えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第57話 こはるんのティータイム ~もえもえを添えて~
第57話 こはるんのティータイム ~もえもえを添えて~
ファミレスはいいね。
パスタ茹でてると心を潤してくれる。
リリンの生み出したバイトの極みだよ。
そう感じないか? 小松茉莉子さん。
(あのー。あたし、居残りで補習授業中なんですけど。しょうもないメッセージ送ってこないでもらえますか?)
ごめんあそばせ!!
まりっぺが帰って来るの7時過ぎるらしいからさ、バイト延長しちゃった!!
迎えは桃さんが行ってくれるらしいし。
ガッツリ働くぞい!
「小松くん……」
「すみません、ボス。その表情で厨房に来ないでください。俺の心は敏感なので。嫌な予感をすぐに覚えます」
「ロールスロイスが来たんだ」
「……ああ。分かりました。俺がおもてなしをします。お客全然いませんし」
「リムジンも来たんだ。あと、警護車両みたいなのが8台ほど!!」
「それ、俺の管轄じゃないですよ!? どっかの国の要人じゃないんですか!?」
うちの学院の要人だった。
「ごめんくださーい! 予約しておいた村越ですー!!」
うちのファミレスには予約システムなどございません。
「私が承ったよ」
「客がいねぇのそのせいですか!! おかしいと思ったんですよ! 高柳さんがホールにいるのに、オタクもゼロなんて!! 権力に屈してんなぁ!!」
「小松くん。ホールをお任せするよ」
「分かりました。これも仕事のうちですからね。行ってきます」
老紳士とガチムチ紳士が立っていた。
見慣れた2人である。
「いらっしゃいませ」
「これはカマンベール伯爵。ご機嫌麗しゅう」
「ええ、ええ。麗しゅう。小春ちゃん! いらっしゃい!!」
「こんにちはー! マリーちゃんが居残りで、時間を持て余して来ちゃいました!!」
最近は小春ちゃんダークサイドに堕ちないし、可愛い妹なんだよね。
客もこれ以上来ないらしいし、しっかりおもてなしして早上がりだな。
「ごきげんよう。小松さん! もえもえも来ちゃいました!!」
もえもえ来ちゃったんだ!!
そりゃ警護車両も山のようにご来店するか!!
「もえもえ先輩とは校門で偶然お会いして。せっかくなのでお誘いしました!」
「お、おお。マジか。……もえもえってもう定着したの? 早くない?」
「ヤマモリレアピーチちゃんが言ってましたもの! こはるるーさんの平原がステキなアトラクションだと!!」
「もえもえ先輩は2つも年上なので、難しい言葉を使われるんですよ。秀亀さん? 平原ってなんですか?」
レアぴっぴを責めるべきか、もえもえを𠮟るべきか。
答えは決まっている。
「小春ちゃんがアレだね! 平原を吹き抜けるような、爽やかな風みたいでね! ナニがね!! もうとても慎み深くてね! 最高って話!!」
「あ。褒められてたんですか!? 照れますね! けど、風が吹き抜けるなら平原よりも高原では?」
「高原も似たような意味ですが、平たい比喩表現ですので、ここは平原が正しいかともえもえは思います。うらやましいです」
「もえもえッッ!! 悪気がないどころか、お嬢様常識しかないのよね!! 俺、頑張って色々教えるから! 連絡先交換しよう!!」
直後、窓の外から多数の銃口が俺を見ていた。
治外法権の範囲、ずいぶんと広がったんですね。
ひとまず、村越家の執事コンビはいつものように僻地へとご案内。
じいやにはパフェ。
セバスチャン良男には水道の水!!
続いて、お嬢様と上位お嬢様を奥の席へとご案内。
手が震えて、膝がガクガクするなぁ!!
「こちらがファミリーレストランですか! 始めて伺いました!!」
「ふふっ。私も同じ感想を言ったことがあります。もえもえ先輩とはゆっくりお話してみたかったんです」
「光栄です。もえもえもこはるるーさんの事はずっと気になっていました! あ! 小松さん!! あの!」
「はっ! お手洗いの場所でしょうか? お水は少しばかりお待ちを。今、店長が仕入れた南極の水をご用意しています!!」
「今日はベストを脱いできました! どうでしょうか? ヤマモリレアピーチちゃんが、小松さんにはもえもえのブラウスだけでオーバーキル? だと伺ったので!」
「あ゛あ゛! 目の前で乳の暗黒卿が誕生するし、窓の外からは銃口が見えるし! 確かにオーバーキル、だからベスト着る!! 秀亀、頼む! もえもえ、ベスト、着る!!」
喜津音女学院の校則は厳しく、スカート丈からベストの着用までかなり細かい。
茉莉子が全然守っていないので忘れがちだが、ちゃんと決まっているのだ。
「もえもえ先輩……。すごいです」
「……? あ。バレーボールですか?」
「バレーボール?」
「ええ。近衛宮家では、代々バレーボールをですね、初めて掴まれた男性に」
「チョコレートパフェガチ盛りぃ!! サービスどすえ!! はい!! 食べて! 2人とも! 溶けるから!! すぐ溶けるから!! 口は食べることに使ってぇ!!」
店長は早く水持って来て!!
俺が頭からかぶって退場するので!! 急いで!!
◆◇◆◇◆◇◆◇
バレーボールの話題にならなければ、小春ちゃんと萌乃さんのティータイムは優雅という2文字で全ての解説が終わる。
所作は美しく、こんなセクシーで釣る制服しか取柄のないファミレスのパフェを食べてるだけなのに、美術館に飾ってある絵画のような気品が売るほど溢れてくる。
店長! 水は!?
「もえもえ先輩、一人っ子なんですか? それって大変じゃありません?」
「そうですね。家の者は婿養子をと言いますけど」
「ですよね。私も父とじいやが秀亀さんを婿入りさせろってうるさくて」
「あら。困りますね。小松さんが真っ二つになってしまいます。ふふふっ」
笑い事じゃねぇ!!
店長! 水ぅ!! 水はまだですかぁ!?
「こはるるーさんは送迎の車をおヤメになったんですよね?」
「はい。マリーちゃんが徒歩通学なので。私も一緒がいいなって。公園で待ち合わせしてるんです」
いつもまりっぺが待たせてごめんね。
ちゃんと早起きさせるから。
「まあ! それ、もえもえの憧れていたシチュエーションです! ぜひ、もえもえも加えて頂けませんか?」
「ステキですね! ぜひぜひ! マリーちゃんも喜びます! あ! 秀亀さんもどうですか? 確か、駅の方に用事がある時は朝、マリーちゃんと一緒の日がありますもんね! 4人で登校なんて、楽しそうです!」
マリーは今度から8時まで寝かせるから、ちょっと無理かな!!
「小松さん、お仕事たくさんされているんでしたよね。お若いのにすごいと、父と祖父と曾祖父が褒めていました」
「え゛っ……。俺のお話、ご実家でしてんの!?」
「もちろんです! バレーボールを揉みしだかれたら一族会議というのが近衛宮家の伝統ですので!!」
「バレーボール?」
「店長!! もう水いらねぇんで! お土産にパスタ!! 美味しいパスタ持って来て!!」
「はい! 小松くん! 新しいパスタだよ!!」
高柳さん!! バタコさんみたいなファインプレー!!
店長どこ行きやがった! ちくしょうが!!
最終的に俺と高柳さんで最敬礼をして2人のお嬢様をお見送りした。
店長は厨房でお腹抱えて苦しんでたから、これは仕方がない。
この戦いは経験を積んでいない者には厳しすぎるって、俺、知ってんだ。
じゃあ高柳さんってすげぇや。
好きになりそう。
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