第67話 秀亀くんの「とりあえず飯食わせよう、焼きそばだ!!」 ~嫁力高位乙女たちの出番~

 プールから引き上げて来た俺たち。

 「風呂入ったら?」と全員に言うと、「お腹空きました!!」とマリーさんが大きな声と胸を張る。


 まあ海じゃないし、髪が濡れてるのとか気にならないのなら良いけど。

 それってまりっぺの感想ですよね。


(分かってないですねー。おじさんってば! 女子はお腹空いてても、お腹空いたって言い出せないんです! 乙女心が全然なんですからぁー。可愛いですねぇー)


 まりっぺはたった今「腹減った!!」って堂々とお気持ち表明したじゃん。

 ついに侯爵令嬢だけじゃなくて、乙女もヤメたのかな。


(あー。今のはカチンと来ましたよー。分かりました! ここでTシャツを脱ぎます!!)


 そんな事して、俺に何かダメージがあると思っとるのかね、この子は。

 まったくバカなんだから。

 今更お前のブラジャーの1つや2つ、見たところで何も感じんわい。



(んふふー。あたしの隣には小春ちゃんがいます!! なんだか既にしょんぼりしてますけど!! いいんですね!!)


 こいつ! 親友を躊躇なく交渉の道具に……!!

 よし、分かった! 俺の負けだ!! 勘弁して下さい!!



 マリーさんに屈服した俺は、全員にアンケート調査をする。

 民主主義よ、俺にひと時の休息をくれ!!


 部屋でしばらく寝転がりたい!!


「あー。みんな、お風呂にする? お風呂にする? それともご飯?」


「ペコっす! ウチ、正直秀亀さんが飯食うかって言い出すの待ってたっす!!」

「わたしもお腹空いたぜー! 髪? 濡れてるからなに?」

「もえもえは皆さまのご意思に従います! マリーの会の下級戦闘員ですので!!」

「……ははっ」



「おじさん! これが令和の女子の総意です!!」

「分かった、分かった! なんか適当に作りゃ良いんだろ! しかし、この人数の飯作るのは結構時間かかるぞ。……あと、小春ちゃんから魂抜けてない?」


 いや、ここは触れないのが正解だって俺、知ってる!!



 で、俺はどこで飯作れば良いのか。

 厨房の場所は知ってるけど、さっき覗いたらガチの厨房だった。

 あれ、料理番組に出てくるヤツじゃん。


(おばあちゃんにラインしたら、第2宴会場のキッチン使えって返信がきましたよ! あと、水に溶ける水着が各部屋のアメニティコーナーに入ってるそうです!!)


 そんなとこがあったのか。

 広すぎて確認してないんだよ。


 ばあちゃんに返信しといて。

 アメニティって快適さを付加するサービスの事で、そんなもんで快適さを得るヤツいねぇからって。



(えっ……? ダメなんですか……?)


 ぜってぇ誰にも言うなよ!!

 最近、こいつら全員の倫理観がマリーさんと同列でお行儀よく並んでんだよ!!



 宴会場とやらに全員で向かったところ、やっぱり規格外の厨房があった。

 デカい鉄板とかあるんだけど。


 焼き土下座とかするの?


「鉄板焼き来たぞーこれー!! こちらぼっち警察! 各員、なんか新鮮な海の幸とかを捜すのだ!! 鉄板焼きでビールを飲みます、わたし!!」

「もえもえ、かしこまりました!! ビール飲みます!!」


 女子高生に飲ませてたまるか。

 俺の命も呑まれるわい。


 新菜がマリーさんと萌乃さんを引き連れて捜索に出かけた。

 冷蔵庫を見ると、肉やら野菜やら、結構入っている。

 鉄板か。


 焼きそばだな!!


「お邪魔しまてぃー! レアピーチ! お手伝いに来ましてぃー!!」

「おお! 桃さん料理が上手いもんな! 助かる! なにせ6人前! 俺一人だときつかったんだよ! ただ、着替えておいで?」


「うぃっす? ウチの凡パイと凡腋と凡ノースリーブは眼中にお無しっすか?」

「鉄板使うんだから、油はねるかもでしょうが。桃さん肌綺麗なんだから、長袖着ておいで。ギャルってみんな日焼けしてんのかと思ってたけど、桃さん白いよね」


「ハードボイルドマスタード野郎じゃないすか……。いきなり褒めてくんなしてぃーっすよぉ!! 急にはずぃーんで、ダウンコート着てくるっす!!」


 そんなもんないよ。

 ただ、長袖のシャツならあった。


「……ははっ」


 あっ! 爆弾が残ってる!!

 まずい、爆発するぞ!!


「え、えーと。小春ちゃん?」

「あ。秀亀さん? 私のこと、見えてましたか? いや、もう胸の格差で映す価値無しになって、たまに声だけ響くホラー要員になったのかなって。ははっ」


 かなり病んでおられる。


「小春ちゃん、お料理頑張ってんだよな? 手伝ってくれない?」

「なんでそんなこと知ってるんですか? 私ごときの情報を」


「卑屈!! マリーに聞いたんだよ! あと、じいやさんからラインで送られてくるよ? 小春ちゃんの料理姿。可愛いエプロンしてさ! ほら、ウサギがモチーフのモフモフしたやつとか! 俺、保存してんの! 見る?」

「あわわわわわ! な、なにしてるんですか!? 秀亀さん、巨大なボールにしか興味ないんじゃ? ……あっ。待ってください。マリーちゃんが言ってました。秀亀さんは、女子の全体的なバランスで興奮するって。つまり、私の貧しい体でも!? 全体的に貧しい感じで統一されているので、バランス的には……あり!?」


 俺の知らない伏線が回収されて、小春ちゃんが元気になった。

 桃さんと小春ちゃんのサポートを受けて、大量の焼きそばを作ってやったぜ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うめー!! この何とか和牛のっけた秀亀焼きそば、ちょーうましー!!」

「こちらの伊勢海老を乗せた小松さん焼きそばも大変美味です!」


 それもう和牛と伊勢海老が美味いんじゃないかな。


「小春ちゃん、今日はたくさん食べますね! いつもは小食なのに!!」

「ふふっ! 秀亀さんと一緒に作ったんだよー。なんだか、そう思ったらたくさん食べたくなっちゃって!」


 ああ、小春ちゃんがダークサイドから還って来た。

 本当に良かった。


 胸なんてあんなもん個性だ。

 でも、それを言うのは外野で、気にしている本人からしたら「おめーの意見なんか聞いてねぇから!!」が真理。


 つまり、本人が別の事で楽しみを得てくれることが1番の解決法なんだ。

 ご覧なさいよ、これが心理学。


「クリスタルチェリーブロッサムっすね」

「それは褒められてんの?」


「ガチポメラニアンっすよ? 秀亀さん、そーゆうとこあるモンティっすもん。周りのみんなが嫌な気持ちしねぇように、見守りマンなんすよ。ガチ推しっす」

「あらやだ! 桃さん、俺のこと好きになってんな! はっはっは!!」



「う、うす。あの、長袖脱いだんすけど。凡パイ押し付けてピーチ当てクイズしてもいっすか? ウチもたまにはリード取っときてぇんで。第二夫人ゲットワイルドっす」

「お気持ちだけで結構だよ? あ、もう当ててんな!! 待って! みんなに見られたら面倒だから!! ……あっ。高1コンビがすっげぇ見てる!!」



 とはいえ、桃さんのサポートなしじゃ明日の朝飯も作れないことが分かっている。

 じゃあ、このピーチ押しのける訳にもいかない。


 ご褒美?

 冗談じゃない。ヒデキがげんなりしてるから。


(おじさん! おじさん!!)


 やだ! 聞きたくない!

 小春ちゃん情報だろ!!


(小春ちゃんが、私も突起ならあるから……イケるかな? とか呟いてます! 突起ってなんですか!!)


 俺、食器片づけるからさ。

 君ら全員で大浴場に行っておいで?


 飯食ってすぐ風呂は危ない?


 知らねぇよ。

 俺のメンタルをたまには一番に考えたっていいでしょうが。

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