えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第88話 新鮮な魚は美味い! ~食ったら後片付けは近衛宮家の皆さん(最低保証月収170万)が担当するので、とっとと帰りましょう~
第88話 新鮮な魚は美味い! ~食ったら後片付けは近衛宮家の皆さん(最低保証月収170万)が担当するので、とっとと帰りましょう~
新鮮な魚は刺身が美味い。
だが、寄生虫が怖い。
この小松秀亀と食中毒は切っても切れない縁で結ばれており、その糸は多分どす黒い。
だから刺身は怖い。
よって、全部焼いてしまおう。
新鮮な魚は適当に焼いて、適当に塩とか調味料ぶっかけただけでもう美味い。
このお嬢様どもは串に刺して焼いた魚なんか食べたことないだろうから、むしろそのシンプルで原始的な調理方法が非日常体験。
俺は茉莉子と一緒に暮らすまでは結構な頻度で庭バーベキューしてたから。
肉も魚も野菜も全部串に刺して焼いてた。
ご近所に「すみません。バーベキューやりますので、ご迷惑をおかけするかと思います」と庭で採れた野菜を土産に挨拶だって忘れない。
ご近所トラブルとバーベキューは表裏一体。
常に「やらせて頂いている」と思う、謙虚な心が大事。
お隣の石井さんなんかは「あら! 良いのよ、全然! 年寄りになるとね、若い子の賑やかな声は聴いてて元気がもらえるもの!!」と言ってくれた。
「いえ。独りですので、煙についてのお詫びに伺いました」と俺が言うと、少し困った顔をして「……おばちゃんで良ければ、一緒に焼くよ?」と、熟し切った人妻をフィッシングしてしまうほどバーベキューには精通している。
(あの。あたし、お野菜頑張って食べます。帰ったら、バーベキューしましょうね)
ほら、ご覧なさい!
「野菜食べるくらいならカップ麺食べればいいじゃないですか!」で有名なまりっぺも虜にする、バーベキュー!!
(何も言いません。あたし、どんなおじさんでも好きですからね!! 人になんと言われたって、茉莉子は、マリーさんは気にしませんからね!!)
マリーさんグイグイ来てるもん!
やっぱり串に刺して焼くだけで、ワンランク上の味わいになるんだよ!!
いや、茉莉子は俺の事が大好きだからな!!
ちょっとその辺でキュンキュンメーター補正かかってるだろうけど!!
(おじさん? マリーさんも寛容な顔をしていられるのは2度までですよ? やっぱりちょっと恥ずかしいので、ヤメてください。マリーさんの愛が負けそうです。おじさんの拗らせぼっち童貞ムーブに)
何がいけなかったのだろうか。
うちの子が急に冷たくなった。
「こんな感じでしょうか?」
「おっ! こはるるーさん、なかなか筋がうぃーっすね! つーか、几帳面っすね! 全部が寸分違わぬ角度なんすけど!? もっとテキトーでいいんすよ!?」
調理班が優秀で、もうかなりの数の串刺しにされたお魚ちゃんが量産されている。
「もし!! 誰かある!!」
「はっ!!」
「鉄板と鉄網の2種類を想定したバーベキューの用意を。小松さんが音頭を取られるのです。皆も慣れておいてください。やがて、もえもえが嫁ぐ殿方ですので。近衛宮家は父の代で潰します。小松家に皆は仕えるのですよ」
「ははっ!! 萌乃様! ご確認したい由が!!」
「なんです?」
「カマンベール伯爵家では? カマンベールモッツアレラ伯爵家であった時もあるかと記憶しておりますが? 小松家なのですか?」
「お黙りなさい。無礼ですよ」
「はっ! 差し出口を叩きました!!」
バーベキューの準備が進んでいる以外は俺、よく分からない。
多分ヒジキだからかな。
難しい事はよく分からないの。
「にしても、さすが大学生っすね! ぼっちだ童貞だってシャウトしながらちゃんとパリピしてんじゃねっすか! バーベキューの手際良すぎりあんっすもん! 秀亀さん!!」
「そうですね! 秀亀さんはいつも頼りになりますけど、今日はいつにも増して動きに淀みがありません!」
新菜がカジキ担いでやって来た。
「おいっすー! これ、近衛宮家の人が解体してくれるらしいぜー! 何の話?」
「マジすか! ウチのモリが火ぃ噴いた獲物、バラされるんすか!! さては伝説のフィッシャーマンが紛れこんでぃーすね!!」
「今、秀亀さんのバーベキュー歴について語っていたところです!」
「……えっ?」
マリーさんがシュタタタと走って来て、新菜の胸にダイブした。
あれだ、百合ってヤツ。
「新菜さん! 許してください!! おじさんが傷ついたら、帰ってから茉莉子の太もも2時間コースなんです!! お出かけから帰ってあれはちょっと面倒なんです!! 足が痺れるんですよぉー!!」
「……なるほどなー。よし、ぼっち警察に任せとけ!! いやー! 秀亀さん!! さすが! バーベキューマスターと呼ばれるだけのことはありますな!! 大学でも有名ですもんな!! いやはや、ぼっち警察は表彰してあげちゃう!!」
「何言ってんだ、新菜。バーベキューなんて独りでやるもんだろ?」
「すまねぇ。まりっぺ。わたしには荷が重かったぜ!!」
魚を網の上で焼き始めた頃には、女子どもが全員揃ってなんか優しくなっていた。
理由は分からない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「うまー!! 今回は秀亀の料理がどうとか言うより、海の幸がうまー!! わたしの釣った伊勢海老ちゃん、マジプリプリだぜー!!」
「やべっす。皆さん。カジキ、そんなにデリシャスってねっす。マグロの方がうまーべらすっすわ。残すのアレなんで、SPさんたち、遠慮なくどぞどぞっす」
「大きく口を開けて食べるのってなんだか悪い事してるみたいだね! ふふっ。マリーちゃんもさすがに慣れてな……すごくワイルドに食べてるね!?」
「ほがっ!? あ、ああー! これはアレです! フランソワ家に伝わるほにゃららで! あの、お魚にかじりつけないと一人前のレディーとして認められない、なんかそんなヤツです!!」
みんな美味そうに食べてて結構じゃないか。
やっぱりね、バーベキューは大勢でやった方が楽しいし、美味しいし、ね。
もう最悪だよ!
ソロキャンプとかが流行ってるから! 俺が勘違いするんでしょうよ!!
くそ! バーベキューはリア充のものなら、名前書いとけよ!!
「もし!! 誰かある!!」
「はっ!!」
「この量です。全てを食べることは不可能だと判断しました。片付けを任せる分、皆で残ったお魚は骨ごと食べておくように」
「はっ! お嬢様の寛大なお心! 感服でございます!!」
とりあえず、楽しい海釣りは楽しい思い出として女子どもの記憶にメモリーされたらしい。
俺はなんか、ちょっと心がモニョっとしたな。
◆◇◆◇◆◇◆◇
帰りの車内は想定通りだった。
「ゔ……。秀亀ぃ……。コンビニ寄ってぇ……」
「よしきた。5分前に寄ったけど、全然平気だから!」
「ひで、秀亀さん……。あの、間に合わなかったら……ごめんなさい……」
「マリーさん!! ビニール袋用意しといて!!」
(えー。面倒なので、素手で対応しちゃダメですかー?)
マジかよ! まりっぺ、むちゃくちゃ男気あるじゃん!!
相手が親友でも俺、戸惑うよ!?
戸惑って多分、手ではいかない!!
「あ゛っ。秀亀さん。コンビニスルーしてぃーっす」
「マジか! あ゛あ゛! すまん、新菜! 小春ちゃん! そんな絶望しないで! すぐ転回するから!! あと、もえもえはすごいな!! この状況ですやすや寝てんの!? 1番藤堂べきなんじゃないの? やんごとない身分なのに!?」
いつものようにドタバタと過ぎていった、秋のイベントなのであった。
次があるなら、絶対にカーナビ付けといてくださいね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます