えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第48話 小春ちゃんのおひとりさまチャレンジ ~田舎者とは違うのだよ、田舎者とは~
第48話 小春ちゃんのおひとりさまチャレンジ ~田舎者とは違うのだよ、田舎者とは~
小春ちゃんを窓際のお席へとご案内。
日曜日の昼時ということともあり、うちの店が珍しく混み合っている。
何という間の悪さだろうか。
「わー! これがファミリーレストラン!! 前にお邪魔した時は貸し切りみたいでしたけど、すごく熱気がありますね!! ひゃっ!?」
小春ちゃんの足にどこぞのキッズが衝突する。
あろうことか、ごめんなさいも言わずに笑いながら走り去る。
「……じいや殿」
「ええ。セバスチャン。やってしまいなさい」
「ボス。躾けて来て下さい。令和のご時世、よそ様の子供を叱責するのは色々と問題になる可能性があります。ですが、子供の命を守るためならば致し方ないかと」
「心を鬼にして叱って来るよ。小松くんはお二方を引き受けてくれるのかい? やっぱり君は頼りになるなぁ。時給、50円上げておくから!」
店長がキッズに「お店で走り回っちゃダメだよ。人にぶつかったら謝らないとね」と諭している間、俺はセバスチャン良男さんに「その手刀をしまってください。日本ではそれをすると実刑です。パチンコできなくなりますよ」と諭す。
店長! やっぱ変わってください!!
「これがメニュー!! カラフルですね! どれも美味しそうです!」
「お嬢様。僭越ながら、このじいが。まずは毒見を仕りましょう」
「あ。そういうの大丈夫なので、じいやはセバスチャンと一緒にあっちの端の席でくつろいでいてください。秀亀さんのお店で変なものが出てくるわけないじゃないですか。私のお兄さんに無礼ですよ。ごめんなさいして、あっち行ってください」
「ははっ。カマンベール伯爵。かような非礼を私の首ひとつで手打ちにして頂けるとは思っておりません。お望みをおっしゃってください。このじい。オーダー通りの凄惨な最期を遂げましょう」
「店長! ドリンクバー! あと、チョコレートパフェを!!」
「よし来た! 厨房は任せて!!」
「じいやさん。小春ちゃんのために庶民の甘味を嗜んでください」
「おお……。カマンベール伯爵、なんと慈悲深い……!!」
「ヒジキ様。私、チキン南蛮定食とシーザーサラダ。あと、ドリアもよろしいですか?」
「よろしかないですよ? 良男さんは元が庶民で、今は債務者ですよね? 自分で食ってください。油断すると厚かましいとこ出て来るな、この人!!」
これで執事コンビは問題ないだろう。
よし、小春ちゃんのところへ戻ろう。
「あなた、席を変わってくれる? 若いんだから、おばさんたちに融通利かせなさいよ。綺麗な服着てるのに頭悪いわねぇ」
おい、なんだこのババアたち! うちの店の客、今日に限って民度低いぞ!?
セクスィーな制服に惹かれて来る羽振りの良いおっさんとかオタクはどこ行ったんだよ!!
「お客様。申し訳ございませんが、当店、横暴な振る舞いをされる方にはご利用を遠慮して頂いております。当店から少し歩くと大手のファミレスチェーン店がございますので、そちらへどうぞ」
た、高柳さん!!
「なによこの店! 2度と来ないわよ!!」
「店長! ちょっと厨房から出て来て、塩! 塩撒いて!!」
店長と入れ替わりに高柳さんが「私、厨房入りますね」とウインクして颯爽と去って行った。
やだ。好きになりそう。
「んー。悩みます。あの、秀亀さん。こちらの濃厚ミートソーススパゲティと、オリジナルミートソーススパゲティって何が違うんでしょうか?」
「……味の濃さかな?」
「ですけど、濃厚の方がカロリー低いんですよ。これって不思議ですね。んー」
「…………どっちも食べるのは苦しいだろうから、半分ずつ用意しようか?」
「そんなことができるんですか!?」
「小春ちゃんだけの特別だよ! うふふ! 大事なお客様だからね!!」
小春ちゃんの笑顔が弾けた。
「そんな、私なんかのために、怒られませんか!? けど、えへへ。嬉しいです。特別って言われるの。なんだかとっても!」
「店長! もう塩は良いんで! ホールお願いします! 俺、厨房入りますから!! では、小春ちゃん。しばらくお待ちください。何かあったらあのおじさんに言ってね。持ち得る全ての手段を使って解決してくれると思うから!」
俺は厨房に入り、高柳さんに先ほどのフォローのお礼を簡単に済ませる。
濃厚に済ませたら具合悪くなって、濃厚ミートソーススパゲティどころじゃなくなるから。
◆◇◆◇◆◇◆◇
美味しいパスタ作ったお前と言えば俺のこと。
パスタ茹でて4年半。
耳たぶの硬さだけでも5種類茹で分けられるからね。
「お待たせいたしました。こちら、小春ちゃんの特別メニューです」
「わー!! ありがとうございますぅ!!」
こんなにピュアな笑顔の小春ちゃんを見られるのはいつ振りだろうか。
「特別」という言葉には魔法が掛かっているとは、最近読んだクソみたいな本に書いてあった一文である。
著者は
桃さんのパパピである。
一休さんだからって、てめぇの娘の名前にトンチ利かせなくて良いんだよ。
前回の授業の時に「パパピが持ってけってしつこくオフェンスファウルしてくるんで、持って来たんすけど。細かくちぎって捨てるっすね」と桃さんが取り出した、『ワイが千人の女をパックンチョした伝説』とかいう、タイトルで昏倒しそうになる自伝を頂いた。
だが、俺は貧乏性なので目に見えるクソでも、つい読んでしまった。
大変結構なクソだったが、4章の「女は特別って言えば今夜はパーリーナイッ!!」の項に書かれていたのが、さっきから俺が実践しているスキル。
パパピの本、ためになるわ。
昼時を過ぎると日曜だろうが問答無用でガラガラになる店内。
俺は小春ちゃんに付き合って、テーブルでコーヒーを啜っている。
「美味しかったです! 秀亀さんが作ってくれたからですかね? ふふっ!」
「小春ちゃんの事だけを考えながらパスタ茹でたからね! はっはっは!」
これは本当なんだから、仕方ない。
店長が「私ね、ストレスで胃が痛い」とか言って、1時間で痩せたんだもん。
もうこはるん以外の事は考えられないんだよね。
「初めてひとりで外食をしてしまいました……。私、少し大人になれたでしょうか? マリーちゃんと一緒にいると、なんだか自分が子供だなって思う事が多くて」
「え? マリー、独りで外飯できないよ? 家でもカップ麺しか作れないし」
今も桃さんに世話されてるし。
「そうなんですか!? あっ! じゃあ、じゃあ、もしかしてマリーちゃんに勝っちゃいました!? 私なんて、個性もないし普通の女子なので。こんな小さなことでも嬉しくて。やっぱり、親友のマリーちゃんとは対等でいたいので! って、おこがましいですね。ふふっ」
なにこの可愛い子!! 今すぐ妹にしたい!!
それからデザートにバニラアイスをサービスして、お会計をなんか見た事ないクレジットカードで済ませて小春ちゃんは帰って行った。
「また来ますね!」と笑顔を見せて。
「小松くん……。あのお嬢様、また来られるの?」
「あ。俺、その時は最優先でヘルプ入りますから」
俺の時給が1日で150円アップした。
誤用だろうとなんだろうと、5月の第2日曜日。
今日を小春日和と呼ばずして、なんと名を付けるのか。
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