第69話 夜に賭ける ~女子ども全員が部屋に夜這いぶっこんで来るこの世界~

 俺は修学旅行の引率してる先生じゃない。

 つまり、「じゃあ、みんな部屋に行って寝なさい! 消灯時間は22時だぞ!!」とか言う必要もなく、そもそも部屋から出る義務もない。


 ドアにはオートロックが掛かっているし、俺のリラックスタイムはむしろこれから始まるんだ。

 女子どもはさっさと寝ろ!


 疲れてんだろうから、ぐっすり休んで明日に備えろ!!


 秀亀はこれから、改めておビールを嗜みますゆえ。

 スパークリングワインとかいうのもあるな。

 飲んだことないけど、挑戦しちゃおうかしら!!


(あたし、マリーさん)


 絶対にドアは開けねぇからな!!

 ずっと「今、あなたの部屋の前にいるの」ってやってろ!!


 そして疲れたら部屋に戻って寝ろ!!



(今、桃さんともえもえ先輩がおじさんの個室のオートロックを解除したの)


 今までで1番の恐怖体験だったわ。

 なに? あの子たちはチャーリーズエンジェルなの?



(さっきまでみんなでお菓子食べてたんですよー)


 うん。楽しそうでいいね。


(で、もえもえ先輩が「殿方のお部屋にお夜這いを仕掛けるのが淑女の嗜みと近衛宮家では決まっています」って言って。お夜這いってなんですか?)


 まりっぺは知らなくていいヤツかな。

 ああ、あれだよ。桶狭間の戦いで今川義元がやられたヤツ。


(そうなんですかー。それでですね。桃さんが「はぁぁ? お嬢、順番キメてからやんのがマナーディスタンスぅー!!」って言い出しましてー。今、順番決めたところです! おじさんは今川義元? さんですね!!)



 すみませんでした、義元公。

 適当なこと言ったので、お怒りなのでしょうか。


 反省してます。けど、罰を下すの速くないですか? 失言、1分前ですよ?



 とにかく、夜襲が来る。

 逃げよう!!


(おじさーん。お部屋の前では、ぼっち警察と、巡査が既に包囲してるそうですよー)


 ぼっち警察が敵になってる!!

 巡査って誰だよ!? いや、引き算したら分かった!


 小春ちゃん、ストレス過多でついにぼっち警察に入隊してんじゃん!!


 状況は悪いが、最悪ではない。

 マリーさんによって悪辣なたくらみは露見したのだ。


 持つべきは金髪碧眼サイドテールだわ!!

 マリーさん、俺を導いてくれ!!


(…………)


 ちょっと? 現場のマリーさん? 音声トラブルかしら?


(あ! すみません! 小春ちゃんが、すっごく美味しい和菓子くれるって言うので! 行ってきますねー! ちなみにマリーさんはじゃんけんに敗北して最後です!!)


 巡査、既に有能じゃん。

 ここからが本当の地獄だ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 部屋のドアがノックされた。

 最初の刺客が来たか。


 だが、ノックをするということは常識力の高いヤツだな。

 説得して帰らせよう!


「……はい。本日のヒデキは営業終了しました」

「うぃっす! デリバリーレアピーチサービスっす!!」


「常識はあったけどすげぇいかがわしいサービス来ちゃった!! 間に合ってるよ!!」

「そっすよね。秀亀さんが疲れてっかと思いましてぃー。マッサージとかしたら、ウチくらいの取り柄無し、個性なしのギャルもどきでもお役に立てまくりまクリスティーかと閃いたんすけど、さーせん。余計なお世話だったすね」


 あああ! 純粋な気持ちだった!!

 ダメだ、こんな悲しい顔のレアぴっぴを追い返せねぇ!!


「よし! 頼もうかな!!」

「マジすか!! レアピーチ頑張りマッスル!! で? マットはどこすか?」



「肩揉んでくれる? あとね、ご両親にお手紙書くから、持って帰って?」

「マットなしのマッサージってあるんすか! 秀亀さん、物知りざえもんっすね!!」


 肩揉ませて帰ってもらった。

 水着で来たからおかしいなって思ったんだよ!!



 5分後。

 ドアがノックされた。


 俺の推理だと、新菜は突撃して来る。


 つまり、お嬢様のどっちかだな。

 なら、お茶にでも付き合って帰ってもらおう。


「こちらヒデキは休眠中ですが」

「もえもえが参りました!!」


「よし! もえもえ! 聞きたいことがある!!」

「積極的……! やはり、父と祖父と曾祖父の教えは間違ってませんでした!!」



「なんで水着なの!?」

「マッサージは水着とマットを使うものでは?」



 数秒迷ったが、萌乃さんの将来のために近衛宮家にも手紙を書くことにした。

 家がなくなる時には、茉莉子だけでも命を助けてもらえるようにとしたためる。


 肩揉んで帰ってもらった。


 もう肩がだるんだるんだよ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ドアがいきなり開いた。

 誰かは分かる。


「お、お邪魔します……」

「嘘だろ……。小春ちゃん、俺の勘違いじゃなければ、ドアを蹴破るスタイルで来たよね?」


「え? あ、あれ? 新菜さんが、ミニスカートでこれやると秀亀さんが喜ぶからって。違うんですか? 蹴って来なよ、ユー!! って。あ、あれ?」


 くそ! ぼっち警察、新人教育のスピード感がすごいな!!

 失言した政治家に見習わせたい対応の速さ!!


「こ、小春ちゃん? ダメだよ? スカート穿いた女の子がそんなことしたら」

「ですけど。私が生き残るにはもう、独自性を出していくしかないと思って」


「うん。それは誰に吹き込まれたのかな?」

「あぅ……。私が考えました……。間違ってましたか?」



 涙目の小春ちゃんに尻とか膝裏とかを蹴ってもらった。

 じいやさんに手紙書こう。



 笑顔で小さく手を振って帰っていくこはるん。

 立ち去り方だけだと、今のところ一等賞で可愛い。


 尻蹴られる必要があったのかは分からない。


 そして、意外と強烈な蹴りをもらった俺のお尻ちゃんを撫でていると、新菜が普通に入って来た。

 マジでしばらく気付かないくらいに、普通の入室。


 俺も見逃しちゃったよ。


「ひーでき!!」

「セックスしよっ! とか言うなよ!!」



「えっ。お酒飲もうぜーって来たんだけど。マジ? わたし、そーゆう流れだった? ごめん。ちょっと下着だけ変えてきていい?」

「いや、俺が悪かった! なんか疲れてたんだ! サブスクで古いドラマ見てるのも良くない! 織田裕二が好きなんだよ!! もう禁織田する!!」



 なんか酒飲む前から頬が赤い新菜と、チューハイを2本ほど飲んだ。

 「……空気読めなくてごめんだぜー」と、モジモジしながら帰って行った。


 俺、大事な親友を失くしたかもしれん。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おじさーん!! 真打の茉莉子が来ましたよー!! 最後だったので、コンタクトも取ってきましたー!! ナチュラル茉莉子です!!」

「おう。やっぱ俺には茉莉子しかいねぇわ。何するの?」


「おじさんが澄んだ目をしてるんですが!? え゛っ? ヒジキビーストは!?」

「ああ、そいつなら死んだ。俺はもう、名前も忘れた、ただのヒジキだよ」


「うぇぇ? なんか計画と違うんですけど! みんなが良い感じに揉みしだいて、仕上がったおじさんを茉莉子が美味しくいただく予定だったのにぃー!!」

「もう、くたくたなんだよ……。茉莉子。その良い感じにムチった太もも、寝心地よさそうだな?」



「な、なんですかぁ!? あたし、誘われてますか!? ぴゃい!? 普通に掴まれて、良い感じにセッティングされてます!? 引っ張られるぅぅ!!」

「枕くれ。俺は疲れた。おじさんなんだかね、とても眠いんだ……」



 茉莉子の良い感じの太もも枕で俺は夢の中へと旅立っていく。

 ルーベンスの絵を見る夢だった。


 茉莉子、お前はパトラッシュだったのか。

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