第61話 x=秀亀くん×美少女5人も乗せた車内×デカい車の運転 ~xは絶望で証明完了~

 デカい車で道路を走る。

 ちょっと手汗でハンドルがヌルヌルしてきた。


 運転免許を取得したのは18歳。

 アルバイトの幅が広がると思い、学割も利くとのことでゲットした。


 ファミレスのハイエースを運転することもあるので、乗ってみたら意外とどうにかなるだろう。なってらいいなと思っていたが。


 ならねぇ!!

 日本の道路にコミットしてねぇんだよ、この車!!


(あたし、マリーさん)


 今日は嬉しい、マリーさんホラーバージョン。

 なんだ?


 お漏らし警報か!?

 気持ち悪くなったか!?

 すぐにコンビニに寄るからね!!


(あたし、マリーさん。隣の席の小春ちゃんの顔色が春霞のように曇っているの)


 文学的!

 最悪じゃねぇか!! マリーさんは!?


(あたし、マリーさん。おトイレは済ませていたし、ご飯少な目にしたし、のどが乾いたら少しずつお茶飲んでるから、平気なの)


 うちの子の学習能力って高いんだ!!

 もうその辺で自慢したい! 茉莉子は賢い!! しかも可愛いんだぞ!!


 とりあえず、ぼっち警察に看病させてくれ。

 すぐにコンビニ探すから。


(あたし、マリーさん)


 嘘だろ!?

 やだ! 聞きたくない!!



(今ね、新菜さんはあたしの太ももの上に倒れてるの。ゔぉえって言ってる)


 ぼっち警察ぅ!!

 車に弱いなら言ってよ!! 基本的に新菜頼りで進行してんのよ、こちとらぁ!!



「ちょい、お嬢! なにパイスラしてんすか!! いや、おかすぃーっすよね!? なんすか、そのもっこり度合い!! あ゛! お嬢、まさか! キャストオフしてっすか!?」

「うふふ。だって、これから水着になるわけですし。もえもえ的には、無駄を省きたいので。もう外してます!」


「こ、この……ワンダフルボインワンダーランド!! 秀亀さん! ぜってぇこっち見ねぇでくだしぃー!! グッドルッキングパイがあるんで!! もう、ウチですら触ってみてぇカルマに侵されそっす!! シートベルトを悪用するぺぇぺぇとかファーストコンタクトっすよ!!」

「小松さん! お好きですか? こういうの!! バレーボールの使い方は、殿方に聞けと父と祖父と曾祖父が! バレーボールをこねくり回すのもそれぞれの家風があると聞きました!!」



 地獄かな?

 めざましどようびの占いが最下位だったから、嫌な予感はしてたのよ。


 ラッキーアイテムは担々麵ですって可愛く教えてくれたアナウンサーさんが、今は憎いね!!

 ラーメン屋に寄ろう! あるいは中華料理屋!!



 涙がこぼれて視界不良まで起きたらマジで終わりだと震えていたら、コンビニがあった。

 セブンイレブン派だったけど、今日から俺、ファミリーマートも推すわ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ばあちゃんが指示した謎の施設。

 海沿いをナビは指示してくれてるんだが、この辺はどう見ても海水浴ができる雰囲気ではないし、そもそもまだ梅雨明けしていないからちょっと肌寒い。



 よし! 帰ろうか!!



(おじさーん。マリーさんナビをお知らせしまーす)


 ヤメとけ!

 スマホ見るな! 気持ち悪くなるから!!


(んっふっふー!! 婦人会のおばちゃんに梅干しもらって来たあたしに死角はないのです!! ずーっと食べてます!!)


 ご年配の知恵ってすごいわ。

 まりっぺが乗り物酔いを克服してんだけど。


「ゔぉえ……。ま、まり、まりっぺ……。その匂い、なんかヤダ……。さっき飲んだコーラ、スプラッシュしそうだぜ……」


 代打のぼっち警察が死にそう!!

 梅干し引っ込めろ、マリーさん!!


「はぁぁー。落ち着きますね、梅干しの匂い。私も今度から持ち運びます。マリーちゃんのおかげで気分スッキリです」


 反対サイドでは小春ちゃんが救われてんのね!!

 なにこのトロッコ問題!!


 おっと! 対象がどっちも1人だからトロッコ問題じゃないって言うツッコミは不要だぜ!!

 今は「俺が運転放棄して逃げるか」と「新菜助けるか」の二律背反だから!!


 俺が運転放棄したら、5人を置き去りにすることになるからね!

 ほら! トロッコ問題!!


 と、しょうもない事を考えて現実から逃げていたら、マリーさんナビによって目的地に到着していた。

 帰りは絶対に金髪サイドテールを助手席に乗せよう。


 振り向かれたら長い髪の束が俺の顔面を襲いそうだけど。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……なに、ここ。ドームじゃん」


 倉庫が立ち並ぶエリアに擬態する感じですげぇデカいドームがあるんだけど。

 ばあちゃん、また何か金にものを言わせてよからぬことをしてんな。


(んーと。おばあちゃんからですね。そこは観光ホテルとして国交省に登録してっから! 問題ないよ!! とラインがきました!!)


 観光する場所もなければ、ホテルも見当たらないんだが。

 とりあえず、新菜をおんぶして中に入ろう。


「パナップっすね! なんかスタートレック感がアリエッティなんすけど!! 未来の施設すか!!」

「本当にすごいですね。私、初めてです。ここって屋内プールですか? マリーちゃんの実家ってやっぱり常識じゃ語れないんだ。うちは所詮ただの漬物屋でした」


「え゛っ!? あ、ああー! そうなんです! フランソワ家の力を結集した、あの! スーパープールです!!」


 悲しいな。

 まりっぺの中で侯爵令嬢の設定は整いつつあるけど、上流階級の造詣が浅すぎるせいで「スーパープール」とか言うちょっと頭の悪い感じの施設になっちゃったよ。


 これ、絶対に何千万とか掛かってるヤツでしょ?


「大理石が敷き詰めてありますね。なるほどですー」

「おう。どうした、もえもえ? もえもえとしてはやっぱり安っぽくてご不満だった? じゃあ、帰ろうか!!」


「いえいえ! もえもえ的にも素晴らしいと思います! このエントランスだけでも、数億円は使われています。カマンベールモッツアレラ伯爵家、やりますね! もえもえ、一層嫁ぎたくなりました!! 乳と祖父と曾祖父に報告します!!」

「……そう。ねぇ、乳混ざってなかった? 疲れてんのかな、俺」


 ばあちゃん。

 俺の知らないところで勝手に外堀埋めていくのヤメて?


 しかもばあちゃんにとって俺、ただの孫の中の1人じゃん。

 小松家の財産相続するとかいう設定ないじゃん。

 何ならさ、ヒジキじゃん。



 海藻だからさ、最終的に色々バレたら、俺が詐欺したヒジキみたいになって乾燥させられるよね!!



 まあ、悲劇的な未来よりも今は年長者として、引率責任者の義務を果たそう。

 ちゃんとホテルみたいに個室が……40もあるな。バカじゃん。


「よし。みんな、とりあえず部屋適当に決めて、着替えてプール行くか。これが地図みたいだから、スマホに落としてくれ。……確認だけど、泳げないのは?」


「はいっ!!」

「よし。マリーさんは背筋が伸びて堂々としてるな」


「……はい」

「小春ちゃんはむしろ小さくなってるね。うん、姿勢の話だよ」


「うぃっす!!」

「桃さんは泳げて欲しかった。貴重なサポートキャラを失った気分」


「もえもえです!!」

「なんでもえもえは泳げねぇんだろうね。仰向けでプールに叩き込んだら勝手に浮きそうなのに」



「……へーい。わたし、無理だぜー」

「おい! マジかよ!! 新菜はトレーナー側だったじゃん!? うわぁ! 顔色が悪い! じゃあ無理させられない! ゆっくりしていってね!!」


 全員泳げねぇじゃねぇか!!



 水の中に入ると落ちこぼれになるお嬢様をコンプリートしてしまった。

 今は海藻の自分が恨めしい。


 泳げちゃうんだもん。

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