第54話 見た目がギャルっぽいだけのいい子VSお嬢様の上位種ないい子 ~修羅場の意味を知る小松秀亀くん。20歳。童貞~

「さあさあ! 小松さん! お気軽にもえもえとお呼びください!!」


 お呼びできるか!!

 ぼっち警察からタレコミがあったんだよ!!


 『秀亀の家、なんか黒いスーツの集団に包囲されてんぜー? ヤバそうだからわたし、遊びに来たけど帰るねー』って!!


 寄って行ってよ!! 何でも好きなもの作ってあげるから!!


 桃さんが「ぷっぷすー」と鼻で笑う。

 昔、クレヨンしんちゃんでしんのすけがそんな感じで相手を煽ってたね。


「お嬢に言っとくすけどぉ! 親しい男女は相手のことを苗字なんかでコールしねぇんで! もー! ウチなんか、秀亀さんって何百回呼んだか分かんねっすわ! 苗字呼びなんかで足踏みしてちゃ、一生秀亀さんとはセックスできねぇーんすよ!! ふっははー! 秀亀さん、秀亀さん! 言ったりましてぃー!!」

「うん。ヤメて? 桃さん。桃さんの声ってね、結構アニメ声って言うか、俺の好きなタイプなの。レアピーチ語は慣れてきたけど、セックスとか女子高生が言わんとって……。ヒデキしょんぼりする」


 桃さんに「さーせん。ウチ、秀亀さんがピーナッツクリーム野郎だってホミータイッしてたっす」と優しい目で見つめられた。

 ホミータイッはホールド・ミー・タイトだと思う。


 そこから発展させて「強く抱きしめて忘れさせて!」に行き着くと、無駄な部分を省く。

 残ったのは「忘れる」だから、この場合「忘れていました」が正しい訳になります。


「ヤマモリレアピーチちゃん……。さすが、ギャルしてるだけのことはあるね。すごくすごく距離感の縮め方が上手。わたくし、見習わなくちゃだよ」

「そもそもっすね。わたくしとか言う一人称が距離作るんすよ! 自分のことわたくしとか言ってるお高い女子は秀亀さんと釣り合わねっす!!」



「そうなんだ。じゃあ、今日からわたくし、自分のことはもえもえと言いますね!」

「レアぴっぴ。どうしてくれる? すげぇ悪化したけど。俺だってたまにゃ怒るよ?」

「あ。さーせん。敵に岩塩送っちまいましてぃー」



 お茶がやっとぬるくなって来たので、ズズっと啜る。

 ああ、この深みのある苦みと、コクのある風味。もう心が落ち着くわ。


「ぷっぷすー! あとお嬢が飲んだお茶! ウチが水筒に淹れてきた8パックで100円のクソ安いヤツっすから! その緑の湯呑のヤツぅ!! ……なんで秀亀さんが飲んでんすか? ペソったんすか?」


 俺、すごく安い男なのかもしれない。


「……うん。まあ、萌乃さんが好きなように呼んでくれれば良いから。別に、小松って呼ばれても距離なんか感じないよ? だって俺、そもそも女子に識別コードで呼ばれる経験がほぼなかったからね」

「あぅ……。お気遣いありがとうございます。あの、もえもえはですね。その、男性をお名前でお呼びした経験がなく。何度も勇気を出そうとしたのですが、もえもえは意気地なしでした……」



「ほら見たすか! 秀亀さん!! お嬢のこれ!! ガチってんすよ! きゃわわっすもん!! もえもえとか言う頭悪い不思議ちゃんみたいな一人称すらボーナスじゃないすか!!」

「分かる!!」


 もうなんか、小動物的な可愛らしさと淑女としてのいじらしさが同居してんの!!

 すげぇや、これ!!



 萌乃さんはモジモジしながら続けた。


「あ。でもね、ヤマモリレアピーチちゃん。もえもえね。バレーボールはがっちり掴んでもらったよ? 4回くらい揉まれたと思う。けど、ヤマモリレアピーチちゃんはセックスフレンドだから、そういうの何百回としてるよね。ヤマモリレアピーチちゃんだもんね。すごいな、ヤマモリレアピーチちゃん。追いつけないかもしれないよ、もえもえ」


「あの、ぶん殴っていいすか? もえもえとヤマモリレアピーチちゃんがバトって、なんかヤマモリレアピーチちゃんがウチの預かり知らねぇとこで惨敗してんすけど」

「落ち着け、桃さん! 普段の温厚で良妻感溢れる君はどこ行った!! 戻ってこい!!」


「パイ、こねたんすか?」

「…………ははっ」


「こねてんじゃねぇすか! 秀亀さん、そーゆーとこあるっすよね!! 全然性欲ねぇくせに、やることはパンピーの次元超えてんすよ! 金髪ボインのJKローリングと同居してるとか、マジでレアピなんすよ!? それでまだ行きずりのボインこねてんすか!? で、その表情んなんすか!? なんで深刻になるんすか!? テーブルに肘立てて悩むより、もっと他に勃てて悩むことこアリエッティでしょ!?」



 レアピーチ語を理解してしまった俺は、罵られている内容も全部分かる!!

 なんかすげぇ怒られてる! 事故なのに!!



「うす。キメたっす」

「え? なに? どうしたの? 決めるよりキメるの方が怖い」


「レアピーチのピーチ狩ってくだすぃー」

「うん。何言ってんの? 無理だよ? 桃さん、そういうの良くない」



「ロイヤルチェリーすか。秀亀さんも所詮はサイズ感重視っすか。さーせんね! ウチ、可もなく不可もねぇ膨らみで! こはるるーさんの平原の方がまだ面白味あるアトラクションすもんね!!」

「違う! 桃さんに自分を大事にして欲しいだけだ!! あと、どさくさに紛れて小春ちゃんにひでぇこと言うなよ!!」



 とにかく、桃さんと萌乃さんが極めて相性の悪い子たちだと言うことは分かった。

 もう2度とニアミスすらしないように調整しよう。


「あっ。もうこんな時間。もえもえは帰りますね。門限がありますので。ヤマモリレアピーチちゃん。次はいつ小松さんのお宅へ?」

「んなもん明後日っすよ! ぷっぷすー! ウチ、家庭教師してもらってんで!!」


「では、もえもえも明後日に、また学校帰りになってしまいますが、寄りますね」


 なんで!?


「ヨユーなんすけど! ウチ、カチコミの露出キメて来るんで! お嬢は制服一択っすもんね! かわいそーっすね!!」

「む。ならば、もえもえはベストを脱いできます! ブラウスだけで来ますから!」


「校則破るんすか! お嬢!」

「学院から出たらもえもえは生徒会長ではなく、私人のもえもえですので。ルールには縛られません。では、ごきげんよう」


 萌乃さんが丁寧にうちの座布団を整えてから、帰っていった。


「よっしゃらぁぁぁい! 秀亀さん! ウチ、勝ちました!! さあ! 勉強しましょ!」

「……うん。……徳川さんちの人を覚えたら、今日は終わりでいいや」



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ただいまですー! いやー! 婦人会のおば様たちに捕まってしまいましたー! おはぎ食べていけって言うんですよー! そんなの、断れませんよねー!! おじさん? かつてないほどに萎れてますけど?」

「茉莉子が1番なんだなって、痛感してたとこ。やっぱね、見慣れた女子が良い」


「うぇぇ!? あたしが知らないところであたしの評価が上がってますか!? パンツ見せてもブラジャー頭に被せても無表情で微動だにしなかったおじさんが!! なにがあったんですかぁ!?」

「とてもね、辛い時間だったんだ……。晩飯、ピザポテトでいい?」


「いいわけないでしょ。茉莉子のためにお野菜食べさせる料理シリーズのロールキャベツを早く作ってください。お肉多めで」

「ああ。やっぱりね、これが落ち着くんだわ」


 今日の茉莉子は8割増しに可愛く見えた。

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