第39話 旅を満喫中のマリーさんと秀亀くん ~マリーの会はリモート参加中~

「いやー。なにこの畳。ぜってぇ高いヤツだわ。もう寝心地が違うもん」

「あー。分かりますぅー。なんかうちの畳、牛小屋みたいな匂いするとこありますもんねー。これは心が落ち着きますねぇー」


 浴衣に着替えた俺と茉莉子。

 準備は完了した。


 とりあえず1時間ほど、畳の上に寝転がっている。

 もう幸せの絶頂じゃん。


 来て良かった!!


『おじゃじゃしゃーす。秀亀さん。茉莉子さん。まさか、まだ部屋にいたりしねーっすよね?』


 桃さんからラインメッセージが襲来。

 すごいね、まるで見てるみたい。


「あ! おじさん! あたし、自撮りします!!」

「お、いいな! よし。そんじゃくっ付くか! ちゃんと入ってる? 自撮りに加わったことないからさ。感覚分かんないわ」


「入ってないです! もぉ! いっそ、あたしのお腹に頭乗せてください!」

「なるほどな! さすが女子高生! 発想が違うぜ!! んじゃ、遠慮なく!!」


 至高の1枚が撮れたので、グループで共有した。

 すぐに反応がある。


 ふふふ。自慢してしまったか。



『クソペソ野郎が』


 おい、なんかレアピーチ語ですげぇディスられたけど!?

 何がまずかったの!?



 俺が悩む間にもピコンピコンとスマホが鳴り続ける。

 お前も随分とよく鳴くようになったね。

 バイト先のシフトの連絡以外で鳴いた事なんかなかったのにさ。


『ペソ野郎が過ぎてもう逆にテンアゲっすわ。なんでそこまでして何もなかったかのように笑顔の2人が写ってんすか? 秀亀さん、ほんの少し頭上げたら茉莉子さんのマウンテンがあるのに、そこに山があるからさとか言って見ただけで帰るとか、登山家ヤメてギャルソン始めた方がマシっすよ?』


 なんで怒られてんのか分からねぇ!!


「あたしを見ないでくださいよー。基本的に桃さんとお喋りしてる時のあたし、6割強は生返事ですもん。ギャルの思考はまだ茉莉子には早いんですぅー」

「だよなー。もう1枚撮ってみる? 構図が気に入らなかったのかもしれんし」


 部屋のドアが勢いよく開いた。


「話は聞かせてもらったぜ!! ぼっち警察だ!!」

「お前、客の部屋に突入してくんなよ。おっ。何その恰好。ちょっと可愛いじゃん」


「あー。秀亀はねー。そーゆうとこあるもんねー。だからレアぴっぴもガチギレなんよ。後ろ見てみ?」

「んあ? ああ。マリーさんがハムスターになってんじゃん。新菜、見てこれ! このふくれっ面! 立派なもんだろ? いだっ!!」


 マリーさんに後ろからプレス攻撃を加えられた。

 助けて、ぼっち警察。

 暴行の現行犯だって!


「やれやれだぜー。わたしの仲居姿見てさ、秒で褒めてくんのは嬉しいよ? で? まりっぺの浴衣姿は褒めた?」

「いや?」


 ちゃんと返答した俺を撮影する新菜。

 すぐにスマホがピコンピコン鳴りまくる。


『こちら、まりっぺの浴衣姿を褒めもせずにおとぼけ顔を披露した秀亀容疑者です! さあさあ! 意見はありませんかー! さあさあ!!』

『ペソ野郎過ぎてバオウザケルガっすわ。何してんすか秀亀さん。その破壊的な茉莉子さん見て、まさかのノーリアクションすか? ハートブレイクしてんすか?』


『あの。秀亀さんってもしかして、釣った魚に餌あげないタイプですか? マリーちゃんのチョモランマでそれだと、私なんて釣り上げられたあと。……最悪、捌かれずに捨てられますよね? はは。秀亀さん、ステキだな。はははっ』

『なんだかよく分かりませんけど! おじさんひどいですよねー!! さっきもね、胸の谷間がどうとか言ってたのに、可愛いとは言わないんですよ!!』


 マリーの会が意見交換をしている。

 こういう時にラインの会話に割って入るとろくな事がないって知ってる。


 最終的に、可愛いキャラが中指立ててるスタンプと、可愛いキャラが親指下に向けてるスタンプが山ほど貼られて会議は終わった。


「秀亀被告。これがお前の罪だぜ!!」



「えっ!? このスタンプ、全部俺に向けられてんの!?」

「あ。ダメだな、こいつ。もうさ、まりっぺ全裸になりなよ。わたしが後ろからこの童貞を羽交い絞めにしとくからさ」


 ぼっち警察がろくに取り調べもせず暴力で訴えて来る!!



「いや、待て! なに!? マリーは可愛いって分かり切ってるじゃん? そういうのを敢えて口に出すとウザいんじゃないの!? 叔父と姪の関係について、俺だってヤフー知恵袋で色々調べたんだよ!!」

「もう知恵袋見るのヤメたら? ……まりっぺ、嬉しそー。安いなぁ、こいつら。ほれ。この辺のお散歩コースの案内図あげっから。出かけてきんしゃい。まだ昼の2時だぜー? 晩御飯までずっとそのままのつもりじゃないでしょ?」



「え?」

「え?」

「うん。君たちはダメだ! 旅館に来た意味ないよ!!」



 何故かぼっち警察に呆れられて、俺たちは渋々温泉街の散策へと繰り出す事にした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「なるほどなぁ。浴衣の下にTシャツ着るんだ。タンクトップでも良いらしいけど。新菜は色々知ってるよなー」

「ちょっと暑いですけど、仕方ないですね! 小春ちゃんからですね。マリーちゃん。そのままの浴衣で外に出たら私、1週間は口利かないよ? とか、怖いラインが来たので!! お嬢様学は奥が深いです!!」


「そりゃお前。小春ちゃんにマウント取るからだろ」

「小春ちゃんからは取るマウントなんてないですよ? 成長過程に入っていませんから!」


「いや! マウントは胸じゃねぇよ!!」

「あ! そうでした!! ちゃんと謝っておきます! ごめんなさい、小春ちゃん。ちゃんとマウント隠してお出かけしてます。と! これで良しですね!!」


 スマホが鳴る。



『秀亀さん。ペソが過ぎるっす。こはるるーさんと昼飯ジャズってんすよ。今日のウチら。勘弁してくだしぃー。そろそろお嬢が舌噛み切りそうなんで』


 小春ちゃんからは無言で笑顔のスタンプが送られて来た。

 なにこれ、怖い。



 とりあえず、マリーさんもちゃんとお清楚なご令嬢になった事だし、何故か新菜に部屋追い出されたし。

 せっかくだから観光するとしよう。


「あー!! おじさん!!」

「温泉卵か?」


「木刀売ってます! 新選組の羽織も!! 買って良いですか!?」

「絶対にヤメとけ!! それ、家に持って帰って後悔する前にな、帰りの荷物纏める時にはもう哀しみとこんにちはしてるから!! 店員さんに絡まれると面倒だ!」


 おじさんが声をかけてくるが、そんなものは俺に効かない。


「彼氏! 映画俳優かと思ったよ! いい男じゃないか! どうだい? この羽織! 令和になって売ってるとこ減ってるんだよ! SNSとかにアップしてみ? すっごくバズるから! 彼女さんも嬉しいよなぁ? 令和の土方歳三の誕生だ!!」



「茉莉子! 羽織だけだからな!!」

「はーい!! お揃いですね!!」



 それから1着4000円する羽織を2つ買って、早速写真をラインにアップしたのに誰も何の反応もしてくれなかった。


「おじさん。これが既読スルーってヤツですか?」

「ひでぇことするなぁ。きっと羨ましいんだよ」


 新菜から「違う、そうじゃない」と短いメッセージが来たのは、しばらくしてからだった。

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