第42話 桃さんの受験生に休みはないっす ~カラオケ編~

 ついに連休最終日。

 今日は朝からみっちり仕事。


 バイト関連はぼっち警察によって封鎖されてしまったが、俺の家がステージの仕事までは手が出せまい。

 今日は桃さんの家庭教師。


 もう常に俺の家で個別指導してるけど、面倒なので家庭教師で押し通す。


「さーせん! ウチなんかが秀亀さんのストゥロベリィーな時間奪っちまって」

「いやいや! 俺こそ申し訳ない! 家庭教師が1週間もできなくて! 全部こっちの都合なのに!!」


「茉莉子さんとのメモリーカードじゃねすか。しゃーなすぃーっすよ。ウチなんか後回しておけまるっす!」

「今日はもう、1日ガッツリやるから!」


「茉莉子さんは出家したんすか?」

「家出じゃなくて? あの子、世俗にまみれてるよ? 今日は小春ちゃんたちスケボーするんだって」


「喜津音女学院、ウチが通ってた頃と劇的ビフォーアフターしてんすね」


 茉莉子が「皆さんがですねー? あたしがスケボーできるって言ったら、教えて欲しいって聞かなくてですよー。もぉ。困りましたねぇー。んふふ」とウッキウキで出かけて行ったから、多分学院がまたマリーさん色に染まるだけだと思うんだ。


「さて! 今日は英語だ! 実はテストを3枚ほど作っといたんだよ。これ解いてもらって、できないところを洗い出して行こうか!」

「マジすか!! ウチみたいなもんのために……!! 秀亀さん、マジヒデキっすね!!」


 過分なお給料頂いているからね。

 当然なのだよ、桃さん。


 1時間で全ての回答欄を埋めて見せた桃さん。

 最初は悩んで時間切れになっていた事を考えると、それだけでも大進歩。


「よし。採点するから、ちょっと待っててね」

「うぃっす! じゃ、ウチは敷居に溜まった埃でも掃除してんで! よろよろっすー!」


 もう時間の潰し方が良妻のやる事なんだよ……!!

 ギャルらしくスマホとかいじっててくれればいいのに!!


 急いで採点を終えたが、急いだせいでミスをしたらしい。

 もう1度最初からだ。

 俺もまだまだ甘い。


「桃さん」

「うぃっす」


「カンニングしてないよね」

「うぅ。ショックっすよ、ウチ。竹山さん疑われたのは良いすけど、マンツーマンディフェンスでどうしてウチのこと見てねぇんすかぁ……」


「あ! ごめん! ごめんね! ……竹山さんってカンニングね!! いや、だって!!」


 俺はテストを3枚ちゃぶ台に並べた。



「全部100点なんだもん!! おかしいじゃん!!」

「マジすか!! へー! そうなんすかー!! しゃらぁぁい!!」


 嬉しそうな桃さんを見て、やっと気付いた俺ってばホントばか。



「連休、ずっと独りで暗記してた?」

「うっす! 暇を持て余しぃーだったので!!」


「遊びに行ったりとかしてないの?」

「受験生に休みはなしっすよ! 秀亀さん!! ……あと、ウチ友達とかいねぇーんで」


 今日の桃さんのファッション。


 なんかテカテカした、革っぽいホットパンツ。

 ダボダボしたセーターがお尻まですっぽり隠しており、タイツで太ももはほっそり。

 ネックレスでオシャレ度アップ。


 普通に可愛いギャルなんだよ。



 それが俺と同じぼっちとか!!

 しかも俺だけ、茉莉子と帰省したり旅行したり!!


 罪悪感がマジヒデキなんだけど!!



「桃さん。カラオケ行こうか?」

「ペソったんすか、秀亀さん?」


「だって! そんな可愛くオシャレしてるのに、俺の家に来るだけなんてもったいないよ!!」

「うぉぉ……。いまなり褒めてくんのヤメなーっすよ。慣れてねぇんで。お腹痛くなるっすわ」


「大丈夫! 俺の想定より学力テンアゲだから!! 気分転換しよう! メンタル管理なら任せろ!! 俺、心理学専攻してるから!!」

「う、うす。マジすか。初デートなんすけど。ママピにラインするっすわ」


 何をされても構わない。

 俺はこの百億点の優等生にゴールデンウイークの思い出を作って欲しい!!


 玄関に鍵かけたら、さあ出発だ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「らっしゃーせー。お独りさまっすねー」

「いえ。2人なんですけど」


「……サービスで、のちほどケーキお運びしゃーす。いつものお部屋にどーぞー」

「え。あ、はい」


 行きつけのカラオケ店『こっちくんな』にやって来た。

 冗談みたいに料金が高いので、いつもガラガラ。


 ぼっちのためにあるカラオケ店だと俺は確信し、茉莉子と暮らすまでは週3で通っていた。

 大丈夫、年間パスポートでむしろ得してるから!


「やべべっすわ。カラオケとかバージンなんすけど!!」

「えっ? 桃さんギャルなのに?」


「うす! ギャルモドキなんで! ぶっちゃけ、2人以上のキャラオケとはキャパいっす! かと言って、ソロカラオケはハードルバリ高っす! さすが秀亀さんですわ」

「……今度から、たまに一緒に来ようね!!」


 部屋に入ると、桃さんは落ち着きがない。

 分かる。


 俺もサークルでカラオケの強制イベント発生した時とか、そんな感じになるもん。


「まず俺が歌うかな! なにかリクエストはあるかい?」

「うおっ、眩し!! なんすかこの、ウチのハートを察したイケメンプレー!! じゃ、リクあるっす! ママピから、ハイジのオープニング歌ってもらえって!」


「おお、意外な選曲だね? ちなみに、なんで?」

「完璧に盛り上がりんぐな合いの手があるらすぃーんで! ウチ、挑戦します!!」


 なんか知らんが、やる気があるのは良いことだ。

 生徒のモチベーションを下げるのは愚策。

 俺は速やかに曲を予約した。


 イントロが流れ出すと「わー。オープニング映像だぁ」と2人で感動した。

 秀亀。行きまぁす!



「口笛はなっぜー! 遠くまで聞こえるのー」

「知らんけど!」


「あの雲はなっぜー! わたーしを待ってるの!」

「知らんけど!」


「おしえてー!」

「うるせぇ!」


「おじいーさんー!!」

「知らん!」


「おしーえてー!」

「ググレカス!!」


「おじいーさん!」

「知らん!」


「おしえてぇー!! アルムのもみの木よぉー!!」

「黙れ!! ふぅぅぅー!!」



 ちょっと1回止めるね。



「どっすか? テンアゲっすか!?」

「テンサゲだよ!! なんでおじいさんとアルムの山に全否定されてんの!? ハイジがじじいに唾吐いて、自分からフランクフルト行くよ、こんなの!!」


「おかしっすね。ママピはパパピとクソ盛り上がったらすぃーんすけど」

「それ、どこでどう盛り上がったか聞いてくれる?」


 桃さんは「おけまるっす」と言ってスマホをスッス。

 すぐに笑顔で教えてくれた。



「パパピがギャルソンしてるお店で、ママピがシャンパンタワー注文した時に流れるボーナス曲らしいっす!!」

「合点がいったわ!! どことなくホストクラブ感あると思った!! 桃さん! 友達と行った時にこれ絶対やっちゃダメだからね!?」



「よく分かんねーすけど、人生の師匠の秀亀さんが言うなら、りょりょーっす!!」

「ああ! 今日は2人で来て良かった!! ん?」


 店員のお兄さんがスッとケーキを置いて「お楽しみのとこ失礼しゃーす。初めてお二人でご来店のお客様に幸あれー」と雑にクラッカー鳴らして帰って行く。


 とりあえずケーキ食って、俺たちも帰った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「おじさん? どこ行ってたんですか? なんか疲れて見えますけど?」

「ちょっとカラオケが嫌いになった……」


 俺の思考を読んだのか、この日の茉莉子はいつもより優しかった。

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