第49話 喜津音女学院の体育祭!! 張り切りマリーさん!!

 今日は木曜日。

 講義が2限からの日なので朝はのんびり、コーヒーとか飲んじゃう。


「本当に来ないんですかー? ねーねー。おじさーん? ホントのホントですかー?」

「行かねぇって。大学もあるし」


「おじさん? 講義が大事なのはよく分かります。そんなキッチリしたところもあたしは好きです。ですけど。ですけどですけど! おじさん! 喜津音女学院の体育祭は年に1度なんですよ!?」

「おう。日本史の講義受けながら応援してる!!」


「……おじさん。考えてみてください。全方位がお嬢様の女子校で、体育祭ですよ? おじさんは立ち入りが許されている健全な20歳の男子ですよ? あっちやこっちで体操服姿の女子高生たちが、一心不乱に運動するんですよ? 茉莉子リサーチで、お嬢様の警戒心は極めて低いことが分かっています。さらに、普段から男の人が入れないという油断があるので、かなりガードが緩いです。そして体操服。おじさんの好きなブルマじゃないですけど、ピタッとした短パンですよ? ねぇ、おじさん?」



「俺にとってその情報が全て毒だとなぜ分からんのかね、まりっぺは!!」

「えー!! 来てくださいよぉー! マリー・フォン・フランソワが、このたわわなボディを惜しみなく躍動させて、大活躍するんですよぉ!?」


 マリーさん以外の数百人の女子も躍動すんだよ!!

 ストレスで枯れるわ!!



 確かに、認めよう。

 俺の部屋には宝物の本がある。


(桃さんのお父さんのヤツですか?)


 あんなもんまで宝物にしたら、俺の部屋は財宝しかなくなる。

 俺のトランクスとかだって時価が上がるわ。


(あー。じゃあ、女の子が絶妙に薄着で、でも18歳以上の括りがない、おじさんみたいな低刺激を求める童貞にも優しいグラビア写真集ですかー!!)


 そうだよ!!

 布面積の広いビキニとかの写真集がおじさんにとって最高のバランスなの!!


 写真だから耐えられるの!!

 動くとアウトなの!!


 DVDで無理だったんだから、実物とか絶対に無理でしょうが!!


(あー。おじさん、やらしーDVDはちゃんと見るんですねー)


 おう! 挑戦したわ!!

 もう行為に及ばれたら、別世界の出来事みたいで、戦争史の資料映像見てる気分になったわ!!


 ということで、早いとこ学校行きなさい。

 あと、家から体操服で行くのはヤメなさい。


 ご令嬢がすることじゃねぇから。


「着替えるの面倒じゃないですかぁー」

「じゃあ下に着ていけよ! その上に制服!!」


「暑いですよぉー。もうそろそろ6月も近いんですよー?」

「誘惑してんのか!! 悪いがその術は俺に効かん!! ほれ、とっとと行け! あ! 着替え忘れんなよ! もう見えてんだよ! 替えの下着忘れたので、届けてくださいよぉー。とか、むちゃくちゃなテレパシー送ってくる未来が!! おら! もう用意しといた!!」


「じとー。女子の下着を勝手に用意するとか、おじさん。独占欲強いんですからー。性欲はクソザコのくせにー。あと、せっかく買った大人なヤツがいいです!」

「もうねぇよ!!」


「えっ?」



「意外そうな顔すんなよ!! 絶対に乾燥機に入れるなって言ったのに!! 買って2週間でダメにしやがって!! 2万もしたのに!!」

「おじさんなら修復してくれるんじゃないですかぁ!? 鋼の錬金術師、一緒に見たじゃないですかぁー!!」


 おじさん国家錬金術師じゃねぇからな!!

 キンブリーだってドン引きするわ! そんな依頼!!



「ほれ。ぼっち警察厳選の品だ。黒が良いとか言うから、新菜がお揃いにしといたぜーだとよ」

「むぅー。仕方がないですねぇー。ちなみにですが、体操服から透ける黒い下着がセクスィーだと桃さん情報でゲットしているので! これでみんなからマウント取るんです! んふふー!!」


 茉莉子に白いヤツを持たせて、いってらっしゃいした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 俺のスマホが震えたのはそれから20分経った頃。

 トイレの掃除をしていたタイミングだった。


 朝トイレの掃除をすると運気が上がるって小春ちゃんが言ってたからね。


「へーい。もしもし」

『おっす! おら、エマ・ワトソン!!』


 ちょっと厚かましいな! 今日のばあちゃん!

 80過ぎてハーマイオニー名乗るの!?


「頼んどいた、茉莉子の夏服の仕送り振り込んでくれた?」

『待ちな。人は何かの犠牲なしに何も得ることは出来ない。何かを得るためには同等の対価が必要になる』


 鋼の錬金術師の話するんじゃなかった。


「いや、俺が望んでるんじゃなくて。茉莉子のヤツなんだけど」

『ヒジキ。あんた、茉莉子が薄着になって嬉しかないのかい? こないだ1か月半ぶりに見たけど、なんであの子は約50日でちょっとムチムチしてんだい? そのムチムチで、ヒジキを海藻じゃなく男として慕ってくれる15歳の女子高生が薄着になるのが、嬉しかないと、あんたはそういうのかい?』


 これ面倒くせぇヤツだ。


「実は嬉しいよ!!」

『このドスケベ海藻野郎!!』



 用がねぇなら切って良いかな!?

 トイレ掃除が途中なんだよ!!



「で、本題は?」

『すぐに結論に行き着く男はつまんないねぇ。乙女ってのはね、寄り道も一緒に楽しめる男が好きなのさ』


「ばあちゃん、俺のこと好きだったの?」

『たっはー! こりゃ一本取られたわー!! ヒジキ、一本!!』


「もう切るわ」

『あのね、喜津音女学院の体育祭の補助に行っとくれ。毎年、事故防止のために外部からメンズを雇うんだけど。よく考えたらあたしゃ可愛い孫がいたよ! 使い切りの筋肉自慢がさ!!』


「その言い草だと、俺がその依頼を受けたら1週間は具合が悪くなることを想定済みだな? ばあちゃん。いくらなんでもその手は食えねぇよ」

『……浴室乾燥システム』


「えっ!?」

『梅雨が来るねぇ? ヒジキは良いだろうさ。適当にタンクトップでも着て、腕に恐竜のタトゥーシールでも貼れば立派なワイルド海藻の出来上がり。女子の服はねぇ。乾燥機がダメなヤツ多いよねぇ。下着も、インナーも、制服だってそうさ。部屋干しすると、なんか室内も嫌なにおいするし、生乾きの服を茉莉子に着せるのも気の毒だよねぇ。……偶然、施工業者の予約が取れてんだよ。明後日に工事始めて2日で終わる。快適だろうねぇ。梅雨のお洗濯事情がさ』



「今回だけだかんな!! 勘違いすんなよ! ばあちゃんの誘惑に負けたんじゃなくて、女子高生の体操服姿見てぇだけだかんな!!」

『行きなさい、ヒジキくん。誰かのためじゃない。ヒジキ自身の願いのために、……ツンデレで男子の欲求建前にしてくるとか、うちの孫はすげーぜ!! ぜってぇ仕事してきてくれよな!!』



 電話を終えた俺は、静かにジャージに着替える。

 喜津音大学の指定ジャージだからフォーマルなヤツ。


 俺の持ってるジャージの中で1番高いし。


「……胃薬飲んで、冷えピタ持っていこう」


 当然、自分用である。

 あと、絆創膏とか包帯とか消毒液とか、これも全部秀亀のための装備。


 それでは、お嬢様女子校の体育祭に行ってまいります。

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