第77話 新菜お姉ちゃんに懐く茉莉子さんを見てちょっと寂しい秀亀くん ~3人暮らしの3日間~

 自転車を押して新菜と家に帰って来ると、玄関で茉莉子が待ち構えていた。


「おいっすー! まりっぺ! 暑いのにて待っててくれたのかね!!」

「新菜さぁぁん! 良かったですよぉー!! もぉぉ! 火元の住人を小春ちゃんともえもえ先輩に頼んで消してもらいましょう!! あたしのお姉ちゃんの住まいをよくも、よくもー!!」


 新菜に抱きつく茉莉子。

 本当の姉妹みたいじゃないの。


 けどさ、新菜をお姉ちゃんって呼ぶなら、俺もお兄ちゃんって呼んで欲しいな。


(えー? 未成年に自分のことをお兄ちゃんって呼ばせようとする大人はロリコンかパパ活親父だって相場は決まってるらしいのに……。おじさん……)



 情報源がどこなのか。

 候補4つあるけど、余計なこと言うとこいつら情報共有するからね!!


 おじさん、何も言わねぇ!!



「さささっ! どうぞどうぞー!! ボンバーマンが温まってます!!」

「おー! いいぜー! 新菜お姉ちゃんがちょいと揉んでやろう!!」

「よくもまあさっきアパート火災があったのにボンバーマンしようってなるね? いや、俺も誘ったけどさ。俺は飯作るかな」


 新菜を3日ほどうちで引き取ることになったが、初対面では「ニーナとか! あたしの敵ですよぉ!!」と唸っていた茉莉子がすっかり懐いているのを見ると、なんだかほっこりする。

 マーボー春雨にナスぶちこんだフライパンを振っていると、スマホが震えた。


 今日は俺もグループに入れてもらえてる!!



『秀亀さん。ほっこりさせる前にもっこりさせるとこ、あるモンティっすよね?』


 おい! なんで俺の思念拾ってんだよ! レアぴっぴ!!



 すぐに茉莉子から「あたしが共有しましたー」と自供するテレパシーが送られてきた。

 ついに俺の頭の中までマリーの会で交換始めやがったのか!!


「おら。飯にするぞ。ゲームは後にしなさい。茉莉子、ちゃぶ台拭いてくれ」

「はーい。晩御飯はなんですかー?」


「マーボー春雨! に、ナスを大量トッピング!!」

「あたしカップ麺でいいです!」


「食えよ!! ちゃんと茉莉子の好きなマーボー春雨にしただろ!! 本当は麻婆茄子にしたいのに!!」

「おナスは嫌です!! 新菜さんもそう言ってます!!」


「ぼっち警察としてはナス好きだぜー! 美味しいよ? あとね、栄養あるからお肌プリプリになるよ! 秀亀はお肌にこだわりあるかんねー!!」

「新菜お姉ちゃんはいい事を言うねぇ! ヨーグルトもあるよ! 自家製の!!」


 茉莉子が仏頂面だがちゃんとナスを食べてくれてる!!

 ぼっち警察、影響力すごいじゃん!!


「違いますー!! おじさんが最近あたしの太ももをよく枕にするので、メンテナンスのためですー!! 勘違いしないでくださーい!!」



「秀亀? まりっぺとナニしてんの?」

「勘違いしないでよね!! ちょっと膝枕してもらってるだけなんだから!!」


 あずきバーも食って良いから、ラインで共有しないでくれ!!



 飯が終わったら順番にお風呂。

 茉莉子と新菜の混浴シーンをテレパシーで実況されるのかと言えば、答えはノー。


 うちの風呂は大人が2人で入るとお湯がなくなる。


「お先にお風呂頂いたぜー! あんがと! まりっぺは着替えサンキューだぜー!!」

「ん? 茉莉子の下着って新菜には小さくないの?」


「じとー。です。じとー。おじさん、何気にあたしのブラのサイズ把握してますよね? 言っときますけど、ブラトップは安いヤツなので、サイズはガバガバなんですぅー!!」

「そうなのだぜー!! 絶妙に隙間があったり、なんかキツいとこがあったり! 安物ならではの当たり判定!!」


「ああ。そうなんだ」


 スマホが震えた。

 ぬかった!!



『ご入用でしたら、バレーボールカバーをお持ちします!!』

『ははっ……』


 この2人を同時にカバーしきれねぇ!!

 意外と面倒だな、3人暮らし!!



 茉莉子が風呂に入って、俺が最後に入ってそのまま掃除を済ませる。

 リビングに戻るともう誰もいなかった。


 ボンバーマン、俺もやりたかったのに。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 新菜は茉莉子の部屋で過ごす。

 空き部屋はあるが、客用の布団を干していないので使えなかったのである。


 翌朝。

 俺は7時に起床。

 ファミレスのバイトが10時からなので、朝飯と昼飯作らなければ。


「おはおはー。やー。なかなか住み心地いいですなー。秀亀の家」

「おう。おはよう。そりゃ新菜は俺の家に来慣れてるからだろ」


「それはあるかも。朝ごはん、おーくれ!!」

「ちょっと待ってろ。味噌汁があと少しで。……茉莉子? なにしてんの?」


「……おじさんが下着姿の新菜さんを見てあまりにも普通の反応なので、茉莉子はヤキモチを焼こうとしていたところ、急におじさんの生殖能力が心配になり言葉を失くしていたところです」

「タンクトップに短パンじゃん! いつも茉莉子で見慣れてるの!!」



「秀亀ぃ。これ、パンツだよ?」

「マジで!? ああ! よーく見たら、俺のボクサーパンツに似てる!! そんなのあるんだ!!」

「……おじさんが今度は新菜さんのパンツを食い入るように見てます」


 まりっぺ、そのスマホをテーブルに置こう!

 話はそれからだ!!



 3人で朝ごはんを食べて、俺はバイトへ。

 普段は茉莉子が暇に任せてテレパシーで話しかけてくるのに、今日は家に帰るまで着信なし。


 おじさん、ちょっと寂しい。


 ただ、家に帰ると「おかえり」が2つもらえるというのは悪くない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 あっという間に3日が過ぎて、新菜のスマホに新居の用意ができたと連絡が来た。


「お世話になりましたなぁ。すまぬ、まりっぺ。下着やら服やら、借りまくっちまったぜぃ。今度お詫びにお買い物行こうねー」

「新菜さん、行っちゃうんですか? まだゆっくりして行けばいいじゃないですかぁ! そうだ! もう1度火事になれば!! いだっ!」


 まりっぺの不用意な発言を正すのは俺の仕事。


「滅多な事を言うんじゃありません。まあ、3人暮らしが楽しかったのは認めるが」

「うぅぅぅー。お姉ちゃんがいなくなって、生殖能力を失くしたおじさんとの枯れた同居生活に戻ってしまいますよー!!」


「……おじさんとの2人暮らしを楽しんでくれてたと思ってたのに!!」

「最近はあたしの膝枕を普通にリラックスアイテム扱いしてるじゃないですかぁー!! 女子高生の太ももに興奮しないおじさんなんて嫌いです!!」


「が、頑張って興奮するから!! 茉莉子!!」

「頑張らないと興奮できないおじさんなんて嫌いです!!」


「あのー。お二人さん? イチャコラしてるとこ悪いんだけどさ。わたし、部屋はあるけど家電が電子レンジしかないらしいんだよね。洗濯機とか借りにしばらく通うけど。わたしがいた方が盛り上がるんなら、遠慮なくナニしていいぜー?」


 茉莉子! 無言でスマホを持つな!!

 悪かった! 今度から膝枕してくれてる時、反対側向いたりして変化付けるから!!


「むー。仕方がないですねぇ。新菜さん! 家電が揃うまではご飯食べに来てください! おじさんがちょっと張り切って、オカズが増えるので!!」

「おっけ! しばらくお邪魔するぜー!!」


 困った時は助け合う。

 親友として当然である。


 あと、茉莉子がやっぱりラインで情報共有してた件。

 Wi-Fiのルーター捨てても意味ないのがラインのすごいところだよ。おのれ。

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