんで俺、大学生でバイト掛け持ちしてるのにファミレスの経営までしなくちゃいけないんですか」


「君は本当に欲のない立派な男だね。私の娘と結婚するかい? 不細工だけど」

「人の価値は見た目じゃないと思いますけど、不細工だぞって前置きされた状態でいただきます! とは言えません!!」


 高柳さんが俺の手をキュッと握る。

 やだ、柔らかい。


「ありがとう、小松くん。これで私、あと2年は留年できそう」

「卒業目指しましょうね。それ、マックス八回生まで逝ってるじゃないですか。崖っぷちに行かなくても、頑張りましょう」


「そうだね。お礼に胸でも揉む?」

「あ。結構です。間に合ってるので」


「そっか。必要になったら言ってね」

「お気持ちは嬉しいのですが、この話はヤメましょう。黒服の皆様が全員、内ポケットに手を突っ込まれましたので」


 それからお嬢様JK3人娘には満足するまでファミレススイーツが振る舞われた。

 小春ちゃんは小食だけど、萌乃さんは大食い。

 茉莉子は底なし。


 うちの金髪娘がまたムチった。

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