第87話 「ひゃあ! お魚怖いです!!」とか誰も言ってくれないマリーの会 ~たくましい令和のお嬢様たち~

 2時間ほど釣りをして、みんながそれなりに満足したため陸地に引き上げる。

 たった2時間のために、メガフロートが造られた事実。

 せめて俺だけは忘れないようにしよう。


(おじさん! 釣った魚に餌やらないタイプじゃなくて、そもそも釣らないで焦らすタイプってなんですか!!)


 くそ! 絶対にレアぴっぴだろ!!

 というか、誰かが言うだろうなとは思ってたよ!!


 茉莉子に言うんじゃなくて、俺に言えよ!! ちくしょう!!


(あ。小春ちゃんが教えてくれました!!)


 小春ちゃんは日々良くない知識を増やしてるね!

 うちのマリーさんも同じなんだけど、もしかしてこの親友間で良くない知識を循環させてない!?


「うぃっす! 秀亀さん! これ、どしたらいっすかね?」

「俺は桃さんを穿った目で見たことに関して罪を償わせてもらおう」


「ウチ、なんかされてぃーんすか? やっ。ちょ、困るっす。あの、ウチなんか想像でナニしても楽しいほど個性的なボディーじゃねーんで! それするなら、直で来てもらっていいすか!?」

「照れた顔はすげぇ可愛いけど、発言はもうどうしようもねぇな! カジキ引きずって何を言っとるのかね、君は!! とりあえず、運ぶから貸して!!」


「やばばっすわ! 秀亀さんとカジキ! これちょー映えてんすけど!! 皆さん! 集合っすよ! シャッターチャンス来てんすわ!! 秀亀のカジキがやべーっす!!」



 秀亀のヒデキがカジキに進化したみたいに聞こえるから、ヤメて?

 語感が似すぎてて、上位互換にしか聞こえないんだよ。



 とにかく、釣果はパナップ。

 古今東西のおさかな天国なんだから、5人が釣りまくったらそりゃこうなるよ。


「どんまい! 秀亀! わたし、釣られよっか?」

「うっせぇ! 妙な気遣いはヤメてくれ!! なんで!! 俺の竿だけ無視すんだよ!!」


「もし! 誰かある!! これからもえもえは、小松さんの竿にかかります! 本家に連絡してください!!」

「ヤメろ!! もう良いんだ! みんなが楽しそうだったから、小松さんは満足してる!! もえもえの気遣いは俺を一突きで仕留めるから!!」


 全員で漁港だった場所に戻ると、キッチンスタジオが完成していた。

 近衛宮家の仕事の速さはうちのばあちゃんに匹敵するわ。


「まあ、釣った魚は新鮮なうちに捌いて食うのがマストだな! よし! 料理するか!! 今回は全員でやるってのはどう? いい思い出になるぜ! ああ、魚触るのに抵抗あるヤツは軍手とか使って……。うん。何でもない」



「レアぴっぴ! どこにぶっ刺したらこいつ死ぬの!?」

「新菜さん。私が思うに、やはり目じゃないでしょうか? 試しにやってみます!」

「あっ。もえもえの握った秋刀魚が四散しました。何がいけなかったのでしょうか」

「何してんすか、この人たち。フィッシュがクライングしてんすけど」


 全員、何の躊躇もなく魚を鷲掴みにしてるな!!

 お嬢様ってたくましいんだ!!



「おじ、おじおじ、おじさぁん! なんか! ぬめっとしてますけど!? んぎゃ!! すっごくビチビチしてますけどぉ!? あばばばばばばばば! 結構キモいです!! 助けてください!! マリーさんにはちょっと早いです!! ほぎゃっ!? 服の中に入りました!!」


 やっぱマリーさんなんだわ。

 もう百点満点のリアクション。


 山育ちの田舎娘は最高だぜ。


「仕方がないな! こっちおいで! よくもまあ、器用にシャツの中に活きの良い魚を放り込めるな。じっとしてろー。……よし、取れた!」

「ふぃぃー。あたしをここまで追い詰めるとは、お魚もやりますね……! マリーさんは生涯切り身以外のお魚とはご縁のない生活を所望します!!」


「そういうところだけご令嬢なんだな。やれやれ。……おい!! 全員、動くな!!」



 なんで全員がシャツの中に魚ぶち込もうとしてるの!?

 生物で遊ぶんじゃないよ!!


 レアぴっぴに至っては、カジキ掴んで何しようとしてんの!?



 すっかりマリーの会のメンバー全員がアホになってる。

 教職課程で習ったけど、日本の学力って年々低下しているらしいね。


 マジだったのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ここからはいつものように役割分担。


 萌乃さんは料理力ザコなので、料理力カスの新菜とくっ付けて鱗の除去を任せることにした。

 料理というよりも下ごしらえなので、細かい作業が得意なぼっち警察がお嬢様を導いてくれるだろう。


 調理班は俺が先頭に立つ。

 サポートとして極めて優秀な桃さんを隣に確保。

 遊ばせておくにはもったいなさ過ぎるので、手の届く位置でこき使わせてもらう。


 小春ちゃんも立派な戦力なので、味付けをお任せする。

 魚相手に包丁を使わせるのは危なっかしくて俺の注意力が散漫になること確定だが、お漬物マスターの舌は調味料の配分を任せるには適材過ぎるのだ。


(はい!! マリーさんはまだフリーです!!)


 来ると思ったぜ、うちのダメな子!!

 お前、魚触れないじゃん!!


(おじさん! あたしは生肉もちょっと触るの無理です!!)


 嫁力が皆無だな!!

 肉も魚もモリモリ食うくせに!!


(おじさんが、俺の料理をいっぱい美味そうに食ってくれる茉莉子が好きだ! 抱きしめたい!! 抱きしめたままベッドで一緒に寝たい!! って言うからいけないと思います!!)


 前半しか言ってねぇんだが!!


(ぶぶー!! あたしを誤魔化そうなんて、おじさん! どうしちゃったんですか! 茉莉子を抱き枕にしたらこれ、安眠できるんじゃね? って! あたしの太ももを堪能している時に結構な頻度で考えていることをマリーさんはお見通しです!!)



 まりっぺはね、お鍋の様子見てて!

 あら汁作るから! ボコボコ泡が出てきたら教えてね!!



 各々ができる工程に全力を注ぐ。

 こうやって見ると、みんな成長しているじゃないか。


 桃さんだけは最初から普通に結婚生活を家事分担して送れるレベルだったけども。

 新菜はまるでやる気がなかった料理をするようになったし、小春ちゃんは会う度に腕が上がっている。


 萌乃さんはむしろ料理に挑戦しないで欲しいのでそのままでいてくれ。

 火傷されたら、翌日には結納なんでしょ?


 マリーさんは不味い飯を頑張って作ってくれるし。

 たまに不味くない飯が作れるようになったし。


 年頃の女子ってのは、すごい速さで育っていくものだなとしみじみ思う。

 こんな風に見守って成長を補助していく教職って言うのも意外と悪くないかもと思えるくらいには、マリーの会のメンバーは俺にもいい影響を与えてくれている。


(おじさん!)


 あ、聞いてた?

 今の俺のステキなモノローグ。


 もう完全に大人の男みが溢れてただろ?

 惚れ直しちゃった?


 まったく、茉莉子は俺のこと大好きなんだからな!!



(お鍋からお湯がボコボコ溢れています! 5分くらい前から!! これは、あたしが強化系ってことでいいですか!!)


 水見式してんじゃねぇよ!!

 言えよ! 出汁がたっぷりのお湯がもう全部吹きこぼれてるじゃんか!!



 すぐに「だって、おじさんが自分に酔ってたので。自分に酔うナルシストな童貞をそっと見守るのもいい女の条件だよって! おばあちゃんが!!」と胸をえぐる釈明をしてきたので、俺は罪を許した。


 大丈夫! 魚、いっぱいあるから!!


 吹きこぼれたヤツはね、近衛宮家の誰かが美味しく召し上がってくれる!

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