第70話 ゆうべはおたのしみでしたね ~朝ごはん作れ、秀亀くん~

 朝起きたら、知らない天井があった。

 隣にはよく知ってる金髪娘が寝息を立てている。


 「な、何してるんだ、お前ぇ!!」とか言って、ドタバタラブコメみたいなリアクション取りたいけど、記憶がちゃんと残ってるから悲しい。

 記憶がなくなるくらい酒飲みたかったのに、今日は帰りの運転があるからと先に仕事のタスク管理が脳内で優先処理されるのも悲しい。


「ふぁぁぁー。おはよーございまふー」

「おはよう、茉莉子。確かにね、膝枕を強要した。これは俺が悪い」


「まったくですよー。おじさん、大胆なんですからー」

「疲れてた。あと、ムチムチしててすげぇ良い感じに眠りに落ちることもできた。だから、感謝している」


「なんだか性的興奮されてないのは気になりますが、おじさんに求められるのは悪くありませんねー! んふふー!!」

「そのうえで、ひとつだけ良いかな?」


「およ? 茉莉子にまだご注文ですか?」


 少しだけ考えた。

 確かにムチっとした柔らかいものの世話になったのだから、延長線上にあるこれも丁重に扱うべきではないのか。


 だが、やっぱり邪魔だと結論が出た。



「なんでお前、俺の顔の上に両足乗せてんの!? そうはならんよな!? 普通、胸とか尻とかじゃん!! セオリー守れよ!! 足の裏を器用に2つも並べやがって!!」

「ふぎゃぁぁ! 痛いです!! 何するんですかぁ!! あたしの可愛いあんよに興奮すればいいでしょー!!」


 せめて太もも乗せろよ!!

 足の裏とか、ニッチすぎて最初から元気のないヒデキが息してねぇんだわ!!



 部屋のドアが開いた。

 俺の寝ぼけていた脳細胞ヒデキたちが一斉に覚醒する。


 ああ、女子どもの良くない頑張りでオートロックが俺の部屋だけぶっ壊されてたんだった。


「秀亀ぃ。お腹空いたー。おっ。ゆうべはおたのしみだった感じ? それはそれてとして、お腹空いたぁー!!」

「新菜で良かったわ。もうリアクションもないじゃん。まだ6時なのに、早起きだな」


「いやー。ワイン飲んでたら気持ち悪くなっちったー! 夕ご飯ね、全部出た!!」

「朝からなんつー報告キメてくれんだよ。……あのデカい瓶、一本あけたの? バカじゃないの?」


 大学生の旅行の交通事故リスクについてばあちゃんにフラグ立てられたが、飲酒事故も同様に極めて高い。

 羽目外していいタイミングなんか人生にはないんだぞ。


 羽目外して良いのは、命かけてるヤツだけだからな。

 唯一の親友には、そんなしょうもない事に命かけて欲しくない。


(茉莉子の足を顔に乗せたままなんか赤裸々な告白を脳内でするのヤメてくださーい。なんかイラっとしたので、踏みます。ていていていてい!!)


 普通に痛いからヤメろ!!


(むぅー! 柔らかいでしょー!!)


 柔らかさ感じる前に、打撃によるダメージが先着してるの!!

 柔らかさアピールしたいなら、優しく踏めよ!!


「ねーねー、秀亀ぃ。お腹空いたぜー。まりっぺとイチャイチャすんのは家に帰ってからでいいじゃんかー」

「これがイチャイチャしてるように見えんのか?」


「えっ? 見えるよ? というか、一般的には金髪サイドテールのきょぬー女子高生と同じベッドで朝迎える時点で、もう人生の勝ち組だよ? 秀亀の価値観が死んでなかったら世界を手に入れてるのにさ。残念なヤツだぜー」


 なんか同情された。

 そのあとに「もー! お腹がペコだって言ってんだろー!! みんな呼ぶぞー!!」と極めて効果的な脅しが飛び出したので、俺は茉莉子を放置して身支度を整え、厨房へ向かうのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 厨房にはエプロンを装着した桃さんが既に待っていた。

 デキた子だよ、本当に。


「ベタアマピーナッツクリーム野郎。おはっす。茉莉子さんと乳繰り合ってぃーの後に、デザートで新菜さんの横乳っすか。捕獲レベル高いフルコースっすね。ヒデキ、お前は? とかドヤって聞けねっすわ」

「……もしかして、結構待ってた?」



「やっ。全然っすよ。1時間半くらいっすから。秀亀さんこねぇー。けどマジメな人だから、早起きして飯作んすよねー。と思ってたら、ガチで来なかっただけっす」

「あ゛あ゛! レアぴっぴ、ごめん!! 最高に可愛いよ!!」


 「とりま可愛いって言っときゃバーリーとか、ねえっす」と冷たい目をされたが、教えてくれたのは君のパパピの著書なんだ。



 鉄板で目玉焼き作ったり鮭焼いたりしてると、お嬢様コンビがやって来た。

 なんかフリルだらけのお召し物で。


「お嬢! なんつーエロティックスな服着てんすか!? それ、部屋で着替えてくるモンティーっしょ! 乳透けとか、集会場の装備じゃねっすよ! みんなログアウトするっすわ!!」

「もえもえは普通のパジャマですけど。こはるるーさんも同じですし」


「あ。はい。何故かお揃いでした」

「こはるるーさんとは破壊力が違うんすよ! こはるるーさん特効はニッチな人向けなんでぇ! 万人に特効キメてるお嬢はゲラウトヒヤっす!! 着替えてコンブ!!」


「ははっ」

「小春ちゃん! 可愛い!! フリル可愛い!! なにそれ、お人形さんみたい!!」



「そ、そうですか? そんな、普通ですよ? じゃ、じゃあこのままでいようかな」


 パパピの本、次巻あるなら教えてよ桃さん。

 買うから。売り場は自己啓発コーナーでいい?



 朝ごはんが完成した。

 やっぱり焼き鮭と目玉焼きに味噌汁。そして白飯がドーンよ。


 これがあれば戦える。

 1日のスタートが完璧に決まるのだ。


「うまーい! 二日酔いの朝はやっぱね、これ!! 秀亀は良いお嫁さんになるわー!!」

「それはアリエッティっすね。秀亀さんに専業主夫してもらって、帰ったら秀亀のヒデキがお出迎えとか、あり寄りのアリエッティっす」


 この子たち、とても心が綺麗で素晴らしいと思う。

 物事の良し悪しと何を見るべきかが分かってるね。


「先日頂いた懐石料理よりもずっと美味しいですね! もえもえ、父と祖父と曾祖父に言って、あの料亭に小松さんのお食事を再現させます!!」

「私は実家のお漬け物のヒデキ感激部門の設立を急がせなくっちゃです。やっぱり秀亀さんのお料理に合うお漬け物が令和のスタンダードになるという父の目は確かです!!」


 お嬢様たちは落ち着いて欲しい。

 マジで、君らの実家がガチると色んな庶民の人生が狂うんだよ。


 それが秀亀きっかけとか、もうヒデキガチしょんぼり沈殿丸だから。


「そーいえば、まりっぺは?」

「あ。忘れてた!」


 これだけ色々と考えて喋っているのに、無反応。

 つまり、茉莉子はスリープモード中。


 部屋に戻るとやっぱり寝てた。

 さっきよりも服が乱れてるのはなんでなんだろう。


 叩き起こして朝飯を食わすべく連行する。


「ふぃー! お待たせしましたぁー。おじさんが昨日の夜、なかなか寝かせてくれなかったのでー。マリーともあろう者がついつい深い眠りに!!」


「みんな! 秀亀を許してあげて!!」


 おい、ヤメろ! ぼっち警察!!


「あーす。茉莉子さんの短パンが腰まで落ちてんのはバーリーの痕跡すか」

「もえもえはマリーさんに負けました! さすが正妻です!!」

「マリーちゃん。やっぱりもう。じいやが言ってました……」


 すげぇジト目で全員から見られた。

 海藻が生きるのには、地上って過酷すぎるんだよ。

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