第85話 釣りに露出の多い服を選ぶバカな女子たち ~海も山も舐めたらあかん~

 漁港に似つかわしくない、なんかオシャレなお店が連なっていた。

 店員さんと思しき方々はどう見てもアパレル関係には見えない。


 ひとまず、キャデラックを店の前に停車させた。


「へい、らっしゃい! 今日は活きのいいワンピースが入ってるよ!!」

「完全に昨日まで漁師だった人じゃん!! いやでも、月収170万ならアパレルショップの店員さんもやるな! 俺でもやる!! で、それが6棟もあるんだけど! まさか、今日限りで閉店すんの!?」


「えっ? その予定でしたけれど?」

「金持ちの感覚ぅ!! だったらもう、責任もって最後まで開発してあげようぜ!? この漁港をアウトレットモールとかにしよう!! 漁師さんたち、明日から何すりゃいいのよ!!」


「なんという発想力……! さすがです、小松さん!! すぐに手配を! もし!! 誰かある!!」

「はっ!!」


 キャデラックの中から黒服さんが出てくるのも納得いかねぇ!!

 家からずっと乗ってらしたの!?


「この地域をカマンベールモールとして県内で1番の商業施設にしてください。1ヶ月あれば足りますね?」

「はっ!!」


 何の疑問も抱かずに黒服さんが消えていった。

 でも、これに似たことを多分うちのばあちゃんも日常的にやってるんだろうなって思うと、もえもえを非難できない。


「ちょりぃーす! 新菜さんをベンチに横たわらせて、こはるるーさんは担いで来たっす! 一応確認なんすけど、秀亀さん! どっちも今ならやりてぃー放題っすよ!!」

「何の確認をしとるんだね、君は。小春ちゃんの顔色悪いな!! もう無理じゃないの!? これから船に乗せるんでしょ!? その辺で釣りしよう! 死んじゃうよ、小春ちゃん!!」



「ははっ。ついに私、足手まといになるからって置いて行かれるんですね……」

「ぐったりしてるのに気概のある子だよ、こはるんって!! じゃあ頑張ろう! マリーさんどこ行った!? 親友をサポートしてあげて!!」


 ピザポテト食いながらマリーさんがやって来たので、やっぱり追い返した。

 これでも食事量、以前の7割まで減ってるんだからね。



 1時間の休憩ののち、とりあえずオシャレ着女子どもを海釣り仕様に変身させないと話が進まないので、各々をセレクトショップへと叩き込んだ。

 俺はその辺のおじさんと何が釣れるのか世間話でもしておこう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



(あたし! マリーさん!!)


 不穏なパータンと見せかけて、元気だな。

 じゃあ、なんか良い事あったのかい?


(どっちがいいかなと思いまして! おじさんの意見を聞いてあげちゃいます! 男の人は女子を自分色に染めたがるらしいので!!)


 どっちでもいいよ。

 と、突き放すのは悪手だと俺はもう学んでいる。


 独自ルートに行ったまりっぺを回収する手間が増えるだけだ。

 で、何と何で迷っているのか言ってごらんなさい。



(ここは攻めてビキニにすべきか! それとも無難にセパレートにするべきか! さあ! おじさんはどっちですか!!)


 マリーさんのバカ!! それ、どっちも水着の話だろ!!

 お前、海釣りをなんだと思ってんの!?



(ほえー? 海で釣りするんですから、濡れても良い水着じゃないんですかー?)


 そうだった!

 この子、海も初めてだった!!


 お決まりの「これが海ですか! 初めて見ましたー!!」みたいな件をしてくれないから忘れてたけど、御亀村から出て来て夏休みに初プールだったもんね。

 じゃあ、海も初めてで、釣りも初めてだ。


 おじさんが悪かった。

 指導しなくては。長袖に長ズボン、いや、ちょっと待て。


 調べたら、今のオシャレな海釣りガールは短パンの下にレギンス穿くんだって。

 なんだよ、海釣りガールって。

 日差しは強くないけど、帽子も欲しいかな。


(えー。マリーさんのダイナマイトボディーを隠すんですかー?)


 家で飽きるほど見てるから!

 釣りって結構擦り傷、切り傷作ったりしがちなんだぞ。

 茉莉子の肌は綺麗なんだから、怪我したらどうすんだ。


(はー。ですよ。はー。おじさんってば、独占欲が強いんですからー。もぉ、完全に茉莉子を自分の女扱いですよー。あー。もぉー。そーゆうとこありますよねー。でも、あたしは結構尽くすタイプなので! おじさんの希望に従ってあげちゃいます!! ちょっとサイズ小さめの服にして、ムチった感じがお好みですね!!)


 確かに俺は痩せている子よりもちょっとムチムチしてる子の方が健康的で好きだ。

 ただ、海釣りでそれをアピールする必要があるだろうか。


 大事な話をすると、どうしてこの子テレパシー切るの?


 しばらくすると、ちらほらと女子どもが着替え終えて集合し始めた。

 俺の仕事が始まる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うぃっす! 新菜さんと同着1位っす!! どっすか、秀亀さん!!」

「うん。レアぴっぴはこれからクラブで踊るのかな? ホットパンツの下にレギンス穿いておいで? あと、ピチTの上にウインドブレーカー羽織っておいで」


「マジすか、秀亀さん。敢えて見せねぇーことで中身を想像する、ワンダフルイマジネーション使いだったんすか。パパピと同じ能力持ってるとか、話合いそっすね!!」


 君のパパピと話が合ったら、ヒジキがパリぴっぴになるんだわ。

 クラブ通うよ? ヒジぴっぴ。


「ヘイヘイヘーイ! 秀亀、ユー!! わたしに感想はー?」

「いや、新菜はもう当たり前のように完璧な服装をチョイスしてくれると思ってたから、想定通りで何もコメントがない」


「あー。そーゆうこと言っちゃう? じゃ、タンクトップで行くぜー!!」

「ヤメろよ!! 実は美肌なんだから! 日焼けしたら困るだろ! 紫外線に弱い癖に!!」


 合格点をそっと出してくるデキる女。

 ぼっち警察の隠れて潜む影に気付けなかったのは不覚の極み。


「あの。もしかして私、間違ってますか?」

「そうだね! さっきまではハイキングに行きそうなお嬢様スタイルだったのに! どうしてワンピースになったのかな!!」


「やばっ! 秀亀がシミーズからワンピースに見識深めとる!!」

「うるせぇ! 小春ちゃんも着替えておい」



「ははっ。ちょっとワンピースが似合ってるって言われて、真に受けてしまいました。私ってば、子供でバカで、どうしようもないですね」

「よし! 小春ちゃんはそのままでいこうか!!」

「いや、ダメっしょ。こはるん、おいでー。注意できない秀亀は無視して、ぼっち警察がコーディネートするぜー。お嬢様が怪我したら大変だかんね!」


 だって! 上目遣いで潤んだ瞳だったんだ!! 仕方ないじゃないか!!



 最後にやって来たマリもえコンビ。

 マリーさんは俺がきっちり指示したから、ちゃんと海釣り女子になってる。


 もえもえも完璧だが、もう救命胴衣まで付けてらっしゃる。

 さすがに早くない?


「小松さん。もえもえは結局泳げるようになっていません。海に落ちたらきっと浮かんでこられないと思います」

「そうか。泳げないって事に配慮が足りなかった。ごめんね。万が一の時は俺が命かけて海に飛び込むから。安心してくれ! なんで救命胴衣捨てるの!? それは付けてて!! もうこの子! 万が一を変換して1にしようとしてんじゃん!! 確率操作ヤメて? 俺のクビが飛ぶから!!」


 どうにか準備は整った。

 それで、船はどこにあるのかな?

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