第41話 思い出を増やしたマリーさん、我が家への帰宅!!

 食事を終えた俺たちは、1時間ほど宴会に付き合って部屋に戻って来た。


「ふぃー! カレーは美味しかったですし! おじさんのカラオケメドレーまた聴けましたしー!!」

「その話はヤメて!!」


 丸岡先生がバスの中で歌い続ける俺を気に入ってしまったため、「秀亀くんにひとつ歌ってもらおうじゃないか!!」と言い出した。

 ずいぶんと顔が赤く、アルコールの匂いが漂っていたので嫌な予感はしていたが。


 スマホがピロンと鳴る。


『ぼっち警察より各員へ! 秀亀の秘蔵ヒトカラメドレーはこちらのファイル!! 上から、恋におちて~Fall in love~! ラヴ・イズ・オーヴァー!! チェリーボーイ!! 哀しい歌ばっかりだぜー!! 保存よろー!!』


 共有されたよ。

 だって! みんなが次々に曲を予約するんだもん!!


 おい、ちょっと待て!!



 チェリーボーイってなんだ!

 俺が歌ったの、スピッツのチェリーだろうが!!



「まあまあ、おじさん。落ち着いてください。皆さんがおじさんの歌声を聴いて盛り上がってくれたことが、あたしはとっても嬉しいですよ!」

「マリーさんから茉莉子に戻ったうちの子が優しい……。なんで服脱いでんの?」


「お風呂です!」

「温泉行って来いよ。なんか、色々と種類あるらしいぞ? おばちゃんたちが誘ってくれてたじゃん」


「い、嫌ですよぉ!!」

「なんで?」



「……裸見られるの、恥ずかしいじゃないですかぁ」

「俺の目の前で、今まさに下着まで脱ごうとしてるヤツが何言ってんの!? 正気か!?」


 頬を赤らめながら、男らしくポンポン脱いでいくのヤメろよ!!



「おじさん。あたし、知らない人とお風呂入った事ないんですよ!!」

「そうだな。……ん?」


「はー。です。はー。もぉ、鈍感過ぎて愛おしいですよ。あたしの体が他の人と比べて変だったら嫌じゃないですか! 分かってくださいよ!!」

「大丈夫! 茉莉子の体は変じゃない! セクシー! セクシー!!」



「おじさんの中の女子の裸のサンプル! マリー分の茉莉子でしょ!! 10割あたしじゃないですかぁ!! なに急に女の体知ってます、みたいな口ぶりしてるんですか!!」

「いや、だってお前、胸デカいし。尻とかもなんかバーンってなってるし。スタイル良いんじゃないの? よく分かんねぇけどさ」


 半裸ハムスター茉莉子さんにそれから15分ほど説教された。



 「胸が大きかったらスタイルが良いって言うのは、男の人の感想なんです」とか「あたしの年頃だと、周りから嫉妬されたりするんですから」とか「あたしが胸を見せびらかして悦に浸れるのはおじさんだけなんです!!」とか「あ! あと小春ちゃんもでした!!」とか、色々とご講釈賜った。


 最後のは良くないと思うな!


 茉莉子は「もぉ! 一緒に入ってあげようと思ってたのに! なんだか恥ずかしくなったのであたしは独りで入りますから! 妄想であたしの体を好きに弄んでてください!!」と捨て台詞を残して、部屋の露天風呂に消えて行った。


 俺は冷蔵庫にビールを発見したので、テイスティングをさせてもらおう。

 だって、英語のラベルの高そうなヤツなんだもの。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 「俺も風呂入るわ」というと「バカなんですか! お酒飲んでお風呂とかダメです!!」と、急におかんになった15歳にまた怒られる。

 せっかくの露天風呂があるのに、それはないじゃないか。


 そう抗議したら、茉莉子に服をひん剥かれてから温泉のお湯を体にぶっかけられて、適当に背中とか流してもらってたら「はい! 終わりです!!」と仕上げにもう1度お湯ぶっかけられて、俺の入浴タイムは始まることなく終わった。


 仕方がないので布団を並べて寝る事にした。


(おじさん。非日常体験のチャンスでは?)


 なんでテレパシーで伝えてくるの?

 充分に非日常なんだけど。


(隣には! どどん!! 浴衣のみ! 下着を付けていないわがままボディの茉莉子さんが!!)


 それ日常じゃん。

 うちでよく見る光景だわ。浴衣じゃなくてTシャツ短パン茉莉子さん。


(何もしないんですかー?)


 ビール飲み過ぎてお腹がダブダブで、寝返りうつのも辛い。

 あと、この状況で茉莉子に手を出せる俺だと思ってるなら、お前はまだまだ秀亀のヒデキについての見識が浅すぎるな。


(非日常体験なのにですかー? こーゆう時こそ、なんかあれですよ! 燃えて来た!! みたいにならないんですか?)


 おじさんね。

 人生で1度も燃えることなく湿気ったからさ。


 一般的な20歳の童貞はさ。

 小学生の頃とかは普通に女子と会話して、なんか一緒に遊んだりしてるの。


 けどね、御亀村の秀亀世代って秀亀だけだったからね。地元でもぼっちよ、俺。

 当たり前だけど女子と接する機会なんかねぇし、そこから男子校に進学したもんだからさ、レベル1のまま大学生になった訳よ。


 分かる?

 レベル1でスライム倒すとこから始めないとダメなのに、もう今の俺のエリアにはゴーレムとかばくだんいわしか出てこないの。


 戦ったら死ぬんだよ。


「ちょっと、聞いてる?」

「……すやー」



「非日常体験の中ですぐ寝てんのは誰だよ!! ……幸せそうな顔しやがって。まあ、楽しい思い出が増えたなら良いけどな。俺も寝よう」


 ヨダレを垂らして眠る茉莉。

 それはそれで、結構可愛らしかった。



 翌朝、腹の上に飛び乗って起こしてくれたバカな子がいたけども。

 それやって良いの、軽量級の女子だからね。


 茉莉子のスタイルでやられると、鍛えた腹筋がさらに割れるんだわ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 帰りのバスの中では、茉莉子が賢くなっていた。

 飲み物は必要量を守り、窓から遠くの景色を眺める。

 スマホは触らず、本も読まない。


「秀亀くん! もう1回だけピーマン歌って!!」

「いいですなぁ! 小松さんのピーマンは実に良い! 運転もキレッキレです!」


 俺は多分20回目くらいのパプリカを熱唱していた。



 あなた方はずっと曲名をピーマンだと思って聴いてたんですか!?

 サビで思いっきりパプリカって歌ってんのに!?



 そうこうしているうちにバスは丸岡診療所の駐車場へ。

 荷物を下ろす役を引き受けて、代わりに皆さんからお土産を頂いたらいざ帰宅。


 楽しい旅行は家に帰るまで油断せずに済ませるのがマナーなのだとか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ただいまですー!!」

「誰に言ってんだよ」


「あたしたちのおうちにですよー!! この古い感じ! なかなか良いじゃないですかー!!」


 旅行から帰ったら絶対に呟く「やっぱり我が家が1番」を取られてしまった。

 茉莉子が「んふふー」とにんまり笑って、俺に言う。


「おじさん! おかえりなさーい!!」

「……おうよ。ただいま」


 非日常体験も実にいい思い出になったけども。

 茉莉子と暮らすようになってから、割と毎日が非日常なのである。


 さて、次はどんな思い出をこいつに押し付けてやろうかしら。

 まだまだ初めて経験することは山ほどあるのだから、覚悟すると言い。


 マリーさん。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あ! おじさぁん! 昨日着てた服、下着とかも全部! 脱衣所に忘れて来ました!!」


 ねぇ。

 綺麗に旅行編を纏めたとこなんだけど!?


 新菜に電話して後日受け取ることになった。

 締まらないのはいつもの事である。


 これはもう日常になってる。

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