第62話 プールサイドの格差社会と小春ちゃん ~女子が部屋割りで揉めてるシーンはばあちゃんが長文で埋めました~

 部屋に入ると、なんか高そうなホテル感が漂ってきた。

 人生で過ごした一番高い部屋が新菜の実家、安岡旅館。

 次点がないから比較はできないけども。


 全部整ってる。半月くらい暮らせそうなくらい。


 そこで疑問を抱ける俺の正常な庶民的感覚が愛おしい。

 従業員さんに1人たりともお目にかかれてねぇんだけど。


 無駄な推理パートに時間は割かない。

 電話だ。電話。


「ばあちゃん!! 俺の考えてること、分かるよな!!」

『おっす! おら、チャン・ツィイー!! ヒジキ! 自分の考えを女に強いてくるとか! ……やるようになったじゃないか。ばあちゃん、つまみ食い良いっすか?』


「うるせぇ! この謎の施設、ホテルなんだろ!? スタッフは!?」

『全員休暇取らせたけど?』


「なんで!? 俺たちが使用するのに!?」

『秀亀?』



「急に俺がばあちゃんの中で人間になると、だいたい嫌な話が来るんだよね!!」

『聞きな、秀亀。あんた、御亀村ではぼっち。男子校では非生産的な野郎どもと仲良くして、大学に入ったらまたぼっち。学生時代の思い出がないまま、社会へ羽ばたこうとしている事実から目を逸らしていないかい? 社会人になったらね、もう思い出製作タイムはないんだよ? 強制的に行われる会社のイベントに参加費払って、上司のありがたいお話聞いて、一部のリア充たちが盛り上がってるのを横目に、後片付けをこなす。それが秀亀。このまま進んだ先のあんたに待ち受ける未来さ』


 すげぇ長文ですげぇ嫌なこと言われたけど、反論できそうにねぇな!!



「うん。泣けば良いの?」

『ふふ……。下手だなぁ。ヒジキくん。へたっぴさ……! 思い出の作り方がへた……! ヒジキくんが本当に欲しいのは、こっち。美少女たちとひと夏の体験……! これをプールにインして、秀亀のヒデキをホッカホッカにしてさ……冷えた体でヤりたい……! だろ……?』


「…………っ!!!」

『さあ! 豪遊してきな!! そのために、スタッフはゼロ!! すべてはヒジキの手の中さ!! 共同生活……! 一泊二日の……!! 狂気の開宴……!!』


 電話が切れた。

 なんか俺が「そうだった……!!」って気付いたみたいな空気で。



 絶句しただけなんだが!!

 いらねぇんだよ、そういうの!


 茉莉子の世話で毎日体験してるから!! 5倍にしなくても間に合ってる!!



(おじさん、おじさん)


 噂をすればマリーさん。

 みんな着替えた?


(部屋割りが決まりました!!)


 まだやってたの!?

 もう1時間くらい経つよね?


(それがですねー。みんなでおじさんの両サイドの部屋を取り合うことになりましてー。あたしも頑張ったのですが、お向かいになってしまいました。おじさん、モテ期が始まってますよ?)


 それは恐竜にとっての氷河期みたいなもんだから、油断すると子ヒデキが絶滅するんだけど。

 で!!


 両サイドは!?


(あー。おじさんがやらしーことを考えてますねー。けど! マリーさんとしては、おじさんが野獣になってくれたら、共同生活でナニかがありそうなので! 頑張ってヒジキビーストに目覚めてください!! ちなみに、左が小春ちゃんで右が桃さんです!!)


 よし! 比較的危険性の低い2人だった!!

 桃さんと新菜をチェンジしたいが、贅沢は言うまい!!


 避けたかった、こはるん・もえもえと、レアぴっぴ・もえもえのパターンじゃない!!


(マリーさんは夜、忍び込むかもしれませんよー?)


 もうウェルカムだわ。

 むしろ安心する。


 周りがマリーさんに気を遣って、良くないハッスルを自重してくれたら最高。

 おいで、おいで。

 お菓子食べて良いし、ジュース飲んでもいいぞ。


(なんですかぁ! 子供扱いしてぇ!! もぉー!! いいです! 着替えます! みんなもお部屋に行ったので、きっと準備してますよ! ふんっ!!)


 つまり、ここにいるのは危険ということ。

 絶対に水着になった子が突撃して来るからね。


 部屋がバレている以上、避難しておくのがベター。


 俺は服を脱いでハンガーに引っ掛けて、海パンに履き替えたら逃げるようにプールへ向かうのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ばあちゃん、もうボケてんのかな?」


 プールが3つあった。


 スタンダードな競技用のヤツ。

 水深80センチの子供ようのヤツ。

 流れるプール。


 プールの施設はマジでレジャーホテルなのに、ホテルとして運用された形跡がまったくないとか、年寄りの道楽が極まってんだよ。

 まあ、全部温水だし、その辺は助かる。


 女の子に体冷やさせるのは良くないからね。


「……なにヤツ!?」


 間違いない。

 誰かの足音が聞こえた。


 ヒジキ色の脳細胞が活性化。


 まず、明らかに歩幅が狭い。

 この時点で新菜が外れる。

 あいつ、160センチ超えてるから。


 次になんか軽い。

 萌乃さんを外そう。


 体重聞いたことないけど、もえもえのもえもえは立派だから。

 あれって1キロ超える重さがあるって知ってんだ、俺。


 まりっぺとぼっち警察とレアぴっぴともえもえから聞いた。


 マリーさんは最初から除外。

 だって絶対に水着見せるとか言って、ウッキウキのテレパシー送って来るもん。

 うちの子に「んふふー! 水着、水着ですよー!!」を堪えられる自制心はない。


 そうなると、桃さんかなと思いたくなるがそれは浅はか。

 桃さんの隣が萌乃さんなんだよね、部屋割り。


 絶対に1バトルしてから来るか、牽制しながら2人で来るかのどちらかなので、1番にやって来る俊敏さを加味してはいけない。


 つまり!!


「あ。わ、私が最初ですか?」

「そうみたいだね。小春ちゃん」


 村越小春選手が正解!!


「うっ……。すみません、スクール水着で。あの、じいやはビキニを持っていけってうるさかったんですが。今日は水泳を教えてもらう集まりですし、そんな浮ついたことじゃダメだと思ったんですけど。……つまらない子って思われちゃいましたか?」

「とんでもない! 小春ちゃんのマジメな姿勢はすごくいいと思う! じいやさんとは、俺があとでお話しとこう! あのじいさん、ちょいちょい良くないな!!」


「せめて競泳水着にすればよかったんですけど……。私、ほら。ははっ。胸元とか、ピタッとしてないと逆に危ういので。はははっ」


 セルフでダークサイドに堕ちていくこはるん。

 俺、まだ何も言ってないのに。


「いや、似合ってるよ? いいよね、そのタイプのスクール水着。上も下も、なんというか配慮されててさ。スパッツみたいで動きやすそうだし。それなら捲れたりとか気にせず練習できそうで、小春ちゃんの真剣さが伝わってきてとても好感が持てるなぁ!!」


 どうだ!

 昨日の夜、各メンバーに対して穏便に済ませる感想を睡眠時間削って考えてきた、俺の完璧なフォローは!!



「そ、そうですか? ふふっ。秀亀さんにそう言われると嬉しいです。ですよね! 水着なんて関係ないですもん! 泳げるようになるのが目的!!」


 そらご覧なさい!!

 これが心理学!!



「お嬢! なんすか、その暴力的なスク水! 裸よりエロいんじゃねーすか!!」

「ヤマモリレアピーチちゃんはビキニだよ? エロさで言ったら、そっちの方が絶対に殿方に好かれると思うな」


「……ははっ」



 小春ちゃんの瞳がくすんだ。

 心理学なんて無力だ。

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