えっ!? 学校ではマリー・フォン・フランソワって名乗ってるの!? お前の名前、小松茉莉子じゃん!! ~同居し始めた田舎育ち女子は見栄っ張り拗らせてて、テレパシーが使える~
第44話 キャンパスライフと新菜さんと下着と言う名の爆弾 ~約束された爆発~
第44話 キャンパスライフと新菜さんと下着と言う名の爆弾 ~約束された爆発~
喜津音大学はかなり規模が大きいため、キャンパス内に学食が2つ。
カフェが3つ。軽食を扱う売店が4つある。
その中から週と時間を加味して、常に人の少ないポイントを選び出せるかどうか。
これは非常に重要な資質であり、一歩間違えるだけでリア充に挟まれてきつねうどん啜ることになったり、女子のティータイムのテーブルの端っこに相席してサンドイッチをぼそぼそ食う事になりかねない。
そうなった場合のダメージは計り知れず、最悪のケースだと午後の講義に出られなくなる。
メンタルというのはそういう風にできているのである。
心理学で覚えた。
「秀亀を捕捉!! わたしの検問を避けたな!!」
「出たなぼっち警察。だって天気良いし。学食はなんか若い子が多かったし」
「あー。なんか今日、ゼミの選考あったらしいよ」
「それで2年生が山ほど昼飯食ってたのか」
「ふむふむ。秀亀は弾き出されて、こんな僻地でおいなりさんとたまごサンド食べてるんだなー。悲しきかな、哀しきかな。どっこらせ」
「悲しいを2つ使い分けてくんのヤメて? いや、使い分けてねぇ! どっちも使ってやがる! 追撃してくんな!! あとな! このメニューには理由がちゃんとある!!」
「あー。おけおけー。どうせ、目の前で女子に目当てのサンドイッチをゲットされて、でも既にたまごサンドを手に取ってたから。やべ。俺が1度取ったもの棚に戻したら周りに迷惑かかるじゃん。とか考えた結果、その分動作がさらに遅れて、気付いたらおいなりさんしか残ってなかった、と」
ぼっち警察ってすげぇわ。
「新菜はわざわざ売店で飯買って、俺を探して来てくれたの? なに? 俺のこと大好きじゃん?」
「わたしさー。猫カフェ行くのよ、たまに。でね。端っこでビクビクしてる子を見つけるとほっとけなくてさー。オヤツと猫じゃらし片手に這いよってしまうのだよ」
「あー。それ分かるわー」
「ごめん、秀亀。知った風な口利かないで? 今の、秀亀を傷つけないように頑張って遠回りした比喩だから。なのにさ、わたしサイドにいるみたいな面して、それな! とか言われると、新菜さんも憤慨するなー」
「えっ。なんかごめんなさい」
そう言いながらも、新菜は隣で生姜焼き弁当を広げて「いただきます」と手を合わせる。
こいつ、いいヤツなんだよ。
ちょいちょい悪質なプレーをしてくるし、ウザ絡みも多いけど、新菜がいないと俺のキャンパスライフは成り立たない事はこの2年で証明が完了しているのだ。
今日だって、わざわざ俺がいる場所を探して、一緒に弁当食ってくれてるし。
「あ。勘違いしないでよね」
「なに? 俺、かなり好きよ。世話焼きツンデレさん」
「わたし、学食でご飯にするつもりだったんだけどさ。前にトラブったグループいたから逃げて来ただけだし。へへへっ! あっしもぼっちでした!!」
「本当に勘違いしてたわ。どのトラブル? 教室でおとなしい女子のバッグにいたずらしてたギャルを見つけてハイキックしたヤツ?」
「それとは別だなー。んっとね、英会話のクラスで松重くんっているじゃん?」
「ああ。柔道部のね。彼からは俺と同じオーラを感じるんだよな」
「松重くんのことをさ、あいつ臭くね? とか言ってる女の子たちがいたのさ。で、わたしが机に置いてあったスマホを落としてさ。謝りもしないで舌打ちしたのね? とりあえず、女の子のバッグ掴んで遠投してやったった!!」
「松重くん関係ないじゃん。まあ、救われてはいるか」
「んにゃ? 松重くんは彼女が来て、いい匂いだよ? って、あまーく慰めてもらってたよ」
「俺、もう松重くんとはぜってぇ二人組にならねぇわ!!」
新菜はいつの間にか弁当を完食して、俺の方に笑顔で手を差し出していた。
嗅覚もすごいんだよ、こいつは。
「ほい。サーターアンダギー。茉莉子のオヤツに昨日作ったんだよ」
「きたー!! 秀亀捕まえるとだいたいボーナスアイテム手に入るから好きー!! これも松重くんがぼっち飯してるおかげだわー!」
「……あ。分かった。松重くんから松重豊さんにたどり着いて、孤独のグルメでゴールしたな? 言っとくけど、孤独のグルメってぼっち飯するドラマじゃないよ? 敢えて独りでご飯楽しむドラマだから」
「……マジで?」
俺もおいなりさんを食べ終わったので、お茶で喉を潤した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
5月上旬で天気が良い日はもう、ベンチに座っているだけで満たされる。
午後の講義、出たくないな。
「おっ! 忘れてたぜー!! はい! 秀亀!! プレゼント!!」
「なんだよ。どうせしょうもないもの……お前、これ。仮に俺が学食で飯食ってても出してきたな?」
「おうよー!! まりっぺの旅館に忘れて行った服と下着セットだぜー!!」
「それに関してはありがとう! けど、お前!! 透明な袋に入れてくんなよ!!」
「大丈夫! ちゃんと洗って来たから!!」
「俺と見えてるセーフティーゾーンの景色が違うね!? お前から透明な袋に入った女子の服と下着手渡されたら、ぼっちから変態に格上げされるんだわ!! 下着を1番上にしてる辺りになんか悪意を感じるし!!」
とは言え、茉莉子の服って結構高いからな。
これは助かる。
「ブツの確認はしねぇのかい? 旦那ぁ?」
「しねぇわ。ベンチに座って5月の日向を満喫しながら、なんで15歳女子の下着の確認せにゃならんのじゃい。……あいつ、黒い下着してんの?」
「およ? あ! ごめん! それ、わたしのだわ!!」
「なんで!?」
「体育あったじゃん? 着替えたんだよねー。つまり、使用済みの方だ!! たははー! これは失礼!! まあでも、わたしと秀亀の仲じゃん? 今さら恥ずかしがることないし?」
そこで俺は気付いた。
左から女子が2名、この気配は新入生か。
キャンパスの雰囲気を味わいながら歩いて来ている敵影を捕捉した。
いや、待て。
右からも2、いや、3名!?
まずい!!
「分かった! 早く茉莉子のヤツくれ!」
「へいへい! 下着に飢えた秀亀を生殺しにしておくのは気の毒だかんねー!! ええと、ちょい待ちー!」
「あ゛っ! やっぱ今はいい! 5分後で! ねぇ! 新菜!? 新菜さん!! 今はダメよ、マジで!! 女子に挟撃されてるから!!」
「おっ! あったー!! ででーん!! 純白の下着セットぉー!! いやはやー! このサイズ感で白というのがなかなか乙ですなー! 秀亀はどっちが好きー? わたしの黒かしら? まりっぺの白かしらー? 答えろよー!! ヘイヘイ! ビビってんのかー?」
俺の前を、怪訝な表情の女子が1人。
怯えた表情の女子が1人。
半笑いの女子が1人。
ゴミを見るような目をした女子が2人通過して行った。
「およ? ヤベーぜ! 3限始まる! 秀亀の大好きな心理学じゃん!! 行くぜー! どしたん? なんか元気なくなってない?」
「……なんでもねぇ」
その日の講義の内容は覚えていない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おじさん? なんか最近、毎日ぐったりしてません? あっ! あたしの服!! 新菜さんが持って来てくれたんですねー!! わー!! 良かったですー!!」
「……おじさんはね、下着が嫌いになったよ」
今日の茉莉子は新菜にお礼の電話をするのに夢中で、優しくしてくれなかった。
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