第53話 因縁の2人が出会うとき! ~レアピーチさんと萌乃さん、小松家でおっぱじめる~

「徳川家、なんかバイバイン飲んでねっすか? ちょい数多いんで、暴れん坊将軍だけメモリ入れとくっす」

「ちゃんと覚えようね。うちの大学、地歴公民も試験あるから」


 今日は桃さんの家庭教師。

 国語と英語が驚異的なレアピーチ脳でほぼ解決され、もう俺より絶対良い成績取るよねと確信に至り、ならば次のステージへ。


「秀亀さん。戦国武将の名前をウチ、顔と紐づけてメモリってんすけどぉ。……目ぇ細くてちょんまげキメてんの多くねっすか? 坊さんはみんな蝉丸に見えるっす」

「桃さん、歴史に向いてねぇ!!」


 レアピーチ脳の構造については未だに不明な部分しかないが、どうやら彼女なりの暗記ルールがあるらしく、それが日本史、世界史ともに発揮されない。

 桃色の脳細胞について仕様を考察すべきか、それとも正攻法で少しずつ範囲を削っていくか。


 玄関の呼び鈴が鳴ったのは、俺が一休さんのポーズを戯れに取りながら考え事をしていると「あーね。ウチのパパピの名前リスペクトしてくれてんすか?」と割と嫌な勘違いをされたタイミング。


「茉莉子さんすかね? ウチが行きますぃー」

「あいつ、呼び鈴なんか押さないけどな」


 修羅場が始まる合図であることに気付けなかった俺はホントばか。

 だけど、色恋の修羅場とかドラマでしか見たことねぇもん。


 最近サブスクで花より男子を茉莉子と見てるけど、道明寺カッコいいよね。



 って、うちの子に言ったら「憧れは理解から最も遠い感情ですよ?」とかディスられた。

 まりっぺがちょっとずつサブカルチャーに詳しくなっていく。



「ちょっ! なんすか! なんでお嬢がここに来てんすかぁ!? あんた、秀亀の何なんすか!! ソルト持って来てくだすぃー!」


 桃さんが珍しく、というか初めて誰かに敵意を向けるところを見た。

 性格SSRギャルでも苦手な人とかいるんだ。


 で、苦手な人ってどなた?


「こんにちは。小松さん」

「近衛宮さん!?」


「お名前で呼んでくださいって申し上げたじゃないですか! もう婚約しているのですから!!」

「え。ああ。うん。おぼっ!?」


 桃さん?

 今、気のせいじゃなかったら、俺の脇腹にエルボーぶち込んだかい!?


 ゴキブリ見つけても素手で掴んで「森へお帰りっす」と窓から逃がす、君が!

 うちの茉莉子みたいに過剰なツッコミを!?


「秀亀さん。ウチ、聞いてねーすけど?」

「久しぶりだね! ヤマモリレアピーチさん!」


「フルネームで呼んでいいのはズッ友だけなんす! お嬢はノー!!」

「えー。わたくしはヤマモリレアピーチさんのこと、お友達だと思ってたのに。急に学院辞めるから、寂しかったんだよ?」


 俺の記憶の中で点在する、レアピ情報と近衛宮さん、ああ、萌乃さんね。

 萌乃さん情報と繋がった。


 喜津音女学院の三年生は桃さんの元同級生。

 退学した学校で生徒会長してる子と急に再会したから、戸惑ってるんだね!



「騙されんティーっすよ!! 秀亀さん! このお嬢! 身長低いのに乳ボンバーっすから!! これで何人の男を惑わせてきたか!! きー!! パナップ!! 危険物取扱者試験受けてくんで、待っててくだしぃー!!」


 いや、これなんか遺恨あるヤツ!!



「ヤマモリレアピーチちゃんって呼んでもいいかな?」

「ノーっす!! なんでそんなカタコトの発音で親しげに呼んでくんすか!? てか、さんがちゃんにチェンジしただけ!!」


「懐かしいな。中等部の頃にヤマモリレアピーチちゃんが急に髪を赤く染めてきたから、生徒会室で6時間ほど尋問したんだよね」

「いい思い出のバイブスで語ってんじゃねぇっすよ! 秀亀さん! お嬢はやべっす!! 逃げましょう!!」


「せっかく放課後に思い人を訪ねてくるという乙女の憧れを叶えているのに。ヤマモリレアピーチちゃんは冷たいな……。わたくし、寂しいよ? そっか。SPのみんなに迎え頼みますね」



「ゆっくりしていってね!!」

「ゔぇ。ピーナッツクリーム野郎が出た。秀亀さんのヒデキさんはしょせん乳に屈するペソピンポコだったんすか」


 違うよ!

 権力に屈してるんだよ!!


 ああ! テレパシー少女、早く帰ってきてくんねぇかな!!



 茉莉子は15分ほど前に「ややっ! ピザポテトがなくなりましたよー。もぉー。最近、なんかまたサイズ小さくなりました? あたし、おつかいしてきます!!」と言って、千円札握りしめて出て行った。


 10歳児の頃とやってること変わってなくてほっこりしたけど!

 帰ってきて!! 早く!!



◆◇◆◇◆◇◆◇



「……どぞ。マグマってるティーっす」

「ありがとう! ヤマモリレアピーチちゃん、家庭的なんだね!!」


 桃さんが手際よくうちの安い湯呑を食器棚から取り出して、小春ちゃんがくれたクソ高いお茶を淹れてくれた。

 やっぱりいいお嫁さんになるよ、桃さぁぁぁ熱いっ!!!


 煮えたぎってんじゃん!!


「いただきますね」

「いや! 萌乃さん! ストップ!! 火傷するから!!」


「ほーん。秀亀さんはお嬢の唇にムチューすか。そっすね。ウチの唇なんて、ガチャガチャでウマ娘の人形狙って、呼んでねぇのに出てくる外れのスライムみたいな感触なんで。吸い付いてもパーリー始まんねっすよ。ほーん」


「……ふぅ。美味しいです! さすが、カマンベールモッツアレラ伯爵家ですね!!」

「何言ってんすかお嬢。ついに頭ん中で舞踏会始まったんすか?」


 そこでダンスしてんの、俺!!


 よく考えたら桃さんにだけ体育祭の顛末伝えてねぇや!

 けど、このタイミングで伝えたら面倒だってことくらい分かる!!



「あのね、ヤマモリレアピーチちゃん。わたくしね、小松さんにバレーボールを握られたの。あ、ここで言うバレーボールって胸のことなんだけど。体操服越しだよ? けど、スポーツブラだったから柔らかいバレーボールだったと思うの」

「……ジンバブエドル野郎」


 どうすりゃ良いんだよ!!

 だって事実だもん! でも、そこには善意しかなかったのよ!?



「ずっと気になっていたんだけど。ヤマモリレアピーチちゃんは小松さんとどういうご関係なのかな? 雇われメイドさん?」

「カチーンっす。カチンカチンチンチンっすわ」


 レアぴっぴ! さっきからセリフが危なくなってるから!! 落ち着いて!!


 そのレアピーチさんは、覚悟を完了させた顔でハッキリと言い放った。



「……セックスフレンドっす」

「何言っとるんだ、レアピィィィィチ!!!」


 もうヤダ! まぢ無理!

 俺の家ですら安全地帯じゃなくなり始めた!!


「だ、だって、しゃーなしすよ。明らかにお嬢、秀亀に惚れぴっぴじゃねっすか! ウチ、お嬢様学校で落第して、これ以上負けを拗らせたくねっす!! よっしゃ、抱いてくだしぃー!!」

「落ち着きなさい。ご両親呼ぶよ?」


「盛り上がるだけすよ?」

「くそっ!! ご両親の性の乱れが深刻なご家庭だった!!」


 正面を向くと、大きな瞳を輝かせて、大きなお胸を寄せておられる萌乃さん。

 頼む。


 まともな感性持っててくれ!!


「しゅ、しゅごい……。本当に一夫多妻なんですね……!! 頑張らなくちゃ!! わたくしの事は、気軽に萌乃と呼び捨てで。いえ! もえもえとお呼びください!!」


 茉莉子。帰って来てくれー。

 おじさん、このままだと死ぬよー。

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