第52話 助けて、ぼっち警察!!

 教頭先生の元へ向かい、まずは被弾した背中の傷をお見舞い申し上げた。

 続いて、新菜の入校の許可を求めたのだが。


「その方はどういったご身分の方ですか?」

「え゛っ」


 ここ、治外法権下のスーパーお嬢様学校だった。


 ぼっち警察の管轄外なんだ!!


 だが、俺のピンチを救ってくれるのはぼっち警察だけ。

 新菜をどうにか侵入させないと、俺が死んじゃう。物理的に!!


(むっふっふー。お困りのようですね! おじさん! マリーにお任せです!!)


 マリーさん、ついて来たんだ。

 いつになく協力的じゃないか。


(マクドナルドってステキですよねー! 新菜さんはとってもいい人です! おじさんがいない時に遊びに来たら、だいたいお土産に買ってきてくれるんですよー!! ナゲットとポテトの二刀流!! じゅるり)


 ばあちゃん。

 茉莉子がムチって来たの、俺のせいだけじゃねぇと思うんだ。


 御亀村ってジャンクフードなんか手に入らなかったじゃん。

 野菜食わねぇけど、高カロリーのものも食べてなかった茉莉子がさ、都会で乱れた食生活に快楽を得るようになってんの。


 これ、俺が悪いの?


 だが、ハンバーガーが食いたい今日のマリーさんは賢い。


「教頭先生。わたくしの祖母は学院長ですわよ」


 こいつ!! ばあちゃんの威を借るまりっぺに!


「ま、まさか、小松さんのお知り合いということは……!?」

「ええ。伯爵令嬢ですわ」


「そうでしたか! いやはや、そうでしたか!! さぞかし御高名なのでしょうなぁ」

「ええ。もちろんですわ」


「お名前を伺っても?」

「ええ。…………ええ?」



 やっぱりマリーさんは茉莉子だなって!

 このアホっぽい笑顔、安心するよね!!



「あー。えーと。あのー」

「お名前を呼ぶのも憚られるご身分なのですか!?」


「そ、そうです!! ええと、地中海の左端にある海の!」


 まりっぺ。地中海の左にはティレニア海があるけどね。


「ぴ、ピラニア海のもっと左に!!」


 端にはジブラルタル海峡があるよ。

 もう海ないよ?


「左に行ってから、Uターンしてちょっと行ったところにある島に住む、大貴族なんです。ええとですねー。そう! グーテンモルゲン伯爵家です!!」


 まりっぺ。それ、ドイツ語で「おはようございます!」って意味なんだわ。

 何よりね。



 ドイツは地中海に面してねぇのよ!!



「……き、聞いたことがあります! ええ、もちろん! 存じ上げていますとも!!」

「で、ですわよねー。おほほほほー」


 教頭先生がばあちゃんの霊圧に屈して、マリーさんがまた面倒な設定を生み出した。

 校門に向かうと、グーテンモルゲン伯爵令嬢が自転車こいでやって来る。


「すまん! 新菜!!」


 事情を話して、ごめんなさい。

 続けて助けてください、お願いします。


 俺という男の底が知れる。

 家の近所の用水路より浅い。


「おっけおっけ! ぼっち警察に任せとけー!! 秀亀はわたしの親友じゃん? まりっぺはわたしと同じメーカーの下着使いじゃん? そんなヤツらのピンチは放っておけねぇぜー!! あ! どーも! グーテンモルゲンでーす!!」

「ドイツの人が挨拶してるみてぇになってるけど!! すげぇ! 押し通った!!」


 新菜さん、喜津音女学院の城門突破をキメる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「それでですねー。おじさんがやっちゃったんですよー。はむはむっ」

「すみません、新菜さん。私までご馳走になってしまって。……これがシェイク!! じいや! これと同じものを作らせててください!! 村越堂の新商品にします!!」


「ヤメとこう、小春ちゃん。いくら村越堂でも、マクドナルドホールディングスは相手が悪い。今度ね、豆乳のプリン食べさせてあげるから」

「いいんですか!?」


「マリーも食べたいですぅー!!」

「マリーさんにゃ必要ねぇんだよ」


 手早くてりやきマックバーガーセットを食べ終えた新菜は俺に命じる。

 今日はもう「イエス・ユア・ハイネス」としか答えないの、俺。


「そのロリ巨乳ちゃん、連れてきて!!」

「あ゛あ゛! 不敬だぞ、新菜!? すげぇご身分の方なんだよ!!」


「そうだー!! わたしは婦警!! ロリ巨乳は確かに身分高いもんねー。まりっぺ、背が高いから年齢的にはロリ巨乳なのになれてないし。はい、呼んできて!」

「イエス・ユア・ぼっち警察……」


 近衛宮さんを捜したところ、すぐに発見できた。

 あの子、常にちょこまか動きながら仕事してるんだよ。


 大したものだ。

 バイト戦士の俺が太鼓判を押しちゃう。


 やんごとなき身分なのに、偉いよね。


「あの。近衛宮さん? ちょっと良いかな?」

「小松さん! 先ほど、父に小松さんの事を紹介しました!!」


 既に手遅れだったんじゃないかしら!!


 体育館の外へとお連れすることにしたけど、多分もうダメだ。

 おしまいだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 新菜は近衛宮さんに挨拶をした。

 ちゃんと本名で。


「ご丁寧にありがとうございます。わたくし、近衛宮このえみや萌乃もえのと申します」

「よろぴく! もえもえー!!」


 新菜さんのメンタルがお化けで秀亀のヒデキがキュッてなった。

 お前、すごいな!?


 初対面で、どんだけやんごとないか知ったうえで、もえもえって呼べるの!?


「あっ! それってあだ名ですか!! 嬉しいです! わたくし、初めてです!」

「もえもえの初めてゲットだぜー!! ところでさ、もえもえ。聞いとくれよ」


「はい?」

「秀亀とまりっぺさ、実はアンビシャス皇国の侯爵と伯爵でね。で、2人は生まれてすぐ、婚姻の約束をしたのさー。家名を守るために。秀亀の家、潰れそうだから」


「そうだったんですか!?」


 俺は知らないよ!!

 確かに実家は潰れそう!!


「秀亀にはもうまりっぺがいる。分かるね、もえもえ。わたしもさ、秀亀と特別なナンバーワンになりたいと願ったこともあったんだぜー? けど、諦めたの。だって、国の未来がかかってるんだよ。秀亀のモッツアレラ家はね、アンビシャス皇国の機密を知ってるの。潰すわけにはいかぬのでござるよ。もえもえ殿。おろー」

「そうだったんですね!?」


 俺も知らねぇ!!

 新菜! 俺さ、カマンベール伯爵なのよ!!



 完全にチーズに引っ張られたよね!?

 全然別の伯爵が出てきて、秀亀どっか行ってんだけど!!



「ただ! もえもえ! 耳寄りな情報があるんだぜー。アンビシャス皇国は一夫多妻制!! 今はね、第三夫人まで埋まってるけど、第四でいい? 良ければさ、予約表に名前書いといてあげるから」


 そんな、回転寿司の客待ちを捌くシステムみたいなヤツあんの!?

 紙の時代はあれらしいね。フリーザとか書いて店員さん困らせる子がいっぱいいたらしいね。


「良いのですか!? 充分です!! 近衛宮家! カマンベールモッツアレラ伯爵家へと嫁ぎます!!」


 良くねぇよ!!

 アンビシャス皇国の憲法は厳格なヤツだから!!


 あと俺の名前がついにチーズとチーズのフュージョンしたんだけど。


「秀亀ぃ。ここはこうでも言っとかないと。死ぬんでしょ? 死んだらもう、新菜さんの横乳をチラ見できないぜー? 今日のブラは千円ぽっきりの庶民派だぜー? 庶民派って落ち着かない?」

「近衛宮さん! なんだかよく分からんけども、俺に早く幻滅してね!! それまで仲よくしよう!!」


 こうして喜津音女学院の体育祭は終わった。

 俺の家に浴室乾燥機が搬入されて、なんか面倒事が増えた。

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